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いいかげんな妖鬼

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 本当に、なんなんだ。
 この、蒼という男は・・・・・・。
 話す言葉があまりにも直球過ぎる。

 都古も勝も熱に当てられのぼせたようだ。
 顔を手で扇いでいた。
 そんなことはお構いなしに、蒼は光弘へと声をかける。

 「光弘・・・・。君は、黒をどうする気だ。」

 「・・・・?」

 「このままここに置いておく気なのか。その傷・・・・自然に治るのを待つなら、数カ月はかかるぞ。・・・・君が望むなら、ボクらで黒を預かってやってもいい。」

 「蒼・・・・勝手をするな。」

 蒼は軽く睨みをきかせてきた黒の目を、じっと見つめ小さく噴き出した。

 「心配するな。ボクの館へ君を閉じ込めたりはしないよ。あそこは光弘には辛すぎる。短期間ならいいかもしれないけど、長期間はおすすめしない。光弘が自由に出入りできないからね。黒・・・・きみ、そんなの耐えられないだろう。・・・・ボクだったら絶対、無理。」

 海神と自分に置き換えて想像したのだろう。
 蒼はいっそ清々しいまでの勢いで、海神に抱き着いて言い放った。

 「私の神殿や神社がある。私たちも、しばらくは人の世に暮らすつもりだ。二人でそこへ来るのはどうだ。」

 海神の言葉に、光弘は少し考えただけですぐに首を縦に振った。

 「君、潔いなぁ。家の人は、大丈夫なのかい?」

 「父さんにはなんとか伝えてみる。このままでは黒はちゃんと休めない・・・・。こんなに自分が傷ついているのに、今だって結界を張ったままなんだ。」

 言われて俺はようやく気付いた。
 光弘の傍らにゆいがいないのに、彼が話をすることができているのは、黒が弱い結界を常に張っているからなんだ。

 黒は光弘を見つめ、すねたようにうなだれた。
 どうやら、光弘が気づいていないと思っていたようだ。

 「だけど本当に、住まわせてもらって、いいんですか。」

 「かまわない。ただ、しばらく準備の期間が欲しい。その間は黒を蒼の館にあずけておいてくれ。自由に出入りはできなくなるが、結界をはればお前も黒とともに過ごせる。気兼ねはするな。・・・・望む時は念話で私を呼べ。」

 「あのさ。ちょっと、聞きたいんだけど・・・・。」

 俺は、いい加減我慢できず、口を開いた。
 はぐらかされてもいい、思い切って聞いてやる。

 「蒼の住んでいる場所って、一体どこなんだ?」

 俺の問いかけに、蒼はきょとんとしている。
 海神は答えるべきか、迷っているようだ。

 光弘の手をにぎったままの黒が、あきれたというように蒼を見つめ、熱で乱れた荒い呼吸に重ねるように、深いため息を一つついた。

 「ボク、まだ君たちに言ってなかったんだっけ?」

 蒼は、凛と姿勢を正して立っている海神に、今度は横から絡みつくと、挨拶でもするような軽い口調で言い放った。

 「冥府さ。ボクは黒と同じく双凶と呼ばれてる、妖鬼・・・・蒼だよ。」

 叩きつけられた突然の事実に、言葉もなく目を大きく見開いた俺たちの目の前で、蒼は全身に薄く光を帯び、その正体を現した。

 海神より低かった身長はグッと伸び、190センチほどの長身がその場に現れる。
 流れる長い白銀の髪に、海色の澄んだ瞳。
 匂い立つような美しい容姿は、黒とは違った華やかな魅力にあふれている。

 「うそだろ?」

 「まじか・・・・・。」

 俺も、勝も、都も、光弘も、思わず口をあんぐり開けて呆然としてしまった。
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