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思い違い 3
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「・・・・・・?」
「鈍い奴だな・・・・・・。どうりで白妙が苦労するしかないわけだ。」
さっぱりわからないという|《かお》で眉間に深いしわをよせた宵闇を、蒼はくすりと笑った。
「・・・君、自分のことなのにまだわからないのか。君と白妙が互いに求めていることなんて、今のボクらとこれっぽっちも変わらないはずだろう?」
蒼は腕の中の海神をこのうえなく愛おし気に抱き締めた。
久遠の父は、その様子を視線を鋭くして見つめているが、どうやら口を出す気はなさそうだ。
「・・・重要なのは、誰の傍にいたいのか・・・誰に傍にいて欲しいのか、それだけだよ。」
蒼の言葉に、宵闇の表情からは潮が引くように険しさがすっと遠のいていく。
幸せで仕方がないという表情をして蒼の腕の中で大人しく抱かれたままでいる、このうえなく憎たらしい存在であるはずの海神の姿が、なぜだろう・・・宵闇の脳裏で白妙の儚げな笑みと重なり、どうしようもないほどチラついていた。
すっかり灰と化したはずであった宵闇のくすみ切った心の中で、潜み続けていたひとかけらと言うにはあまりにも心細い、純粋過ぎる願いの燃えかすが、鋭く放たれた矢のようになって心の隅をかすめ、そこにわずかな傷を作っる・・・・・・。
白妙の、喜ぶ表情が好き。
彼女の幸せになりたい。
それこそが、自分が何よりも強く願い続けていたことなのではなかっただろうか・・・・・・。
「やっぱり、残っているね・・・。」
蒼は海神にだけ届く声でひっそりささやくと、容赦なく宵闇へ追い打ちをかける。
「白妙のやつ・・・本当は君と、心ゆくまで存分に愛し合いたくて仕方がないんだ・・・。それなのに、君は彼女を置いて何も言わず、勝手にいなくなっちゃうし・・・。挙げ句の果てには穢れ堕ちたりなんてするものだから・・・。可哀そうに、残された独りぼっちの白妙は、一体どうすればよかったんだ?」
蒼の赤裸々な言葉に、宵闇の表情はこのうえなく暗く沈み込み、しおれ切ってしまった。
極めて醜悪な輝きをギラつかせていた血のように紅い瞳はすっかり色あせ、腕から噴き出す黒い霧までもがその勢いをわずかに弱めている。
美しい白銀の妖鬼が紡ぎ出す数々の言葉に、偽りはない。
力強くしなやかな蒼の温もりにしっかりと抱かれたまま、海神は哀しみに潤んだ瞳をそっと伏せた。
「彼女は、選ぶしかなかったんだよ。君の香りでいっぱいの、神妖界をさ・・・・・・。」
「鈍い奴だな・・・・・・。どうりで白妙が苦労するしかないわけだ。」
さっぱりわからないという|《かお》で眉間に深いしわをよせた宵闇を、蒼はくすりと笑った。
「・・・君、自分のことなのにまだわからないのか。君と白妙が互いに求めていることなんて、今のボクらとこれっぽっちも変わらないはずだろう?」
蒼は腕の中の海神をこのうえなく愛おし気に抱き締めた。
久遠の父は、その様子を視線を鋭くして見つめているが、どうやら口を出す気はなさそうだ。
「・・・重要なのは、誰の傍にいたいのか・・・誰に傍にいて欲しいのか、それだけだよ。」
蒼の言葉に、宵闇の表情からは潮が引くように険しさがすっと遠のいていく。
幸せで仕方がないという表情をして蒼の腕の中で大人しく抱かれたままでいる、このうえなく憎たらしい存在であるはずの海神の姿が、なぜだろう・・・宵闇の脳裏で白妙の儚げな笑みと重なり、どうしようもないほどチラついていた。
すっかり灰と化したはずであった宵闇のくすみ切った心の中で、潜み続けていたひとかけらと言うにはあまりにも心細い、純粋過ぎる願いの燃えかすが、鋭く放たれた矢のようになって心の隅をかすめ、そこにわずかな傷を作っる・・・・・・。
白妙の、喜ぶ表情が好き。
彼女の幸せになりたい。
それこそが、自分が何よりも強く願い続けていたことなのではなかっただろうか・・・・・・。
「やっぱり、残っているね・・・。」
蒼は海神にだけ届く声でひっそりささやくと、容赦なく宵闇へ追い打ちをかける。
「白妙のやつ・・・本当は君と、心ゆくまで存分に愛し合いたくて仕方がないんだ・・・。それなのに、君は彼女を置いて何も言わず、勝手にいなくなっちゃうし・・・。挙げ句の果てには穢れ堕ちたりなんてするものだから・・・。可哀そうに、残された独りぼっちの白妙は、一体どうすればよかったんだ?」
蒼の赤裸々な言葉に、宵闇の表情はこのうえなく暗く沈み込み、しおれ切ってしまった。
極めて醜悪な輝きをギラつかせていた血のように紅い瞳はすっかり色あせ、腕から噴き出す黒い霧までもがその勢いをわずかに弱めている。
美しい白銀の妖鬼が紡ぎ出す数々の言葉に、偽りはない。
力強くしなやかな蒼の温もりにしっかりと抱かれたまま、海神は哀しみに潤んだ瞳をそっと伏せた。
「彼女は、選ぶしかなかったんだよ。君の香りでいっぱいの、神妖界をさ・・・・・・。」
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