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19話 瞳と同じ色の指輪

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 ーーーは?それってまさかーーー

「貴方に払って頂いた結納金と同じで、私が返却するんですか……?」
「勿論」

 私の借金が増えたーー!!!

「待って下さい!それなら、もう少しお手頃なお値段の方がーー!」

「何言ってるの?ルーフェス公爵家の夫人が身につける指輪が、安物で充分だとでも?」

「うっ…!」

 勿論、安物を買おうとは思ってなかったけど、ある程度高額な指輪なら、それで良いかな。とは思っていました。

「それに、君の馬鹿な妹に俺達の仲を見せ付けるのなら、指輪は高価であればあるほど良いと思うけど」

「……そうですね」

 エレノアは昔から、私の物を欲しがった。
 実家にいた時は、多少なりとも社交界に顔を出していたけど、その時に用意したドレスも、私よりも何倍も良いドレスを用意してもらっていたのに、私から取り上げた。宝石も、アクセサリーも靴も。
 私に話し掛けてくれた侯爵家の友達も、私の旦那もーーー。
 私を見下し、私より優位に立たないと気がすまない妹。

 そんな私が、誰よりも綺麗で豪華で高価な指輪を身に着ける。エレノアにとっては、とても屈辱的でしょうね。

「はぁ…納得…しました」

 正直、まだ納得してないけど。相場知ってます?次からはきちんと金額についてハッキリ言わなくちゃ……このままじゃ、借金の額が膨れ上がる一方だよ!


「……もし、今後、君に理不尽な言い掛かりを付けてくる人間がいれば、その指輪を見せればいい。その指輪を着けていれば、俺の寵愛の証明になり、君の盾になるだろう」

「!」

 理不尽な言い掛かり……それって、昨日話した、実家と元・義実家が広めた、私の嘘の話ーーー?噂の火消しを、私が断ったから?

「メト……私は、大丈ーー」
「俺は君の夫として、君を守る義務がある」

 私を、守る?

「ーーーありがとうございます、メト」

 私を守るだなんて言ってくれたのは、契約結婚である貴方が初めて。愛を誓ったはずのカインには、そんな風に言われた事、1度だって無かった。

「よろしい。指輪の代金は、俺は君と離婚するつもりが無いから、気長に返してくれればいい」

「はい。分かりました」

 カインは、私がどれ程、元・お義母様やお義父様からハズレ嫁と罵倒されようとも、1度も助けてくれなかった。
 それどころか、『両親はルエルの為にキツい言葉を言ってくれているんだ』なんて、訳の分からない事を言って、元・お義母様達を庇った。

 愛を誓い合ったカインよりも、愛を誓っていないメトの言葉の方が、今は信じられる。






 *****


 1ヶ月後ーーールーフェス公爵邸。


「おっはよールエル!元気?」

「……ラット、おはようございます」

 公爵家でお世話になって、もう1ヶ月が過ぎた。
 やっと、見知らぬ天井も、広くて綺麗な部屋にも慣れてきた今日この頃。

「今日も仕事?」

「うん。朝から会議があるの」

 いつものように、ダイニングルームで朝食。
 朝はそんなに食欲がある方じゃないので、私は果物とヨーグルト、熱ーい珈琲を頂く。

「メトもよく働くなーって思ってたけど、ルエルもめっちゃ働くな!疲れねー?」

 ダイニングルームへの立ち入りは、私達の食事が始まれば、ラット以外は禁止。秘密の会話もよくしているからね。

「んー?最初に比べれば全然……それに、マルクス伯爵家にいた時の方が、忙しかったから」

 元・お義父様がお雇いになられた、使い物にならない従業員も多かったからね。仕事に張り付いていないと、何されるか分かったもんじゃない。それに、今思えば、肉体的だけじゃなくて、精神的にもキツかった気がする。
 頑張って仕事して、お金は全て取り上げられて、ハズレ嫁と罵倒されーーーほんと、何であんな所に好きでいたんだろ?感覚が麻痺してたのかな?

「あんなにルエルにお世話になっといて、ひっでー家族だよな」

「あはは」

 ラットーーーアルファイン様の強い要望で、私は砕けた口調で、ラットと話すようになった。
 ルーフェス公爵夫人になった私が、公爵家に仕えているアルファイン侯爵子息でありメトの執事であるラットに対して、敬語を使わなくて良い!と、ゴリ押しされた。
 アルファイン侯爵様にそのような行い、本っっ当に嫌で、メトに助けを求めたんだけど、『その馬鹿なら好きに呼べばいい』と、寧ろGOサインを出された。

「そだ。今日だよな?メトとデート」

 メトとデート……誤解されるような発言しないで欲しい……て、誤解されていいんですよね。私達、とても仲睦まじい夫婦って設定なんだから。

「仕事終わりにね。パーティのドレス選びに行くだけだよ?」

「またまたぁ。フィーリンから2人ともめっちゃ良い感じ!って聞いてるぜ!」

 フィーリン様にそう思って貰えたのは何よりだけど、事情を全部知っているハズのラットが何故にそうゆう反応なの?


 ーーー今日は、仕事終わりに待ち合わせして、メトとデートの日。

 きっかけは、とあるパーティの招待状。
 ルーフェス公爵家と懇意にしている貴族からの招待らしく、初めて夫婦同伴の参加。
 パーティであるからには、ドレスやアクセサリーが必須なのだけど、私は何一つ持っていない。

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