上 下
315 / 324

水路 1

しおりを挟む
 そうこうしながら歩いていくと、ふいに目の前が開けた。
 ひんやりと湿気を含んだ風が頬を撫でる。

 「川?」

 目の前に広がる黒々とした水の世界に、真也しんやの口からそんな言葉が零れ落ちる。

 「川というよりも、湖と呼ぶべきでしょうな。豊富な湧き水が湧いているのです。ここからは水路をまいります」

 「船で進むってことか?」

 しょうが問いかけると、こめかみに指をあて何かをつぶやいていた小男が笑顔で答える。

 「ええ。この先は水上に作られた小さな街なのですよ」
 
 小男が説明している間に、品のいい造りの無人の船が音もなく岸についた。

 「どうぞお乗りください」

 勧められ船に乗り込む。
 物珍し気に船内を眺めまわしながら椅子に腰かける頃には、既に船は岸を離れていた。

 「すごいなこれ!」

 しょうが興奮気味に船外に頭を出し、水面を覗き込む。

 しばらくの間興奮に跳ねていたしょうの声だったが、少しすると急にひっそりとした囁かなものに変わってしまった。

 「なんだ・・・これ?」

 「どうした?」

 呆然と固まっているしょうを怪訝に思った三人が同じように頭を並べ、船の下を覗く。

 そこは、洞窟の天井同様、満点の星空を内包し息を飲むほど美しかった。
 小さな宇宙のような底の無い情景が、透き通るあおに深く抱かれている。

 この圧巻の眺めには、4人ともすっかりやられてしまった。

 しばらく黙ったまま水底の景色に見惚れていると、ぞっとするような黒々とした巨大な影がふいに水面近くを流れてくる。

 何かぼんやりとした白いもやのようなものが、その黒い影のなかに浮かび上がってくるのが目に入り、真也しんやはわずかに身を乗り出した。

 「まさか・・・」

 
 徐々にはっきりと形を成したソレは、他でもない母の姿だった。
 母親の表情の抜け落ちた青白い顔に、真也しんやは心臓を鷲掴みにされたような冷たい恐怖に襲われる。

 「母さん!?」

 「くろ!」

 「白妙しろたえ?」

 「なんで・・・ここに」

 母を呼ぶ真也しんやの横で、光弘みつひろしょう都古みやこも声を上げている。

 助けようと慌てて手を伸ばそうとした瞬間、水面に二つの小さな紅い光が鋭く煌めいた。

 真也しんやしょうは「ぐぇっ」っというくぐもった声を出しながら、同時に後ろへのけぞる。

 母親の顔は見る間に溶けて消え去り、巨大な影はぶるぶると震えながら水底へ落ちていった。

 どうやらあおに後ろ襟をつかまれ、少しばかり乱暴に引き寄せられたのだと気づき、真也しんやしょうは目を丸くして顔を見合わせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。  ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

処理中です...