双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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精神体

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 三毛に全てを託し館を離れると、あおは白い世界の中、海神わだつみを気遣わし気に見つめた。

 「大丈夫?きみは、こんな風に身体から離れたりしたことはないんだろう?」

 「うん。」

 「困ったことがあったらすぐに教えて。」

 「あお・・・。」

 「ん?」

 「私は、やはり・・・頼りないか。」

 海神わだつみの問いかけに、あおは驚いて目を見開いたが、すぐに表情を和ませ、彼を抱き寄せた。

 「本当にきみは、可愛いことばかり言ってくれるね。抱きたくなっちゃうじゃないか。・・・ん?そういえば・・・精神体同士でそういうことはできるのかな。」

 海神わだつみが困った表情かおを腕の中からのぞかせると、あおは軽口を止め、苦く笑った。

 彼の実直な問いかけには最大限の誠意をもって答えるべきだったと少し反省し、あおは姿勢を正す。

 海神わだつみの澄み切った黒曜の瞳を射抜くように、このうえなく真剣に見つめ、あおは静かに口を開いた。

 「ねぇ。・・・覚えて、海神わだつみ。・・・・・・仮に君が、ボクよりも何十倍も強い力を持つ者だったとしても、ボクは今と変わらないよ。」

 「・・・・・・?」

 「あんなに言ったのに、また忘れてしまったの?・・・・・・ボクを動かせるのはこの天地できみ、ただ一人だよ。」

 海神わだつみが困った表情かおのままいるものだから、あおは少し呆れたように笑った。

 「君が頼りないんじゃない。・・・これはボクの問題なんだ。きみへの想いが強すぎて、いつだってボクの身体は勝手に君を守ろうと動いちゃうし、そうしたくて、うずうずしてる。君を守れることは、ボクにとって最高のご褒美だ。きみが頼りない奴だから守ってやろうだなんておこがましい事は、考えたこともない。」

 海神わだつみの伏せた長いまつ毛がかすかに震えた。

 「それでも気になるというなら、一つ言わせてもらう。・・・もし、きみが本当に頼りなく儚い者だとしたら、ボクは君を繭に閉じ込めて、絶対に出したりしないだろうね。・・・・・・君を失うこと以上に、恐ろしいことはないんだから。」

 海神わだつみはきっと、何に生まれ落ちても変わらなかった。
 彼は、彼のままだ。
 だが、自分は違う。
 妖鬼として力を持って生まれ落ちていなければ、海神わだつみに触れるどころか、出会うことも、近づくことさえも許されなかっただろう。

 あおにとって、海神わだつみはそれほどまでに尊い存在なのだ。

 言葉の限りを尽くしてもまだ足りないというように、あおはさらに言い募る。

 「ねぇ。・・・お願いだから、不安がらないで・・・。きみはこんなにも大切な、ボクの光なのに・・・。君がいてくれるから、ボクはこうしてようやく、生きることを楽しめているんだ。きみなしには気づけなかったんだ。世の中がこんなにも華やかで鮮やかな色に満ち溢れているなんて・・・・・・。ボクの世界を守っているのは君だ。きみは、誰よりも気高く・・・強く・・・目がくらむほど、美しい・・・。」

 目を上げた海神わだつみに、ゆっくりと丁寧な口調であおは問いかける。

 「ボクに守られるのは・・・嫌?」

 あおの問いかけに、海神わだつみは首を横に振った。

 「嬉しい。凄く。」

 「・・・君のそういう繊細で素直なところも、大好きなんだ。本当にたまらないよ。いつだって、壊れるまで抱き尽くしてしまいたくなる。」

 あお海神わだつみの顎を指で引き寄せ上向けると、甘く唇を重ねた。

 身体中の全ての感覚が直に海神わだつみと繋がった様な、あまりに鮮烈な快感が瞬時に全身を走り抜け、あおは驚いて息をのんだ。
 ゾクリと震えるほどの劣情が湧き上がり、慌てて海神わだつみから唇を離す。

 どうやら精神体で触れ合うことは、かなり強烈な感覚を伴うようだ。
 さすがに状況をわきまえ、あおは吹き出しそうな欲望にやっとのことで蓋をすると、口を開いた。

 「さて、どうやらみんなも、ボクらとは違った意味でお楽しみ中みたいだ。そろそろお邪魔させてもらおうか。」

 「うん。」

 瞳を熱く潤ませたまま、海神わだつみあおの腕の中でうなずく。

 あおが印を組むと、雪に包まれたような白い世界から二人の姿は砂のようにかき消えていった・・・・・・。
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