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17話 モネ=ルーフェス

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「問題無い。公爵家の力を使えば、噂などすぐに消せる」
「いえ。メトが良ければ、そのまま流させて下さい」

 あの人達が私の、ありもしない悪評を流すのなら、それはそれで構わない。

「……それでいいのか?」
「どんな噂が広まろうが、私は無実です。男遊びもしていなければ、仕事も家の事もして、妹だって虐めた事はありません」

 馬鹿で愚かな人達。
 嘘をつくなら、上手につかなきゃ。その嘘を本当に見せ掛けるくらいの実力が必要なのよ。

「あの人達がつく嘘に、私は負けません」

 絶対に許さないと決めた。
 私が味わった苦しみを、絶望を与えないと気が済まない。貴方達が私の嘘の噂をばら撒くなら、逆にそれを利用してあげる。

「……さっきまで馬鹿みたいに泣いていた奴の台詞とは思えないな」

「!あ、あれはーーーその、フィーリン様が、優しくて……つい……」

 温かなこの家の雰囲気にのまれたのかもしれない。
 無邪気で可愛い子供、優しい母親はーーー私が欲しかった家族の姿だった。

「まぁいい。何か考えがあるなら、この件でルーフェス公爵家が動くのは止めてあげる。そうすれば、あの家族は調子に乗って、もっと行動がエスカレートするだろう」

 流石ルーフェス公爵様。まだほんの少ししか、私の家族と元・義実家に関わっていないのに、的確に本質を理解されていますね。

「はい。きっとあの人達は、ルーフェス公爵様が注意して来ないのを、自分達の都合の良いように受け取るでしょう」

 噂を信じたルーフェス公爵様が、ルエルを守らなかった。と。ならばと畳み掛けて、もっと私の悪評をばら撒くかもしれません。

「楽しみですね」
「……君はその間悪く言われ続けるが、本当にいいのか?」
「はい。悪く言われるのは慣れていますから」

 暴言なんてお手の物ですよ。陰口も、義実家のメイド達から言われたなー。お義母様やお義父様が私を悪く言うから、それを信じたメイド達の当たりが強くなったんだよねー。

「……もう寝る」
「あ、はい。お休みなさいませ」

 同じベッドの上、真ん中を開けて、私達は眠りについた。




 *****

 フィーリン邸。庭先。

 昨日の非礼を謝罪すると、フィーリン様は笑顔で許して下さった。
 本当に優しくて、心の温かい人……。

 用意された昼食を食べ終え、昨日と同じように、広い庭でフィーリン様、シャイン、私と、ゆっくりとした時間を過ごす。昼食時はメトもいたが、メトは『用事が出来た。暫くしたら戻る』と、私を残してフィーリン邸を出た。

「相変わらず忙しいのねーお仕事のし過ぎで体壊さないといーけどー」

 フィーリン様は出掛けたメトを思い、心配そうに言葉を漏らした。

「そうですね」

 クリプト伯爵家当主であるお父様も、領地のお仕事などで忙しくされていたけど、ルーフェス公爵家はそれに加えて、皇帝陛下からの命や、国境の防衛、魔物の退治ーーールーフェス公爵家に仕えている者達に指示を出しながら、時には自らも戦線に立つ。
 忙しさは桁違いでしょう。
 マルクス伯爵様……元・お義父様はとても暇そうにされていましたけどね。
 経営は全て私に丸投げ。領地の仕事はーーーしてたのかしら?いえ、していたんでしょうけど、ふんぞり返って偉そうに無理難題な指示を出していたイメージしか有りません。書類もミスばかりでしたし……私がこっそりと夜中に修正していましたから。

「メト君、ルエルちゃんがお嫁に来てくれて、経営の一部を任せる事が出来て、助かってるって言ってたわー。ありがとうね、ルエルちゃん」

「!メト、そんな風に言ってくれてるんですね…」

 元・義実家では、仕事をしても、どれだけ成果を上げても、義実家に尽くすのは当たり前!嫁の義務!みたいな反応で、感謝された事が無かったから、凄く嬉しい。

「ルエルお姉ちゃんーはい、これ上げる」  

 庭で1人、せっせと何かを作っていたシャインは、出来上がった花冠を、私に被せてくれた。

「プレゼントー。可愛い、可愛い」

「ありがとうございます…!」

 天使!!!天使がここにいる!!!可愛過ぎる可愛過ぎる可愛過ぎる!!!

「まぁまぁまぁ。シャインもルエルちゃんを気に入ったのねー」

 本当ですか?!それなら幸せの極みです!

「とても光栄です」

 心の叫びを必死に表に出さないよう、平静を装うのがしんどい。

「……この子は、亡くなった主人の、大切な忘れ形見なの」
「!メトの……お兄様ですね」

 メトのお兄様が亡くなっているのは、調べて知ってる。

「あの人、メト君のように、強くなかったの。病弱でーーー最後まで頑張ったのだけど、亡くなってしまったわ」

 《モネ=ルーフェス》
 若くして病気で亡くなってしまった、メトの兄。

「私が嫉妬するくらい、とても仲の良い兄弟だったのよー」

 懐かしそうに、愛おしそうに、微笑みながら話すフィーリン様。
 本当に、モネ様がお好きだったんですね……。

「ただ、あの二人のご両親は、息子にとても厳しかったみたいねー。特に、長男であるモネが病弱で役に立たないからと見放され、代わりに全ての期待を背負わされたメト君に」

「ーーえーー」

 私が調べて得た情報は、表面的なもの。家族仲までは、分からなかった。

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