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16話 泣き腫らした顔

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「…ここ、どこ…」

 泣き過ぎて目が痛い。赤くなって、腫れてるかもしれない。
 辺りが薄暗いのは、もう夜?光は、小さなランプの灯り?私……ベッドの上にいる?自分の体が横たわり、ふかふかの布団に包まれている事に気付く。
 ーーーもしかしてあの後、ずっと泣いて、疲れて、そのまま寝ちゃったの?!

 ガバッと、布団を跳ね除け、起き上がる。

 ヤバいヤバいヤバい!何て失態!こんなの、メトになんて言い訳すればーーーいや、言い訳は良くない!ここは誠心誠意謝罪してーーー!!

「起きたの?」
「うわぁ!はい!!」

 部屋の中にメトがいて、急に声を掛けられ、驚いて大きな声を出したら、迷惑そうに耳を塞がれた。

「五月蝿い。もう夜なんだから静かにして。シャインが起きたらどうするの?」
「あ、ごめんなさい」

 シャイン?シャインがいるという事はーーーここは、公爵家では無い?
 部屋を見渡せば、見覚えの無い部屋。

「……あの、まさか……私の所為で、フィーリン様の所に泊まる事になりました?」

 本当は今日は、日帰りでそのまま帰る予定だったはず。私が恐る恐る尋ねると、メトはそうだね。と頷いた。

「本っっ当に申し訳ございませんでした!」

 ベッドの上で頭をつけて謝罪する。
 こんな失態ーー!仕事で中々しないのに!!よりにもよってこんな大切な仕事で?!有り得ない!!!

「いいよ。どうせ、シャインに帰らないでって駄々を捏ねられて泊まる羽目になると思っていたから、仕事の調整はしてある」

 な、ならまだ良かったのかーー?

「もっとも、君は仕事を理由に帰らせるつもりでいたけど」

「申し訳ありません!!」

 謝罪の言葉以外に何も思い付かない。

「まぁ別に良いけど……義姉さんが折角だから明日、昼食を食べて帰ってって言ってたから、そのつもりでいて」
「はい。かしこまりました」

「……いつまで土下座してるつもり?」

 メトはもうお風呂も済ませたのか、寝間着に着替え、部屋に備わっているソファに腰掛けていた。

「……あの、メトはどうしてここに?」

 あのまま寝てしまった私を運んでくれたんだろうけど、まさか私を心配して、そのままずっと傍にいてくれたの?

「夫婦なんだから一緒の部屋を用意されててもおかしくないでしょ?」

「そーーーうですよね」

 ルーフェス公爵家では、夫婦別々の部屋を用意して貰っていたので忘れていましたが、そうですよね。普通、客人の夫婦には同じ部屋を用意しますよね。

「だから君だけを帰らせるつもりでいたのに」

 ごもっともです。
 泣き喚いて泣き疲れて寝てしまった。全部私が悪いんです。

「あ。メト、ベッド使って下さい。私、ソファで寝ますので……」
「何で?一緒にベッドで寝れば?」
「!そ!それは!契約違反です!」
「そんな契約内容、無かったと思うけどね」

 無い?いやでも、結婚は形式だけってーー表面上は仲の良い……子供は作らないってーーー確かに、行為そのものについては明記していないけどーー!!

「冗談だよ。君に手を出す気なんて微塵も無いから安心して」

「……それはそれで複雑ですね」

 女として何の魅力も無いって言われてるみたい。

「何?手を出して欲しいの?」
「いいえ。つつしんでご辞退申し上げます」

「君には指1本触れないし、一緒のベッド使っても問題無いでしょ?別々に寝てるのがバレて、変に勘繰られる方が困る」

 そう言われると断れないんですけど。
 まぁでも、メトが私みたいな貧相な女に手を出すわけないか。

「あの、本当にごめんなさい。明日は、フィーリン様にちゃんと、幸せな結婚をしたと思って貰えるように、フィーリン様に認めて貰えるように頑張りますので……!」

 ベッドの隣に来たメトに向かい、もう一度改めて謝罪と、仕事の挽回を口にする。

「その必要は無い」
「まさかーーークビですか?!お願いします!もう一度チャンスを下さい!必ず!明日は仲の良い夫婦を演じて、幸せだと思って貰えるように努力します!」

 1発OUTのクビ?!厳しい……!流石、ルーフェス公爵様ーー!使えない人材は容赦無く切り捨てると聞いた事があります!今、メトに切り捨てられたら困る!!!

「落ち着け。義姉は君を気に入っていたよ」
「へ?嘘?」
「ちゃんと君を守ってやれ。守らなければ怒る。とまで言われたよ」

 言いながら、メトはクリプト伯爵家とマルクス伯爵家から来た手紙を取り出した。

「本当に懲りない屑共だ」

 メトも手紙を読んだのね……。

「迷惑を掛けてごめんなさい」

 幸せな結婚をした。そう思って欲しい相手に届いたのは、私の実家と元・義実家からの、私を陥れるような内容。
 こんな手紙が家族から送られてくるなんて、普通は、私に問題があると思われても仕方無いのに、フィーリン様は、私を受け入れてくれた。
 フィーリン様の心の広さに感謝します。

「この調子では、あの人達はきっと社交界でも、似たような噂をばら蒔いていると思います」

 仕事で出会った、私の人となりを知って下さってる方々は、私の言い分を信じてくれたけど、社交界関係の繋がりは少ない。
 きっと、今は、私の悪い噂が広まっているでしょう。

 
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