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41話 もう情けはかけません
しおりを挟む領主会は滞りなく進み、次は私達の番になった。
「おい、さっさと報告書と原稿を寄越せ」
「は?」
隣にいる私に向かい、当然とばかりに手を差し出すローレイ。
「原稿が無いと報告出来ねーだろうが! 本当に役立たずだな!」
――――え、あれだけ啖呵を切っておきながら、ご自分で用意されていないと? 正気か?
「これは私が用意した物ですが」
「お前が用意するのは当然だろうが! お前はまだ、不本意だが俺の嫁なのだからな! 俺に尽くす義務がある!」
ええー理不尽ー。会議でプレゼン用の資料やら原稿やらを部下に用意させておいて、美味しいとこだけは持っていくような、最低な上司みたいじゃない! 例に漏れず、私も被害にあったことがあるわ。
「別に貴方が報告しても構いませんが、本当に私が用意したものでいいのね?」
「うるせぁな! こんなん、誰が作っても一緒だろ!」
マジか、無能過ぎて拍手喝采だよ。一度も自分で用意したことないんかーい! 凄いよ、そんなに適当に領主するくらいなら、二度と、責任ある立場に立たない方が良い。大人しく、息を殺して静かに過ごせよ。
「さっさと寄越せ、このノロマ!」
うんうん、いいよ。私から無理矢理、報告書を奪って報告するだろうというのは、そこまで愚かでなかれ! とは思っていたけど、想定内だわ。ああ、何て可哀想なローレイ。これで今度こそ、貴方が爵位を授かることは出来なくなるでしょう。だって、貴方の無能さが、ご自身の手で暴かれるのですから。楽しみね。
「次はカルディアリアム伯爵」
「はい、今回はまともに報告も出来ない鬼嫁のフィオナに代わり、私め、ローレイが報告させて頂きます!」
意気揚々と私から報告書を奪い取り、報告を始める。
ああ、皆の前で恥をかかされるなんて、哀れな男。でも仕方ないわよね。私は貴方の愛するキャサリンを追い出さなかったり、精一杯の優しさを見せて来たつもりよ。でも、貴方は何も反省しなかった。これ以上、私は情けをかけたりしない。
どうぞ、ご自身の手で地獄に落ちて下さい。
「えー、『まずは、前カルディアリアム伯爵である夫、ローレイの行っていた悪しき領主運営についてご報告と、謝罪をさせて下さい。ローレイは私利私欲のために領民の税を上げ――』って、何だこれは!?」
原稿を読み上げるローレイの手が、屈辱に震える。折角私が、丁寧に細かく、最初から最後まで文を考えて上げたのに、何が不満なのかしら。
「フィオナ! 何のつもりだ!?」
「何のつもりも何も、今日報告する内容をまとめたものよ。丁寧に、難しい箇所には説明書きもしてあげたのよ? 感謝して欲しいくらいだわ」
そのツルツルな脳みそだと理解出来ないかもしれないからって気を使ってあげた私の気も分からず怒鳴るなんて、ショックだわ。一応、私は、ローレイが自分で報告書を用意してくるって期待してたのよ? だって私に一矢報いる、千載一遇のチャンスなんだもの。でも、貴方は私のそんな期待すら、簡単に裏切った。
私が思うのは一つだけ、ローレイ、貴方にカルディアリアム伯爵は渡してあげない、死んでもね。
「ふざけるな! こんなっ! こんなものを報告されたら俺は――!」
「『――自らの欲望のためだけに使用し、カルディアリアム伯爵家が所有する会社までも経営難に追い込み、正式なカルディアリアム伯爵の血を引く私をローレイは蔑ろにし、浮気相手を家に迎え入れました。領地を混乱に招いた夫を放置していたことを心より謝罪し、私、フィオナ=カルディアリムが新たな領主になった事を、改めてここで報告致します。ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした』」
一言一句、間違えずに口に出す。
ローレイは私から原稿を奪ったけど、私には必要ないの。だって、全て覚えているもの。
私の視線は、原稿を見るためじゃない、集まる人達に向けて、私の想いを知ってもらうために向けるものよ。
案の定、集まった貴族達は一斉に軽蔑の眼差しをローレイに向けた。
「ち、違う! これは何かの間違いで!」
「カルディアリム伯爵家のお金の流れを記した帳簿、浮気相手であるキャサリン嬢の詳細と写真を証拠として一部資料に添付しておりますので、ご確認下さい」
ローレイの無能さによるものか、そもそも、カルディアリム伯爵家がどうなってもいいと思っていたのか、我が家は赤字塗れだった。そんな状態を回復に導いているのは、間違いなく、この私よ。
「……随分、好き勝手しているようだな」
「違います陛下! これは何かの間違いで――!」
「カルディアリアム伯爵に問う、離婚がまだ済んでいないとのことだが、何か理由があるのか?」
「はい、ローレイが離婚を渋っており、離婚がまだ出来ていないんです。領地の立て直しを優先し遅れてしましましたが、離婚を要求する裁判の準備をしてるところです」
「フィオナ! 止めろ、黙れ!」
「お前が黙ってろ」
怒鳴られて萎縮する気弱なフィオナはもういなくなったというのに、未だに私を怒鳴りつけていうことをきかせようとするなんて、なんて愚かなこと。
「成程。ではローレイ、お前に即刻、カルディアリアム伯爵との離縁を承諾するよう命じる」
「そんっ! お待ち下さい陛下! 俺がカルディアリアム伯爵に戻らなければ、滅茶苦茶に――!」
「くどい。私の命令が聞けないのか」
まさか陛下が離婚の手助けまでしてくれるなんて……これは私にとって嬉しい誤算。陛下に命じられれば、流石のローレイでも承諾せざるを得ないでしょう。
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