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脚休め 1

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 このあおという男、語る言葉の深刻さとは裏腹に、声の調子があまりにも楽し気だ。
 
 了解と感謝の言葉を口にした真也しんやたちは、互いに視線を交わし無言で心の内を伝え合う。

 『この男を嬉しがらせるような行動は、ここでは一切すべきではない』と。

 争いごとを全く好まない海神わだつみの手前、こうして忠告をしてくれてはいるようだが、彼がいなければどうだったか知れたものではない。

 真也しんやたちを餌に、命知らずな無法者がパクリと大口を開けて食らいついてくるのを、糸を垂らして楽し気に待っているようにすら見えるのだから、このあおという男には、心の底から呆れてしまう。

 「さぁ。今日は全部ボクの驕りだ。存分に楽しんでいい。」

 「ありがとう。」

 真也しんやたちは彼の…妖鬼としては素晴らし過ぎるであろうそんな気質に諦めを感じ、大きなため息をついた。

 大人しく彼に礼を言うと、『脚休あしやすめ』と看板が掛けられた屋根の下へと足を踏み入れる。

 初めての足湯は真也しんやたちの胸を弾ませ、あっというまにおかしな緊張から解き放ってくれた。

 この店、足湯を売りにしてはいるが、要は足湯のサービスがついた一口茶屋のようなもののようだ。
 客はみな、団子やら田楽やらの軽食を手に、茶をのんだり酒を煽ったりと、のどかに楽しんでいる。 

 あおから金を受け取った、非常に愛想のよい小男が、三人の若い女を猫なで声で呼ばわった。

 先ほど外で声をかけてきた女と違い、ここの女たちはみな一様に、弱弱しい気質を感じさせ線も細い。
 女たちは、焦った様子でよたよたと寄ってくると、丁寧に頭を下げ一行を案内し始める。

 「ふんっ。」

 あおがなぜか不機嫌そうに鼻を鳴らすと、海神わだつみが隣でかすかに頭を縦に振る。
 すかさず蒼は海神に何ごとか耳打ちをしているが、前を見ている真也しんやはそれには気づかなかった。
 
 女たちの案内で奥へと移動し、勧められるがまま裸足になって足の先からゆっくりと湯につけてみると、熱すぎない清らかな湯はゆるゆると足の芯に熱を送り込んできて非常に心地がよい。

 あおが三色団子を人数分頼むと、女たちは深々と頭を下げその場を後にした。
 やたらと心細げに見える女たちの背を見送りながら、しょうがいぶかし気な声を聞かせる。

 「なぁ。さっきさ、海神になんの話してたんだよ?」

 しょうの問いかけに、真也しんやたちの向かいに腰かけ、どうもしっくりこないのか、腰が落ち着かない様子でいたあおは面を少しずらし、非常に興味深げな色の瞳を覗かせた。
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