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勝の追跡

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 白妙しろたえによってくろが激しく打ち据えられる中、自分たちの居所を見つけられず、いたたまれない気持ちを抱えたまま、俺と勝と都古は稽古場で光弘が来るのを待ち続けていた。

 時計の針が8時を回ったころ、俺はしょう都古みやこに声をかけた。

 「2人とも、泊まってかないか。簡単なものなら俺が飯作るし。今日はもう遅い。・・・・それに・・・・・・悪い。俺が独りで過ごすの、辛いんだ。」

 勝と都古は驚いた顔で見つめてきたが、2人ともすぐに表情を暗くし目をふせた。
 先に口を開いたのは勝だった。
 
 「悪いけど、台所貸してくれよ・・・飯は俺が作る。・・・・真也しんや、俺の方から頼む・・・・こんな気持ちのまま帰れねえよ。」

 「・・・・真也。・・・・私も頼む。・・・・すまない。」

 絞り出すように答えた都古の声は、かすれて震えていた。
 俺は彼女の胸の内を想うと、どうしようもできず、ただ頭をなでてやることしかできなかった。

 「当たり前だろ・・・・。謝るなよ・・・・都古。」

 俺が母さんと父さんに伝えると、二人とも何も聞かず、笑顔で首を縦にふってくれた。
 勝と都古のことが大好きな妹の瑞月みずきは、単純に喜んで勝に抱っこされている。

 「みっくんは?」

 あどけない瑞月の言葉に、俺たちは一瞬表情を硬くした。

 「今日はちょっと用事があるみたいで来れないんだ。」

 俺がそう言うと、瑞月はつまらなそうに唇を尖らせたが、都古に頭をなでられて、すぐに機嫌を良くした。

 順番に風呂に入っている間に、勝が4人分のチャーハンを用意してくれていた。
 勝のチャーハンは絶品なのだが、今回のはいつもと味が違った。

 恐らく、味をつけ忘れたのだろうが、そのことに気づいているのかいないのか、誰もそのことに触れることはなく、ただもくもくと口に運ぶ。

 心も体も疲れているはずなのに、目だけが冴え冴えと覚めきってしまって、俺たちはいつまでも座ったまま、時折ため息をついてただ寄り添っていることしか出来ないでいた。

 「光弘っ・・・。」

 ふと、風が吹いた気がしてその方向に慌てて目をやると、いつになく元気のない癒がつ宙をただよっていた。
 じっと語り掛けるようにボクを見つめてくるその瞳に、心の奥でさざ波がたつ。

 「癒・・・・光弘に何か起きてるのか。」

 癒は小さくうなずくと、勝の方へ向かって顎を上げた。

 「勝。癒が、お前の力を借りたがってる・・・・。」

 自分でも不思議な感覚なのだが、癒の言いたいことは、俺の頭の中に浮かびあがるように伝わってくる。
 勝も心得たもので、すぐに視線を鋭くして神経を集中させる。

 「どうすればいい?」
 「闇色の球を出して欲しいみたいだ。」

 俺は、感じたままに勝へ伝えた。
 いつもと違う癒の様子に緊張感を持ちながら、すぐに闇色の玉を作り出し、宙に浮かべた。
 闇色の球が自分の身体の大きさを越えた途端、癒は音もなくその中へ飛び込み、そのまま一瞬で転移していってしまった。

 「あいつ!俺の事使うだけ使って、1人で行ったのかよ!」

 勝の憤る声に、人差し指をたてながら、俺と都古は勝を座らせた。
 
 「勝、声がデカイ。みんな寝ている。静かにしろっ。」

 都古の言葉に苦笑してから、俺は表情を引き締めて勝に問いかけた。

 「お前の術は解けちゃってるのか?」
 「いや。まだだ。」

 癒に置いて行かれてふてくされた様子の勝に、都古は困った顔で話しかける。

 「落ち着け。お前にしかできないことだ。・・・・・術が解けていなければ、お前なら癒の元までたどる事ができるはず。」
 「そうか!」

 都古の言葉にようやく気力を取り戻し、勝は癒の行く先をたどった。
 勝は目を閉じると眉間に皺をよせ、慎重に気配を探り続けた。

 「届いた・・・・!」
 「よし!」
 「行こう。」

 俺たちは自分の身体から、精神せいしんを切り離し、すぐさま勝について癒の後を追った。

 あと少しで辿っていた糸の先にたどり着くというその直前で、勝の術が解けてしまった。
 切れた糸が宙に舞う。

 俺は目をこらし気配を集中させた。
 糸が切れたということは、癒は無理矢理どこかの空間に飛び込んだ可能性が高い。
 癒がたどった軌跡を何もない白い世界で探っていると、ようやく癒が作ったと思わる綻びをみつけた。

 微かに紫色の電流が滞留している場所をみつけた俺は、全ての色の術を練り込んだ力を刀の形で顕現させ、ためらうことなくそこへ切り込んだ・・・・・・。
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