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宵闇との対峙 4
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少女は悲痛な面持ちで光弘をこの場から逃がそうと必死だ。
だが、彼女を置いてこの場から去ることはとてもできないと、光弘も全く引く様子を見せないでいる。
蒼は意識をそちらへ向け、興味深く聞き耳を立てた。
少女の悲痛な声が、酷く丁寧に光弘へ告げる。
「みーくん。宵闇は余計な事を言っていたけれど、私は最期まで心のままに生きることができたんだ。言霊を使って君と運命を入れ替えたのは、私の意思だよ。・・・・君は何も、気にする必要はないんだ。」
光弘は再び大きく頭を横に振ったが、少女は有無を言わせない表情でそれを厳しく制した。
「いい子だから言う事を聞いて。もう二度と、失いたくないんだ。」
何か思うところがあったのだろう。
少女は少しの間をあけて、続きを口にする。
「それに、黒が酷く弱っている。今彼を守れるのは、みーくんだけだ。」
少女は光弘の額に、自分の額を重ねた。
「私もすぐに戻るから。お願い・・・・彼の傍に、いてあげて。」
少女の言葉に、光弘はついに力なく目を伏せてしまった。
それを見て、蒼が海神の耳元に艶のある声でささやく。
「彼女は必死だ。光弘のことがよほど大切みたいだね。ボクの想いには勝てないけど。」
「うん。」
海神は黒の言葉に一切の恥じらいを見せることなく、素直にうなずく。
いかなる時であっても、蒼が何よりも海神を優先してくれていることを、海神自身が心の深くまで染み渡るほど感じきっていたし、いつだってこの男のこの想いに柔らかく包み込まれているのだ。
あまりにも正直に過ぎる海神の反応に、少しばかり驚いたのだろう。
蒼はわずかに目を見開いた後、どうにも幸せでたまらないのだと言うように微笑むと、空いている手で海神の髪をこのうえなく丁寧にすきながら口を開いた。
「まさか、黒を餌に光弘がこの場を去るように仕向けるなんてね。」
口角を上げ、目を輝かせている蒼はとても楽し気だ。
深く艶のある声で羽毛が撫でるように耳の先をくすぐられた海神は、うずくような甘さに目を細めた。
ふいに、海神の腰の辺りに回されていた、蒼のしなやかな長い指が、ピクリとわずかに曲げられる。
「あー・・・。光弘がぐずっているあいだに、卑しい覗き見野郎が、ついに欲望を抑えきれなくなったみたいだ。自分も舞台に上がってくるなんて。全く・・・無粋な奴だね。」
「・・・うん。」
どこか気の抜けたような気だるげな口調をしているが、蒼の視線は鋭い。
油断なく光弘の背後を見つめ、一切の隙をみせることはなかった。
海神も印を組み、すかさず攻防の対応ができるよう、すっかり準備を整えている。
彼らにしてみれば予測した通り、光弘の背後の闇に一筋の光の線が入り、不気味な腕が顔を覗かせるのが目に映った。
「こいつ!」
刹那。
その存在に気づいた真也が光弘の腕を強く引き、かばうように前を塞いだ。
瞬時に妖力で刀の形を顕現させ、すかさず腕に切りつける。
蒼はこのうえなく興味深げにそれを見つめ口を開いた。
「悪くない。・・・なるほど。そこの切れ目はこれで作ったのか。」
腕はひらりと真也の攻撃をかわしたが、鋭く振り下ろされた刀は、そのまま腕の根元辺りをほんの僅かばかり斬り裂いた。
だが、彼女を置いてこの場から去ることはとてもできないと、光弘も全く引く様子を見せないでいる。
蒼は意識をそちらへ向け、興味深く聞き耳を立てた。
少女の悲痛な声が、酷く丁寧に光弘へ告げる。
「みーくん。宵闇は余計な事を言っていたけれど、私は最期まで心のままに生きることができたんだ。言霊を使って君と運命を入れ替えたのは、私の意思だよ。・・・・君は何も、気にする必要はないんだ。」
光弘は再び大きく頭を横に振ったが、少女は有無を言わせない表情でそれを厳しく制した。
「いい子だから言う事を聞いて。もう二度と、失いたくないんだ。」
何か思うところがあったのだろう。
少女は少しの間をあけて、続きを口にする。
「それに、黒が酷く弱っている。今彼を守れるのは、みーくんだけだ。」
少女は光弘の額に、自分の額を重ねた。
「私もすぐに戻るから。お願い・・・・彼の傍に、いてあげて。」
少女の言葉に、光弘はついに力なく目を伏せてしまった。
それを見て、蒼が海神の耳元に艶のある声でささやく。
「彼女は必死だ。光弘のことがよほど大切みたいだね。ボクの想いには勝てないけど。」
「うん。」
海神は黒の言葉に一切の恥じらいを見せることなく、素直にうなずく。
いかなる時であっても、蒼が何よりも海神を優先してくれていることを、海神自身が心の深くまで染み渡るほど感じきっていたし、いつだってこの男のこの想いに柔らかく包み込まれているのだ。
あまりにも正直に過ぎる海神の反応に、少しばかり驚いたのだろう。
蒼はわずかに目を見開いた後、どうにも幸せでたまらないのだと言うように微笑むと、空いている手で海神の髪をこのうえなく丁寧にすきながら口を開いた。
「まさか、黒を餌に光弘がこの場を去るように仕向けるなんてね。」
口角を上げ、目を輝かせている蒼はとても楽し気だ。
深く艶のある声で羽毛が撫でるように耳の先をくすぐられた海神は、うずくような甘さに目を細めた。
ふいに、海神の腰の辺りに回されていた、蒼のしなやかな長い指が、ピクリとわずかに曲げられる。
「あー・・・。光弘がぐずっているあいだに、卑しい覗き見野郎が、ついに欲望を抑えきれなくなったみたいだ。自分も舞台に上がってくるなんて。全く・・・無粋な奴だね。」
「・・・うん。」
どこか気の抜けたような気だるげな口調をしているが、蒼の視線は鋭い。
油断なく光弘の背後を見つめ、一切の隙をみせることはなかった。
海神も印を組み、すかさず攻防の対応ができるよう、すっかり準備を整えている。
彼らにしてみれば予測した通り、光弘の背後の闇に一筋の光の線が入り、不気味な腕が顔を覗かせるのが目に映った。
「こいつ!」
刹那。
その存在に気づいた真也が光弘の腕を強く引き、かばうように前を塞いだ。
瞬時に妖力で刀の形を顕現させ、すかさず腕に切りつける。
蒼はこのうえなく興味深げにそれを見つめ口を開いた。
「悪くない。・・・なるほど。そこの切れ目はこれで作ったのか。」
腕はひらりと真也の攻撃をかわしたが、鋭く振り下ろされた刀は、そのまま腕の根元辺りをほんの僅かばかり斬り裂いた。
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