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出会い 3

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 「あったあった。」

 突然、それまで黙って成り行きを見守っているかに思えた都古みやこが声を上げた。
 その手には、いつの間に手にしたのか携帯電話が握られている。

 「おい!それ、俺の!」

 「黙れ、わっぱ。うるさいぞ。」

 野崎が抗議こうぎの声を上げたが、都古は一蹴いっしゅうしかまわず携帯をいじり始める。

 光弘にばかり気を取られていて気付かなかったが、明らかに都古の様子がおかしい。
 そればかりか、全身が総毛そうけだつような得体の知れないビリビリとした空気がこの場を急速に満たしていく。
 今まで感じたことのない異様な雰囲気に、俺は神経を尖らせた。

 しょうを見ると、同じように辺りを警戒しながら都古に向かっていぶかし気に目を細めている。

 あれは誰だ。都古・・・・・だよな?

 國本らは、都古の言動に一瞬けげんそうな表情で眉間にしわを寄せたが、お互い顔を見合わせ盛大に噴き出した。

 「なにこいつ!急に変なしゃべり方しやがって!」

 「マジで、頭いっちゃってんじゃねぇか?」

 「野崎、早く携帯取り返せ!動画撮ってその変な女、ネットにさらしてやれ!」

 「お前らまだわかんねーの?大人連中が、お前らと俺らのどっちの言う事を聞くと思う?何が悪いかなんて関係ねーんだよ!俺らについた方が得なんだ。今までたてついてきた連中と同じように、お前らもハメて終わらせてやるよ。」

 勝ち誇り高笑いしている4人をおもしろくない表情で黙って眺めていた都古は、つまらなそうに頭を横にふった。
 気だるげに左手をまっすぐ真上に上げると、鋭く一直線に胸の前まで振り下ろし手刀てがたなを斬る。

 「黙れ、外道が!」

 都古の声とは思えないほどの大きな声が、空気をビリビリ震わせる。
 黒くにごった雲の隙間にまばゆい光を放つこぶし大のボールが現れ、一瞬のうちに飛んできて教室の窓にぶつりはじけ散った。

 ピシャーンッ!

 目の前に雷が落ちたのではないかと思うほどの爆音と閃光に、都古を除く全員が身をすくめる。
 腰を抜かしてひっくり返った野崎たちを満足そうに見まわすと、都古は額に人差し指をあて今度は何やら考え込んでしまった。

 「國本、野崎、大澤、奴賀ぬかか。家族構成、進学先・・・・・こんなところか。」

 都古はしばらくの間、ぶつぶつと独り言のように何事かつぶやいていたが、突然野崎たち4人の家族構成や住所、進学先の中学校。野崎にいたってはまだ担任に相談すらしていなかった受験予定の中学校までつらつらと言い連ね始める。
 理解の及ばない事態に4人は青ざめた。

 「間違いなかろう。私は人間の頭の中をのぞき見ることができるのでな。」

 都古が笑みを浮かべながら、いつの間に手にしていたのか、4人のスマホを次々と操作していく。

 「それにしても。リコ・・・という者が光弘に恋慕れんぼの情をいだくのがそれほどまでに気に入らぬか。光弘が消えたところで、お主らのようなさもしい男にリコとやらが心を寄せるとは思えぬが。」

 信じがたいことに、操作していない携帯電話は宙に浮かんで整列していた。

 「面倒ではあったが、使い方を覚えておいたのは正解だったな。」

 「お前・・・・なにを?」

 「いやなに、お主らの親にひとこと挨拶あいさつをと思ってな。なんの言われもなく一方的な被害を受けた、などとお主らの親に触れ歩かれたのでは、私の沽券こけんにかかわる。だからこうして、私がこれから行うのは正当な理由あっての報復ほうふくである、ということを先に伝えているのだ。」

 都古は震える4人の顔を覗き込みながら、さも当たり前のことだと言わんばかりにあでやかに笑いながら野崎の問いに答えた。

 宙に浮いたままの携帯が一斉に告げ始めたバイブ音は悲鳴のように、響き渡るたび野崎たちの恐怖心をさらにあおった。

 「お主らのような無力な者は知らぬのだろうが、私に手を出せばどのような末路まつろをたどることになるか。身近におる大人どもであれば少しは耳にしているだろう。どうする。望み通り私はこのままお主らとやり合ってもかまわぬが・・・・・。」

 何が何だかわからないまま、野崎たち4人は得体の知れない恐怖に目を白黒させて、とにかく必死に首を横に振り続ける。

 それを確認した都古の顔から、先ほどまで浮かんでいた笑みがスーッとひいていった。
 教室の中は冷え切っているのに、野崎たちの背中は噴き出した冷たい汗でじっとりと濡れた。
 ほんの少し前まで静かに降り注いでいた雨は暴雨となり、恐ろしいうなり声を上げながら窓を激しくなぐりつけている。

 「嫉妬しっとくるい、他者をおとしめるなど。恥を知れ!」

 都古は、燃えさかる冷たい怒りを宿した視線で4人を見据え、ゾッとする凄みを帯びた声で言い放った。

 「心が殴られれば人は必ず見えない傷を負う。重すぎる傷を負った者は、苦しみから逃れるため、命を投げ出すこともあるのだ。」

 都古の言葉に息苦しいほどの重い沈黙がその場を満たしていく。

 「お主らはやりすぎた。怒らせてはならぬ者の逆鱗げきりんに触れたのだ。」

 言うと、都古は手のひらを自分の胸の高さまで持ってきて、何の前触れもなく親指で中指をはじいた。

 バチッ!

 「ぐわぁっ!」

 國本が右ひじを抑えてうずくまる。

 「クズが。この程度の痛みで騒ぐな。貴様らが光弘へ与え続けた苦しみに比べればちりのようなものよ。」

 都古は表情を一切動かすことなく、目に見えない驚異的きょういてきな速さで指をはじいた。
 時間にすればほんの2、3秒のことだったろう。その間に数十発の見えない攻撃がようしゃなく4人に襲い掛かり、教室の中にパチパチとぜる音が響き渡った。野崎たちは痛みで床の上をのたうち回っている。

 「助けてくれ・・・・。」

 「お願いだ。もう・・・もう、やめてくれ。」

 涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら懇願こんがんする4人を都古は冷ややかに見下ろす。

 「救いようのないゴミどもが。よくもそのような台詞せりふを吐けたものだ。・・・・・貴様らになぶられながら、光弘が独り何を思っていたか・・・・・わかるか?」

 都古がかなしみに表情かおゆがめた。

 だがそれはほんの一瞬のことだった。
 すぐにその瞳から感情を消し去ると、都古は「思い知れ」とでも言うかのように、再び指をはじいて4人を更に激しく痛めつけた。

 動きを止めこちらを見据みすえている都古の、凍り付く冷たい瞳に、野崎たちはもう動くことすらできない。

 「このまま消してしまおうか。」

 教室は、息をすることすらためらわれる緊張感と、時間がせき止められているかのようなよどんだ沈黙に支配されていた。

 金縛りにあったらこんな感じになるのだろうか。頭では動かそうとしているのに身体が全く言う事をきかず、動こうにもピクリとも動けない。

 勝も俺と同じ状態におちいっているのだろう、脂汗あぶらあせを流しけわしい表情を浮かべている。

 都古の放つ尋常ならざる気配が急速に濃さを増していく。
 都古の指先は、禍々しい紫色の光を放ちバチバチと音を立てながら、今まさにはじかれようとしていた。

 ヤバイ!

 このままでは、取り返しのつかないことが起きる。
 そう思った瞬間、俺の横を突然カラカラとマジックペンが転がっていった。
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