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蒼の館 10
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「緑紅石の記憶を見たんだろう。蒼・・・君はその石がどうやって冥府へ来たのか、知っている。」
「君・・・・・・。それをボクに聞いていいのか。」
黒の言葉に、蒼は努めて冷静に返した。
黒が自分の過去に踏み込まれるのを酷く嫌っていることを、蒼は知っている。
傷のせいだろうか・・・。
蒼には、今の黒があまりにも無防備にしゃべりすぎているような気がしていた。
彼が好き放題話すのは勝手だが、後で正気に戻った時にいわれのない怒りを買い、海神まで危険にさらしたりしたくはない。
黒の問いかけは、彼の過去を意図せず明らかにしてしまっているところがある。
・・・・・・これを蒼に問うということは、当時の記憶が黒にはないということなのだ。
つまり、黒は緑紅石の中にこの記憶をあえて保管しなかったのだろう。
黒当人が置き去りにしてきた過去を、ふてぶてしくも蒼が知っていたとなれば、黒は恐ろしいほどへそを曲げるかもしれない。
「おい。いっておくが、君が覚えていないものをボクが知っていたとしても、君・・・怒ったりするなよ。」
そんな蒼の心配をよそに、黒の返事はどこまでもあっさりしていた。
「言ったでしょ。過去の自分にはもはや興味などない。あの人のために必要ならば知られてもかまわない。」
本心から言っているのだろう。
黒は片方の眉を上げ、心の底から面倒だと言う表情をした。
「勘違いするな。面白半分に嗅ぎまわられるのは鬱陶しい。僕の過去を意味なく広められるのは好きじゃない。それだけだ。・・・僕を子ども扱いするな。自ら答えを求めておいて、激昂したりはしない。」
こう言い切られてしまえば、蒼はいよいよ素直に語るしかない。
「今の言葉、絶対に翻すなよ。」
「もちろんだ。天地に誓うよ。」
「だめだ。・・・誓うなら君は、光弘に誓え。」
蒼の言葉を聞いた黒はきょとんと固まったが、面白そうに少し笑って、目を閉じた。
修練に励んでいる光弘たちの姿を、癒を通して見ているのだろうか。
重なる若葉の隙間から零れ落ちる淡い煌めきのような、この上なく優し気な笑みが黒の口元に浮かぶ。
「・・・・・・誓うよ。絶対に、怒ったりしない。」
黒が口にした誓いの言葉は静かな安らぎに満ち、光弘に向かい直接語り掛けているようにさえ聞こえ、耳にした二人を切ない気持ちにさせた。
考えてみれば今の黒は光弘を守るため、癒にその力のほとんどすべてを託している。
今すぐ自分たちをどうこうすることはできないだろう。
裏を返せば、黒が手段を選ばなければ、今ここで彼の実力をひけらかして、海神の命を人質に蒼を脅し、その口を割ることだって決して難しいことではないのだ。
誓いをたててまで、丁寧にこれを問いかけてくること自体、黒と言う妖鬼にとっては最大限の誠意の表れであるともとれる。
かみしめるような黒の言葉を聞き、蒼は小さく息を吐き出した。
どうにか話してみる気になったのだ。
「君・・・・・・。それをボクに聞いていいのか。」
黒の言葉に、蒼は努めて冷静に返した。
黒が自分の過去に踏み込まれるのを酷く嫌っていることを、蒼は知っている。
傷のせいだろうか・・・。
蒼には、今の黒があまりにも無防備にしゃべりすぎているような気がしていた。
彼が好き放題話すのは勝手だが、後で正気に戻った時にいわれのない怒りを買い、海神まで危険にさらしたりしたくはない。
黒の問いかけは、彼の過去を意図せず明らかにしてしまっているところがある。
・・・・・・これを蒼に問うということは、当時の記憶が黒にはないということなのだ。
つまり、黒は緑紅石の中にこの記憶をあえて保管しなかったのだろう。
黒当人が置き去りにしてきた過去を、ふてぶてしくも蒼が知っていたとなれば、黒は恐ろしいほどへそを曲げるかもしれない。
「おい。いっておくが、君が覚えていないものをボクが知っていたとしても、君・・・怒ったりするなよ。」
そんな蒼の心配をよそに、黒の返事はどこまでもあっさりしていた。
「言ったでしょ。過去の自分にはもはや興味などない。あの人のために必要ならば知られてもかまわない。」
本心から言っているのだろう。
黒は片方の眉を上げ、心の底から面倒だと言う表情をした。
「勘違いするな。面白半分に嗅ぎまわられるのは鬱陶しい。僕の過去を意味なく広められるのは好きじゃない。それだけだ。・・・僕を子ども扱いするな。自ら答えを求めておいて、激昂したりはしない。」
こう言い切られてしまえば、蒼はいよいよ素直に語るしかない。
「今の言葉、絶対に翻すなよ。」
「もちろんだ。天地に誓うよ。」
「だめだ。・・・誓うなら君は、光弘に誓え。」
蒼の言葉を聞いた黒はきょとんと固まったが、面白そうに少し笑って、目を閉じた。
修練に励んでいる光弘たちの姿を、癒を通して見ているのだろうか。
重なる若葉の隙間から零れ落ちる淡い煌めきのような、この上なく優し気な笑みが黒の口元に浮かぶ。
「・・・・・・誓うよ。絶対に、怒ったりしない。」
黒が口にした誓いの言葉は静かな安らぎに満ち、光弘に向かい直接語り掛けているようにさえ聞こえ、耳にした二人を切ない気持ちにさせた。
考えてみれば今の黒は光弘を守るため、癒にその力のほとんどすべてを託している。
今すぐ自分たちをどうこうすることはできないだろう。
裏を返せば、黒が手段を選ばなければ、今ここで彼の実力をひけらかして、海神の命を人質に蒼を脅し、その口を割ることだって決して難しいことではないのだ。
誓いをたててまで、丁寧にこれを問いかけてくること自体、黒と言う妖鬼にとっては最大限の誠意の表れであるともとれる。
かみしめるような黒の言葉を聞き、蒼は小さく息を吐き出した。
どうにか話してみる気になったのだ。
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