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物の記憶 2
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白妙の口元から、ギリリと歯を食いしばる音が漏れた・・・・・・。
蒼は額に手を当て、表情を険しくしてしきりに何か考え込んでいたが、あきらめたように大きく息を吐く。
「・・・悪いけど、ボクが話せることはここまでだ。・・・・・・が、」
蒼は白妙に向かって、手を伸ばした。
予期せぬ動作に思わず身をすくめ、白妙は目を伏せた。
蒼は少し困った表情を浮かべ、くすりと笑うと白妙の額へ親指をそっとあてる。
束の間、白妙の気配を診ていた蒼は、暴走していた念が何事もなかったかのように沈黙しているのを確認し、心の内で安堵した。
だが次の瞬間、何かに気づき、眉間に深いしわをよせる。
「蒼・・・どうした?」
「海神、手を・・・」
蒼は白妙から手を離すと、腕の中から仰ぎ見る海神の手をとった。
その手が白妙の額に触れると、海神は目を見開き蒼を見つめる。
海神がそれ以上白妙に触れているのが、いかんせん面白くないのだろう。
蒼はうなずきながら、さっさと海神の手を引き寄せ、素知らぬ顔で自らの手の内へと握りこんだ。
ようやく肩の力が抜けた白妙が、二人の意味深なやり取りに目を細めると、蒼はそれまでとは打って変わった穏やかな瞳で、静かに言葉を紡ぎ始める。
「白妙《しろたえ》・・・君、自分のことに随分と鈍感になっていると思ったことは無いか?」
「どういう意味だ。」
「君・・・念が暴走するのは、これが初めてではないだろう。ボクの見立てでは、君は過去に一度完全に暴走している。それ以外にも暴走しかけたこと、幾度かあるんじゃないか。いずれも自分で抑え込み、被害を避けたみたいだけど・・・・・・。近いものではここ数年の間に一度、狂いかけた念を自ら放出している。風船の空気を抜くみたいにね。」
蒼の口調が、咎めるでもなだめるでも無く、穏やかで淡々としたものだったので、白妙は冷静に自らを振り返ることができた。
蒼の言葉通り、白妙にははっきりと思い当たる出来事がある。
思い出そうとすれば、強烈な痛みを胸に伴うものばかりだった。
完全に暴走したのは、宵闇をこの手にかけた直後のことだ・・・・・・。
念の暴走にのまれ意識が薄れつつある白妙は、突然、強烈な平手打ちをなん十発も同時に受けたような衝撃に襲われ、ほとんど意識を失ってしまった。
その一撃は念の放出を抑えてくれたが、絶望に堕ちようとする白妙の心を止めたわけではなかった。
全てを手放し、自ら闇にのまれようとする白妙は、その時、自分の手を強く握る者があることに、沈みゆく意識の中かろうじて感じ取っていた。
繋いだ手から温かな気が流れ込んでくる。
白妙は朦朧としながら、その手の主を「海神だろうか。」と考えていた。
そんなにたくさんの気を私に与えてしまったら、お前の妖気が無くなってしまうよ・・・・・・。
惜しげもなくとくとくと自分の内を満たし続ける妖気にそんな焦りを抱きながら、白妙は意識を手放した・・・・・・。
蒼は額に手を当て、表情を険しくしてしきりに何か考え込んでいたが、あきらめたように大きく息を吐く。
「・・・悪いけど、ボクが話せることはここまでだ。・・・・・・が、」
蒼は白妙に向かって、手を伸ばした。
予期せぬ動作に思わず身をすくめ、白妙は目を伏せた。
蒼は少し困った表情を浮かべ、くすりと笑うと白妙の額へ親指をそっとあてる。
束の間、白妙の気配を診ていた蒼は、暴走していた念が何事もなかったかのように沈黙しているのを確認し、心の内で安堵した。
だが次の瞬間、何かに気づき、眉間に深いしわをよせる。
「蒼・・・どうした?」
「海神、手を・・・」
蒼は白妙から手を離すと、腕の中から仰ぎ見る海神の手をとった。
その手が白妙の額に触れると、海神は目を見開き蒼を見つめる。
海神がそれ以上白妙に触れているのが、いかんせん面白くないのだろう。
蒼はうなずきながら、さっさと海神の手を引き寄せ、素知らぬ顔で自らの手の内へと握りこんだ。
ようやく肩の力が抜けた白妙が、二人の意味深なやり取りに目を細めると、蒼はそれまでとは打って変わった穏やかな瞳で、静かに言葉を紡ぎ始める。
「白妙《しろたえ》・・・君、自分のことに随分と鈍感になっていると思ったことは無いか?」
「どういう意味だ。」
「君・・・念が暴走するのは、これが初めてではないだろう。ボクの見立てでは、君は過去に一度完全に暴走している。それ以外にも暴走しかけたこと、幾度かあるんじゃないか。いずれも自分で抑え込み、被害を避けたみたいだけど・・・・・・。近いものではここ数年の間に一度、狂いかけた念を自ら放出している。風船の空気を抜くみたいにね。」
蒼の口調が、咎めるでもなだめるでも無く、穏やかで淡々としたものだったので、白妙は冷静に自らを振り返ることができた。
蒼の言葉通り、白妙にははっきりと思い当たる出来事がある。
思い出そうとすれば、強烈な痛みを胸に伴うものばかりだった。
完全に暴走したのは、宵闇をこの手にかけた直後のことだ・・・・・・。
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その一撃は念の放出を抑えてくれたが、絶望に堕ちようとする白妙の心を止めたわけではなかった。
全てを手放し、自ら闇にのまれようとする白妙は、その時、自分の手を強く握る者があることに、沈みゆく意識の中かろうじて感じ取っていた。
繋いだ手から温かな気が流れ込んでくる。
白妙は朦朧としながら、その手の主を「海神だろうか。」と考えていた。
そんなにたくさんの気を私に与えてしまったら、お前の妖気が無くなってしまうよ・・・・・・。
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