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10話 お別れの挨拶

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「心配?暴言の間違いでしょ?どうせ、食事の準備をしていなかったのを怒っているんでしょう?」

「それはそうだ。だって、朝と昼の食事の準備をするのは、君の仕事だろ?」

「馬鹿なの?私達はもう離婚してるのよ?貴方達の世話なんてするわけないじゃない」

 勝手に離婚届を提出されていて、いつの間にか離婚していたのよ?なのに、何も気づかず、今まで世話していたなんて……自分が惨めで仕方無いわ。

「それは、君に子供が出来なかったからでーー」
「馬鹿の一つ覚えね」

「ルエルさん!」

 おっと。お義父様とお義母様もお出ましね。
 予想していた通り、大変怒っていらっしゃるみたい。

「お前!どこに行っていたんだい?!嫁の仕事もせずに!サボるんじゃないよ!」

 子が子なら親も親ね。
 同じような事をぐだぐだと。鬱陶しい。

「お言葉ですが、私はもうカインと離婚しています。そちらの嫁では無くなったのですから、嫁の仕事をする必要は無くなりましたよね」

「お前が出て行ってから、新しい料理人を雇う予定なんだ!それまでは家に置いてやってるんだから、ちゃんと働かんか!」

 働いていましたけど?貴方達がろくに家の事も仕事もせず、私に全てを押し付けてぐーたらしている間、私はずっと、馬車馬のように働いていたのよ?
 本当、今思えば、馬鹿みたい。

「なら、今日で出て行きますので、嫁の仕事をする必要は無くなりますね」

「え?!もう出て行くのかい?!」

 私の台詞に、悲しそうな表情を浮かべるカインの神経が分からないわ。貴方が私を裏切ったから、私は出て行くの。

「ええ。ここには荷物を取りに来ただけです」

「何言ってるんだい?!あんたが持って行く荷物なんて1つも無いよ!あんたの荷物は、うちが出した金で買った、うちのもんだ!まさか勝手に持って行く気かい?!盗人猛々しいね!」

 ……実家も、この家にいる間も、私は必要最低限の買い物しかさせて貰えなかった。そんな少ない荷物すら、貴方達は私から取り上げるつもりなのね。

「母様、父様、そのくらいにしとこうよ。ルエルは世間知らずだから、僕達の物を自分の物と勘違いしちゃっただけなんだ。な?盗むつもりなんて無かったよな?僕はちゃんと分かってるよ」

「……」

 私が仕事で稼いだお金は、全て、マルクス伯爵家の物になっていた。ここで私が何を言っても、無駄ね。


「分かりました。このまま出て行きます」

「ふん!さっさと出て行け!このハズレ嫁が!」

「ルエル……幸せになってね」

 幸せになって。なんて、どの口が言っているの?
 本当に私が、あのままで幸せになれたと思っているの?カインが私を不幸にしたのに、その口で、私の幸せを願うのね。
 本当に、私を舐めてる。


「ーーええ。幸せになるわ」

 貴方達から全てを奪い返して、貴方達がどん底に落ちるのを見るのが、私の幸せよ。



「ーーールエル。迎えに来たよ」

 ああ。メト、とても良いタイミングですね。

「ルルルルル、ルーフェス公爵様!?!?!」

 何食わぬ顔で、扉を開け玄関ホールに入って来るメト。
 お母様もお父様も、予想だにしない上級貴族の登場に、腰を抜かしそうなくらい、驚いておられますね。
 そう、今回はわざと、目立たないようにルーフェス公爵家の馬車を門口に停めなかった。私が普段言われている罵声を、メトに聞かせる為に。

「彼女が出て来るのを外で待っていたんだが、俺の愛する人に、随分、酷い言葉を投げ掛けてくれたものだなーーールエル、大丈夫か?」

 メトは私の頬に優しく触れながら、私に気遣いの言葉をかけた。

「ななななな何で?!ル、ルエルと?!一体どういう事だ?!お前なんかがーー!!!」

 ……元・お義父様ーーマルクス伯爵様は、取り乱し過ぎじゃありません?どもる口調も、彼がと言っている相手に対する口調も、ルーフェス公爵様に対して行うものではありませんね。流石、伯爵家を没落にまで追い込んだ無能な領主。

「お前?口の利き方に気を付けろ。ルエルは、今日から俺の妻になった」

「つーーーま?!そんな馬鹿な!」
「嘘でしょう?!その女は、子供を産めない、女として欠陥品です!ルーフェス様!騙されないで下さいまし!」

 ……元・お義父様もお義母様も、本当に、私の事がお嫌いですね。

「ーーーそれ以上、ルエルを侮辱する事は許さない」
「!メト…」

 本当に私の為に怒ってくれているのが、私の肩に乗せたメトの手から伝わってきて、とても嬉しい。
 おかげで、冷静に、この人達と向き合える。

「メト。折角、荷物を取りに来ましたが、勝手に持ち出せば盗っ人になると言われたので、私が持ち出せる荷物は何1つありませんでした」

「いやーー待てーーっ」

 私から出て来る言葉を慌てて止めようとしますが、止めるはずありません。何せ、貴方達にハッキリと私の立場を分からせてあげるために、わざとメトに遅れて中に入って来て貰ったんだから。
 

「マルクス伯爵家は、離婚する元嫁には何も持たせず、出て行かせるわけか」

「ご、ごご誤解でございます!ちゃんと!持って行かせようとしましたとも!」

 媚びへつらうように身を低くし、手を揉むマルクス伯爵様。今更、持って行かせようとしてた。なんて、誰が信じるのよ。

「いえ。もう要りません。盗人扱いされたくありませんし、元から、私の物は殆ど有りませんから」


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