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31話 お茶会の招待状

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 ゼスティリア侯爵家でのパーティから数日後。
 動きが早かったのはクリプト伯爵だった。ゼスティリア侯爵家から抗議文が届くや否や、直ぐにルーフェス公爵家に謝罪に訪れ、慰謝料という形で幾分かの金銭を置いていった。

『嫁いだ身とはいえ、愚娘が申し訳ありませんでした。ルーフェス公爵様、ルーフェス公爵夫人』

 私自身にも丁寧に頭を下げるお父様。

『娘には無関心で愚かな父親だが、クリプト伯爵は仕事では優秀な男だ。領地も安定している』

 お父様が帰った後、メトはお父様をそう評価した。
 お父様は私に頭を下げる事に微塵も抵抗が無かった。謝罪でルーフェス公爵家を敵に回さずに済むなら、幾らでも頭を下げるだろう。
 典型的な、家庭を顧みず仕事優先の父親。
 エレノアは勿論、指輪を盗もうとしていない!と、否定しただろうが、お父様にとってはどちらでも良いのでしょう。重要なのは、ゼスティリア侯爵とルーフェス公爵が、私を支持したこと。

 対して、マルクス伯爵家の動きは遅かった。
 何のアクションも起こさず、怒り狂ったゼスティリア侯爵が再度、抗議文を送り付け、やっと、紙切れ1枚を送ってきた。
『ごめんなさい』
 たった一言だけ書かれた文字。

 メトもラットも、あまりの愚かな対応に言葉を失くしていたが、私は満足した。

 馬鹿な元・義家族…。
 こんな愚かな対応をしたら、自分達の首を締めるだけなのに、本当に愚かなのね。

 次から次へと墓穴を掘ってくれるのだから、助かる。それに、私に謝罪をするのは、例え一言だとしても、エレノアにはとても屈辱的だったはず。いい気味。



「生憎の雨ね…」

 私は、部屋の窓から降り頻る雨を眺めた。
 今日は仕事はお休み。優秀な部下がいるのはいいわね。元・お義父様が雇った無能な部下達もいないし、安心して仕事を任せられるもの。

 メトに交渉し、OKを頂いたので、マルクス伯爵家時代に働いていた職場から、私が育てた優秀な人材もこちらに引き抜いた。正確には、私がいなくなって好き勝手する無能なお義父様の部下達に嫌気がさして退職していた所に声を掛けたんだけど、無事に引き取れて良かった。

 かと言って、私の性格上、全く仕事をしない。のは難しく、結局家で出来そうな仕事を持って帰ってきてしまった。

「んー。予算どうしようかな」

 仕事の書類を見ながら、眉間に皺を寄せる。


「ルエルーちょっと部屋入っていーか?」

 トントンとノックの音が聞こえ、聞き慣れたラットの声も聞こえた。

「どうぞ」

「うげっ。折角の休みなのに、仕事してんのかよ。好きだねー」

 部屋に散らばっている仕事関連の書類を見て露骨に嫌そうな表情を浮かべるラット。
 そうね。確かにラットは、お休みの日は執事服を脱ぎ捨てて、アルファイン侯爵令息としてメトに絡んだり(普段もだけど)、釣りに行ったり、山に登ったり……休日を謳歌してるものね。

「これでも息抜きしてるのよ。マルクス伯爵家にいた時は、睡眠時間を削って仕事して家のことして暴言に耐えてーー休みなんて無かったし、家にいるより会社にいた方が元・お義母様やお義父様に子供はいつ出来るんだ?なんて嫌味を言われなくて済むから、楽だったしーーー」

「分かった。俺が悪かったから、これ以上辛い話聞かせないでくれ」

 耳を塞ぐラット。
 おかしいわね。まだまだマシなエピソードなのだけど。美味しくないと食事を投げ付けられた話よりマシでしょう?

「その話の後になんだけど、マルクス伯爵夫人から招待状が届いてるぜ」

「ーーーは?招待状?」

 思わず聞き返してしまう。招待状?お茶会とかの?
 ラットが手に持っていた便箋を受け取ると、確かに宛名はマルクス伯爵夫人で、招待状と記載されてる。

「……何のつもりで?」
「俺が分かるわけねーじゃん」

 ごもっとも。3年間元・義実家で過ごした元・嫁としても、全く理解出来ない。
 確かに、元・お義母様は頻回にお茶会を開いていたけど……どうして私をお茶会に誘う?離婚した元・嫁を?そちらの息子の不貞で別れた嫁を?頭大丈夫か?しかも、前回のゼスティリア邸でのパーティで、そちらの新たな嫁が散々私に無礼な態度をとっておいて?紙切れ1枚の一言で謝罪を終わらせておいて?面の皮厚すぎません?

「俺さ、こんなに理解不能な奴等と関わるの初めてでさ。マジで何考えてんのか分かんなくてこえーんだけど」

 同感よ。本当に何考えてるのかしら……。

 乱暴に封を開け、中身を確認すると、確かに招待状ーーーって、何これ。

「あはは」
「ルエル?」

 思わず笑ってしまうと、ラットが不思議そうにこちらを見た。

「ごめっ。面白過ぎて……!あはは」

 中身は確かに、お茶会の招待状だった。
 でも、その内容は、見るに堪えないくらい、酷いものだった。

「本当に、自分達で墓穴を掘ってくれるから助かるわ」

 そう言って私はラットにも、元・お義母様から送られてきた、あまりもおかしく笑ってしまう招待状を見せた。

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