140 / 324
宵闇の過去 4 (龍粋)
しおりを挟む
ある日唐突に・・・・神妖たちにとっては、何の前触れもなく、抗い難い絶望の暗い影が神妖界を包み込んだ。
前兆に気づいていた者はただ一人・・・・・龍粋のみである。
長を凌ぐ妖力の持ち主として知られている龍粋だが、決しておごるようなことはなく、五常に重きを置いた性質をもち、どの者も分別しない公平で静謐とした人物であるため、彼を貶めるような言葉を吐く者はいなかった。
誰一人として太刀打ちのできる者などいないほどの強大な力を有しているにもかかわらず、神妖界の守護として常に修練を重ね続ける龍粋の姿は、精励恪勤そのものでもあり、狭い世界に生きる神妖たちを安心させる心の礎ともなっていた。
皆に癒しを与えるのが長ならば、安心を与えているのが、この龍粋という男である・・・・・。
そんな龍粋にとって、自分よりわずかながら時を遅くして生まれた白妙と宵闇の2人は、人でいう兄弟のような、かけがえのない大切な存在だ。
幼いころから屈託なく自分に絡みついてくる、自分と歳の近い2人を、心から愛おしく想っていたし、常に互いを支え合っている二人の姿は、龍粋の目にとても好ましく映っていた。
長が人の子を保護し、育て始めてから暫くたったある日・・・・・。
毎日の神事として行っている榊の占いの指し示した結果に、龍粋は独り戦慄していた。
示された未来に、自分の影を欠片も見出すことができなかったのだ。
龍粋の脳裏に、白妙と宵闇の姿が鮮明に浮かび、同時に「共に生きたい」という叫び出したいほどの強い想いが激流となって溢れ出た。
心の内では生きることを諦めるつもりはなかったが、龍粋は自分の占いが違えることのないことを、今までの経験から理解してもいた。
龍粋はその日。
誰に告げることもなく、独り命逢を訪れた。
先日、命逢の大樹に気になるところがあり確認にきた際、偶然目にした幼子がどうしようもないほど気にかかっていたのだ。
その幼子は、生まれながらに並外れた妖力を持っていた。
一緒に過ごしている他の幼子たちは、正確に感じ取れないまでも、この幼子に異質なものを感じているのか、彼を追いやったり、からかったりとして仲間に入れようとせず悪さを重ねていた。
だのに、強い妖力を持つこの幼子は、その力を使って防いだり、やり返すことなどはしなかった。
そればかりか、離れて逃げていればよいものを、子供らの輪からほど近い位置に凛としてたたずみ、決して離れようとはしないのだ。
彼のその行いに子供らの残虐な好奇心は更に煽られ、ついには石などをぶつけ始めた。
この子は、妖力は強いけれども、その力の使い方を知らないのかもしれない。
身を守る力を持ちながらそれを使わない幼子の姿に、龍粋がそう結論づけていると、投げられた石が幼子の頬を傷つけ、血が流れた。
それまで耐えて見守っていた龍粋は、たまらず止めに入ろうと歩みでようとし、すぐにその足を止めた。
子供らからはまだ離れていたが、背後の枝に巨大な神妖の長い影が忍び寄ろうとしているのが見えたのだ。
神妖の中にも、質の悪い者は少なからずおり、子供を喰って妖力を上げ理性を失っているものもいる。
子供らを狙い静かに枝を伝うそいつは穢れ堕ちたそれ、そのものだった。
龍粋は眉をひそめ、それが子供たちに近寄る前に排除しようとした。
だが、龍粋よりも早く動いた者がいた。
・・・・あの、幼子だ。
彼は印を組み、小さく口を動かした。
その瞬間、枝に絡みついたそれは、赤黒い蒸気を吹き上げながら干からびていき、最期は粉になって崩れ去った。
幼子はそれを見届けると、クルリと背を向けその場から立ち去っていった。
歩み去る幼子の背に、何も気づいていない子供らの投げつける石がいくつもぶつかっていた。
前兆に気づいていた者はただ一人・・・・・龍粋のみである。
長を凌ぐ妖力の持ち主として知られている龍粋だが、決しておごるようなことはなく、五常に重きを置いた性質をもち、どの者も分別しない公平で静謐とした人物であるため、彼を貶めるような言葉を吐く者はいなかった。
誰一人として太刀打ちのできる者などいないほどの強大な力を有しているにもかかわらず、神妖界の守護として常に修練を重ね続ける龍粋の姿は、精励恪勤そのものでもあり、狭い世界に生きる神妖たちを安心させる心の礎ともなっていた。
皆に癒しを与えるのが長ならば、安心を与えているのが、この龍粋という男である・・・・・。
そんな龍粋にとって、自分よりわずかながら時を遅くして生まれた白妙と宵闇の2人は、人でいう兄弟のような、かけがえのない大切な存在だ。
幼いころから屈託なく自分に絡みついてくる、自分と歳の近い2人を、心から愛おしく想っていたし、常に互いを支え合っている二人の姿は、龍粋の目にとても好ましく映っていた。
長が人の子を保護し、育て始めてから暫くたったある日・・・・・。
毎日の神事として行っている榊の占いの指し示した結果に、龍粋は独り戦慄していた。
示された未来に、自分の影を欠片も見出すことができなかったのだ。
龍粋の脳裏に、白妙と宵闇の姿が鮮明に浮かび、同時に「共に生きたい」という叫び出したいほどの強い想いが激流となって溢れ出た。
心の内では生きることを諦めるつもりはなかったが、龍粋は自分の占いが違えることのないことを、今までの経験から理解してもいた。
龍粋はその日。
誰に告げることもなく、独り命逢を訪れた。
先日、命逢の大樹に気になるところがあり確認にきた際、偶然目にした幼子がどうしようもないほど気にかかっていたのだ。
その幼子は、生まれながらに並外れた妖力を持っていた。
一緒に過ごしている他の幼子たちは、正確に感じ取れないまでも、この幼子に異質なものを感じているのか、彼を追いやったり、からかったりとして仲間に入れようとせず悪さを重ねていた。
だのに、強い妖力を持つこの幼子は、その力を使って防いだり、やり返すことなどはしなかった。
そればかりか、離れて逃げていればよいものを、子供らの輪からほど近い位置に凛としてたたずみ、決して離れようとはしないのだ。
彼のその行いに子供らの残虐な好奇心は更に煽られ、ついには石などをぶつけ始めた。
この子は、妖力は強いけれども、その力の使い方を知らないのかもしれない。
身を守る力を持ちながらそれを使わない幼子の姿に、龍粋がそう結論づけていると、投げられた石が幼子の頬を傷つけ、血が流れた。
それまで耐えて見守っていた龍粋は、たまらず止めに入ろうと歩みでようとし、すぐにその足を止めた。
子供らからはまだ離れていたが、背後の枝に巨大な神妖の長い影が忍び寄ろうとしているのが見えたのだ。
神妖の中にも、質の悪い者は少なからずおり、子供を喰って妖力を上げ理性を失っているものもいる。
子供らを狙い静かに枝を伝うそいつは穢れ堕ちたそれ、そのものだった。
龍粋は眉をひそめ、それが子供たちに近寄る前に排除しようとした。
だが、龍粋よりも早く動いた者がいた。
・・・・あの、幼子だ。
彼は印を組み、小さく口を動かした。
その瞬間、枝に絡みついたそれは、赤黒い蒸気を吹き上げながら干からびていき、最期は粉になって崩れ去った。
幼子はそれを見届けると、クルリと背を向けその場から立ち去っていった。
歩み去る幼子の背に、何も気づいていない子供らの投げつける石がいくつもぶつかっていた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる