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誘導 4

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 あおの言葉に、白妙しろたえは無言で返した。

 その場を支配する沈黙が重苦しいものではなく、得体のしれない哀愁に満ちていたから、久遠くおん翡翠ひすいも言葉を発することができないでいる。

 あおは小さなため息をひとつつき、沈黙を破った。

 「…まあいい。」

 諦めたように吐き捨てると、あおはスッと立ち上がった。

 「黒は今、ボクの館で預かっている。しばらくしたら光弘みつひろと共に、人の世にある海神わだつみの神社かどこかに匿い、養生させる予定だ。監禁も監視もするつもりはない。・・・・・・誰が奴の見舞いに来ても、それはボクたちの知るところじゃない。」

 あお海神わだつみに手を差し出すと、彼の手を引いて立ち上がらせる。

 「それじゃ、ボクたちはもう行く。忙しいんだ。・・・あっ、子供たちのことは任せてくれていいよ。面白そうだからね。・・・・・・いいかい。ボクが余計なことを言ったと黒に思われるのは面倒だ。余計なことは、絶対に言うなよ。」

 海神わだつみの肩を抱き、戸を開けたあおは、わずかに振り返ると、一つ言葉を残した。

 「白妙しろたえ。黒は・・・傷を治す気はない。」

 音もなく戸は閉まり、静けさが辺りを包む。
 白妙は、固く目を閉じた。
 何かがおかしいことは、既に彼女にもわかっている。

 だが・・・・・・。

 宵闇よいやみへの想いは、蟲から解放されてからも一切変わることはなかった。
 焼けつくほどの熱と痛みをともなって、白妙しろたえの心は叫ぶように宵闇よいやみを呼び、絶えず求め続けている。

 黒は確かに自分の目の前で宵闇よいやみを斬ったのだ。
 宵闇よいやみを自らの僕として神妖界を滅ぼすための道具にするのだと・・・そのために彼を穢れ堕としたのだと、黒自身が言ったのだ。

 神妖の長を弑し、地界の人間を全て食らい尽くしたというのも嘘だというのか・・・・・・。
 では、あの時地界を埋め尽くしていた青い炎は何だったのだ。
 地界に生きる幾億もの人々は、一体どこへ消えた・・・・・・。

 全てが、偽りだったというのだろうか・・・・・・。

 あの日から二千年もの間、怨んで憎んで・・・黒の妖鬼を滅することを生きる糧とし過ごしてきた。
 それは全て間違っていたというのか・・・・・・。

白妙しろたえは、渦巻く混沌にひたすら心をからめとられていた。
もはや何が正しいのかさえわからない。

 ただひとつ、確かなことは、彼呼迷軌ひよめきが黒の妖鬼をここへ招き入れたということだ。

 白妙しろたえは力なく肩を落とした。

 「白妙しろたえ。何か食べて少し休め。今温かい食べ物を持ってくるから。」

 久遠くおん翡翠ひすいは目くばせすると、白妙しろたえをうながし、強引に布団に横たえさせた。

 あおのおかげで強烈な痛みから解放されたとはいえ、白妙の気はまだ幼子のように弱弱しく儚げだ。

 何かを考え込むように固く目を閉じたままの白妙の手を握り、翡翠ひすいは自分の無力を思い、小さく息を吐いた。
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