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38話 不穏な空気

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 他の招待客の皆様にアピールするように、大きな声でゼスティリア侯爵令嬢であるベール様と親密であると思わせる発言をするエレノア。

 ああ。成程。
 今まで幾ら招待しても来なかったベール様が今回、このお茶会に出席したから、やっと友達になってくれたと認識したのね。
 そんな訳無いのに。

「……ご招待頂きありがとうございます。突然の招待だったので、出席するのが大変でしたわ」

 1週間前に送りつけられた招待状について、嫌味を込めて発言するベール様。

「わざわざ予定を空けてまで来て下さったんですか?!すっごーい!私、嬉しいです」

 周りの他の招待客は、ベール様の嫌味に気付いていたのに、エレノアは何も気付いていないみたい。元・お義母様がふざけた招待状を皆様に送っていること、知らないのね。
 馬鹿な元・お義母様。エレノアはクリプト伯爵令嬢として最低限の礼儀は知っているから、エレノアに招待状の出し方を聞いていれば、間違いを正してくれたかもしれないのにね。もう遅いけど。

「こちらに座って下さいベール様!私の隣の席を用意しましたの!」

 嬉しそうにベール様の手を引こうと伸ばしたエレノアの手を、私は掴んだ。

「な、何するのよ!ルエルお姉様!」

「ベール様は私の友人としてついてきてくれたの。失礼な真似は止めなさい」

「っぅ!」

 すぐに怒りが顔に出るのねエレノア。
 悔しい?貴女が私から奪ったはずの友人が、また私の友人に戻っているんだものね。貴女の友人じゃなくて残念。

「ーーぐすんっぐすん。酷いですぅルエルお姉様。いつもいつも、私から全部奪って、逆らったら怒るだなんてぇ」

 観客にアピールするための泣き落としですか?大根役者過ぎて笑える。

「嘘泣きは止めなさいエレノア。みっともないわよ」
「酷い…!ルエルお姉様…!」

 自由に涙を流せるのは、貴女の数少ない特技の1つよね。悲しくも無いくせに、よくそんなに泣けるものだわ。


「まぁ、ずっとエレノア様を虐めてらしたのに、酷い言い様ですわ」
「ベール様は、エレノア様のご友人だったのでしょう?それを、ルエル様が嘘をついて、仲違いさせていたと、エレノア様から聞きました。ついこの間その誤解が解けて、今日こうしてお茶会に参加されたとか」
「それなのにベール様とエレノア様の仲を邪魔するだなんて……ルエル様は意地悪な人なのね」


 お茶会に参加された招待客から聞こえる声。
 こんな大根役者のエレノアに騙されるなんて、見る目が無いのね。
 よく見れば、元・お義父様が雇った使えない部下のご令嬢もいるじゃない……成程。そちらは完全にエレノアや元・お義母様の味方というわけか。

「ごめんなさいませ皆様!ルエルさんは皆様ご存知の通り、昔、私の息子の嫁でしたが、その時からちょっとーーねぇ、問題がございまして」

 元・お義母様も、ここぞとばかりに追撃してきますね。何よ、問題って。問題があるのは貴女達の方でしょう。


「ルエル様はこちらの妻だった頃、仕事もせず、マルクス伯爵夫人のお手伝いもされず、遊び回っていたらしいですわ」
「確かに……1度もお茶会で姿をお見掛けしませんでした。それに比べて、エレノア様はちゃんとお茶会に参加されていますものね」
「あの噂は、やっぱりエレノア様とカイン様がおっしゃっている方が正しいんですわ」


 元・お義父様に押し付けられた仕事で忙しくしていたんですけどね。私が仕事をしていたのは、事業者界隈ではとても有名なのですが……仕事をした事が無いご夫人やご令嬢には興味もありませんか。

「さぁさ!今日のお茶会は初めて、息子の嫁が出席してくれたので、私も嬉しいわー!前のハズーーいえ、嫁は、お茶会の準備どころか、参加もしてくれませんでしたからね」

 元・お母様あなたの意向もあってお茶会に参加出来なかったんですけどね。ハズレ嫁は社交の場に出るな!じゃなかったでしたっけ。
 本当に全部を自分達の都合のいい嘘で塗り固めようとされているんですね。私にあれだけお世話になっておいて……どんだけ面の皮厚いのよ。

 自分の思惑通りに私が悪く言われ、ご満悦のエレノアは、涙を拭う手の下で微笑んでいた。

 本当に私の不幸が好きね。


「さぁさエレノアさん!こんな素敵な日にいつまでも泣いていては駄目よ!早くお茶会を始めましょう」
「はい……お義母様」

 エレノアの肩に手を置き、笑顔で告げる元・お義母様。
 エレノアは涙を拭った後、まるで祈るように両手を組み、私を見つめた。

「ルエルお姉様、後でちゃんと自分の口から、全ての罪をお認め下さいね」

 全ての罪?貴女達が流した、私の悪評のこと?貴女達が自分達に都合良く捏造した話を、私が認めるの?

 涙を拭い、意地悪な姉に向かって勇気を出して意見を言う健気な妹の構図は、エレノアが思い望んだものなのでしょう。
 エレノアは周りの招待客に慰められながら、お茶会の席についた。

「……」

 私に向けられる冷たい視線。
 でも私はそれを気にせず、用意された私の席についた。
 ご丁寧に私の席の周りにはどなたの席も用意されていない。完全に一人ぼっち。

 
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