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21話 次は絶対に奪わせない

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「お待たせしてしまってすみません」
「別に待ってない」

 ……待ってますよね?何故そんな嘘を?

「ルーフェス公爵夫人は、次のパーティで着るドレスをお探しだと伺いましたが、実は最上級のドレスの用意がございましてーーー」

「あ、すみません。少し待って下さいますか?」

 オーナーの話を遮り、私はメトの腕を引くと、彼の耳元で、彼にしか聞こえないように、小さな声を出した。

「相場ってご存知ですか?」
「……何を言い出すかと思ったら……くだらない」

 貴方にとってはくだらないかもしれませんけど、私にとったら死活問題です。会社の利益で返せと言われましたけど、借金が増えるんですよ?ただでさえ、あの家族達の所為で業績が足踏みしてる状態なのに……。

「だから噂を消してやると言っただろ」

「ぎ、業務に影響を与えたのは申し訳無いですけど……大丈夫です!いざって時は、最強の天才であるルーフェス公爵様のお力をお借りしますから!」

「……まぁいい」

 納得して下さいました?こ、怖かった……。

「オーナー、この店の中で1番良質なドレスはどれだ?」

 ちょっと?!話聞いてました?!

「はい!こちらでございます!」

 意気揚々と返事しましたね……そうですよね。高価な品物を買ってくれるかもしれない大切な上客ですものね。店員なら逃がしませんよね。私も同じ立場なら逃がしません。

 促されるまま、高級そうなドレスの試着を繰り返す。
 こ、こんなに高くて質の良いものに袖を通すなんて初めてでーーー緊張する!

「こちらはいかがでしょうか?ルーフェス公爵様の瞳と同じ、淡い水色を基調としたドレスになっております。公爵夫人がつけていらっしゃる指輪とも合うと思いますが」

「……」

 自分の瞳の色をパートナーに身に付けさせるのは、この国の社交界では、自分の物だとアピールする意味がある。
 ただ、ドレスの色までパートナーの瞳の色と合わせてしまうと、女性が色々なドレスを着れなくなるので、基本は身に付けるアクセサリーを合わせるが一般的。
 例外があるとすれば、今回のような夫婦のお披露目。
 結婚して初めての社交の場では、ドレスも主人と合わせる夫婦はいる。でもそれは、主人が、妻を溺愛していると周りに公言しているようなもの!!
 私は既に、指輪で彼の瞳のものを身につけてるし、これ以上はちょっと恥ずかしいけどーーー

「それにする」

 やっぱりな……流石ルーフェス公爵様。
 周りが引くくらいの溺愛っぷりを見せ付けて、完全に近寄ってくる令嬢達を追い払う気でいますね?



「メト、本当にいいんですか?あのドレスでパーティに行ったら、嫁大好き人間に認定されますよ」

 帰り道。馬車に揺られながら、再度確認する。
 一応、他にも何着かドレスを買って貰ったので、今からでも変更出来ますけど……。

「それが狙いだからな。そうすれば、結婚してるのに縁談を勧めてくる馬鹿な父親も、密会をけしかけてくる馬鹿な女も減るだろ」

 どんっっっだけ声掛けられてるんですか。
 まぁ、離婚歴のある子供出来ない訳あり令嬢なんかよりって感じでしょうか。しかも、周囲からは私達互いに仕事ばっかりしてるってイメージでしょうからね。一切間違ってませんけど。

「あ。もしかして、誘いが増えたのは、あの噂の所為でもありますか?だとしたらすみません」

 その上、男遊び大好きで仕事、家放棄で可愛い妹虐める最低な私なんて、メトに相応しくなーい!ってやつですか?

「分かってるなら責任を持ってパーティに出席しろ。虫除けの務めを果たせ」
「はい!精一杯務めさせて頂きます!」

 思わず敬礼してしまう。
 そうですよね、迷惑かけっぱなしですし、きちんと契約結婚の務めを果たさないと!

「……パーティには、マルクス伯爵の令息夫妻も出席するそうだ」

「知っています」

 私がマルクス伯爵家を出てからすぐに、カインとエレノアは正式に籍を入れた。
 今回のパーティが私達夫婦のお披露目であるように、あちらの夫婦も、今回のパーティがお披露目。何の意図があってか、向こうがお披露目の場所を被せてきた。

 会うのは結婚の報告と、お別れを告げたあの日以来。

「楽しみですね」
「……楽しみ?」

「ええ。メトのおかげで、少なくともエレノアの悔しがる顔は見られそうです」

 そう言って、私は左手薬指に付けた指輪を、メトに見せた。

「妹は私より勝っていないと気がすまない性質です。そして、少しでも私が幸せを感じたら、それを奪いに来るんです」

 エレノアよりも綺麗なドレスを着て、エレノアよりも豪華な指輪を身につけて、カインよりも素敵な結婚相手が横にいる。
 今までは全部、貴女に盗られて来たけど、今回は違う。


「絶対に次は奪わせません」


 全部全部、あげない。

「……成程。なら俺も、契約結婚の相手として、存分に君の復讐に付き合ってあげるよ」

「ありがとうございます」

 次に会うのを楽しみにしていたのよ。
 期待していてね?
 貴女達は、私の悪い噂をばら蒔いていい気になってるのかもしれないけど、そんな事をしても全てが思い通りにはならないって、私が証明してあげる。

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