上 下
101 / 324

2年後 1

しおりを挟む
 俺と光弘は、命逢みおの上空に浮かぶ島にいた。
 島の中はうっそうと樹々が生い茂り、様々な花が咲いている。

 俺も、勝も、光弘も、中学1年の後半から、だいぶ背が伸び身体もしっかりし
てきた。
 都古は相変わらず小さいままだったが・・・・・。

 宙を泳ぎ優しく頬を突いてくる金色の魚に、光弘は笑顔を向けた。
 胸びれをくすぐるようにしてそっと撫でる。
 金の魚は嬉しそうに光弘にまとわりついてはしゃいだが、それをゆいが、心底うっとおしそうに追い払ってしまった。

 出会ったあの日から、2年が経とうとしていたが、相変わらず癒は、見た目と違って光弘以外にはクールだった。

********************************

 祭の翌日から、妖月ようげつ神妖じんようたちがかわるがわる俺たちに体術、言霊、妖術、剣術などなど、あらゆる稽古をつけてくれた。

 どういう心境の変化があったのか、光弘は最終的に、ゆいとの契約を受け入れた。
 契約を終えた癒は、毛並みが艶やかに輝き、上等になったように見えた。

 光弘は、自分がもつ能力について俺たちに聞かせてくれた。
 自分の歌声が、生き物たちの成長を異常なほど促してしまうのだと。

 話を聞きながら難しい顔をして何か考え込んでいた白妙だったが、光弘が「最期に小さな人の形をなして消えてしまうのだ」と、伝えると優しく微笑んだ。

 「私に思い当たることがある。光弘。お前、我慢の必要などないぞ。ここで歌ってみろ。」

 光弘がためらいがちに歌い始めた途端、辺りのものが激しくざわつき始めた。
 歌に込められた光弘の想いそのままに、強く優しく激しく成長を遂げていく。

 俺たちは急激に成長を遂げていく生き物たちの姿に圧倒され、息をのんだ。

 成長を終えた生き物たちは、淡い光を放ち、小さな人のような生き物に姿を変えた。
 だが、歌が終わっても彼らの姿は光弘が言ったように消えたりはしない。

 自分を囲い、戯れるたくさんの小さな命に驚き、光弘は白妙を振り返った。

 「やはりな・・・・。光弘。お前のその声は、命を奪っているのではない。命を与えているのだ。」

 驚く光弘に白妙は言った。

 「恐らくだが、生まれたばかりの神妖にとって、人の世は存在し続けるのが難しい場所なのだろう。消えたようにみえて、連中は必ずどこかで生きている。心配するな。運が向けばいつか出会うこともあろう。」

 契約を経た癒が強さを増したせいもあるのだろうか。
 光弘の周りは癒が常に気を配り、必要に応じて結界を張ったりもしているため、光弘は以前ほど神経をとがらせなくても話をすることができるようになった。

********************************

 その後。
 俺たちは、妖月の神妖の面々に、かなり容赦なく鍛え上げられた。

 そのおかげで最近では、執護あざねの仕事の一つである、ひずみの回収のような簡単な依頼なら、白妙しろたえ久遠くおんの補助無しで、俺たちだけで任せてもらえるようになってきたのだ。

 現に今、現在進行形でしょう都古みやこが、近所の道路わきに発生したひずみの回収依頼を受け、2人で出かけている。

 「ゆい。おいで。・・・・・始めよう。」

 そう言うと、光弘は樹々の向こうで口を開けている洞窟の中へ入って行った。

 光弘がこの島で一人鍛錬に励んでいることを知ったのは、実はほんの3カ月ほど前のことだった。
 まじめな光弘は、通常の稽古を終えた後、この浮き島で一人トレーニングを続けていたのだ。

 洞窟の奥へ進み、澄んだ水が湧き続ける泉のそばにくると、光弘は下着1枚になった。

 服を着ていると全くわからないが、光弘は細く見えて意外といい体つきをしているのだ。
 腕も背中も腹も、柔らかくしなやかな筋肉が影を落としている。

 俺も光弘と同じように下着1枚になり、2人で浅い泉の中に静かに入った。
 冷たい水に、気後れしそうになる心を追い立て、泉の中心で胡坐を組み、手を静かに腹の前で組んだ。

「癒。お願い。」

 光弘の声に、癒は瞳を光らせた。
 俺たちの頭上に見えない滝口ができ、上から冷水が落ちてくる。
 その冷たさに、一瞬息がつまった。
 すると冷たかった水が、光弘の方だけ適温のシャワ―のように変化した。

 光弘が、滝の下から顔を出し、髪をかき上げて癒に向かって困ったように微笑んだ。
 相変わらずの涼し気な目元は以前にもまして優し気で、見る者の目を惹く。

 「癒・・・・・ありがとう。でもこれじゃ、修行にならないよ。」

 癒はまるで「光弘はそんな辛い事しなくていい。」とでも言いたいのか、小首をかしげている。

 「というか、癒。・・・・なんで俺は水のままなんだよ。」

 俺が苦笑すると、癒はさも当然とばかりに胸をそらした。

 癒は力いっぱい光弘にだけ甘い。
 海神にすすめられて始めた滝行まで、気持ちのいい入浴時間にしてしまうのだから、どうしようもなかった。

 でも、まあ、光弘にはそれくらいでちょうどよかったのかもしれない。

 放っておくと、どんどんストイックに、深みにはまっていってしまうのだ。

 そもそもこの浮島を修行の場に選んだのも、高所が苦手なのを克服するためなのだと言っていた。
 光弘は相変わらず、人に優しいのに自分の事は追い詰める。

 「癒・・・・。俺、強くなりたいんだ。」

 光弘の言葉に癒はすぐに滝の温度を水に戻した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ライターズワールドオンライン~非戦闘ジョブ「アマ小説家」で最弱スキル「ゴミ拾い」の俺が崩壊世界でなりあがる~

いる
ファンタジー
小説家以外の誰もが滅亡を受け入れてしまったMMOファンタジー世界。主人公の七尾ヤクルは滅亡の日の朝、目覚まし時計に起こされて王城へ向かった。アマチュア作家の彼は滅亡を受け入れた立場であったが、この世界を新しく、よりよくしていく作家たちに強い羨望があったのだ。 彼はそこでプロ作家の花咲のゐるに出会う。のゐるが書く小説は素晴らしい……ヤクルは自分がどれほど彼女の作品を愛しているかを訴えると、彼女はヤクルの言葉に涙した。のゐるは小説が書けない現状と作品への批判に疲弊し、傷ついていたのだ。そんな彼女の心にヤクルの優しい励ましは深く届いた。 そして、のゐるは自らの信頼と立場からヤクルを「アマチュア作家」から「コネ作家」にする。傍目馬鹿される立場を得たヤクルだが、彼は作家になることができ心から喜んだ。小説家としてはまだまだの七尾ヤクルであるが、かくして作家として新しい世界に生きる権利を得る。 彼は果たして作家への愛と、最弱スキル「ゴミ拾い」でもって、崩壊世界でなり上がることができるのか……?

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

処理中です...