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龍粋の涙
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白妙と宵闇が兄のように慕う、龍粋という男は、このような局面で意味もなく面会を求めるような者ではない。
冷静になって考えてみれば、すぐにわかる事だった。
・・・・宵闇なら、放っておいたりしていなかった。
彼なら、必ず龍粋の元へ駆け付け、寄り添っていたはずなのだ・・・・。
・・・・白妙は、ただただ宵闇の想いを継ぎたい一心で、龍粋の元へと急いだ。
宵闇のそばを離れた瞬間から・・・・。
白妙はひたすらに、泣き出したいのを・・・・・叫び出したいのを、気が狂いそうなほど耐えていた。
宵闇の傍から、片時も離れたくない・・・・・。
彼の存在は、あの日あやふやな者になったまま、戻らないでいるのだ。
もし・・・・彼の身に間違いが起きたらどうしよう。
今、この瞬間も、彼があの場にあの姿のままでとどまってくれているとは限らないのだ・・・・・。
だが、だからこそ、白妙は龍粋の元へ行くべきだと考えていた。
彼の意思を継いでやれるものは、自分を除いて誰も存在しないのだ。
宵闇ならどうする?
宵闇がそばにいるなら、私に何を求めるだろう?
彼がいない今だからこそ、彼の影を欠片も失ってはいけない。
そんな、焦りを帯びた強い想いに背中を押され、白妙は龍粋の元へ急いだ。
白妙が龍粋の部屋の前へ立つと、静かに扉が開いた。
音のない部屋の中へ、白妙が恐る恐る足を踏み入れると、柔らかく深い静かな声が耳朶を揺らした。
「ちょうど、今眠ってしまったんだ。・・・・・本当は、君に会わせたかったのだけど。・・・考えてみれば宵闇が共にいる時の方が、いいに決まっていたな。」
「龍粋・・・・・」
寝台の上で健やかに寝息を立てている幼子の髪を、慈しむように撫でていた龍粋は、手を止め、伏せていた視線を白妙に向けた。
その瞳から、涙が静かに流れ出す。
「白妙・・・・・すまない。・・・・許せとは言わない。私は・・・・・大きな罪を犯した。お前を傷つけるつもりも、お前から宵闇を奪うつもりも、なかったのだ。」
龍粋は深く頭を下げ、動こうとしなかった。
「・・・そんなことをするな。・・・・私も、宵闇も・・・・あの時のことを後悔など、していないのだ。・・・今も、これからも。」
そう言って白妙は、そっと龍粋の身体を起こし、彼の濡れた瞳を見つめた。
龍粋の涙を見たことなど、今まで一度もなかった。
彼はいつも穏やかに微笑み、どんな時も常に、宵闇と自分を包み込んでくれていた。
あの日・・・。
宵闇を失うかもしれないという恐怖に直面した白妙は、自分にとって宵闇の存在がどれほど大きくかけがえのないものであるかを思い知らされ、心を埋め尽くされた。
生々しさを帯びて突き付けられた突然の感情と別れの恐怖に、白妙が心を縛られたとして、そんな白妙をだれが責めるだろうか・・・・・。
だが、誰に責められなかったとしても、白妙は自分を許せなかった。
あんなにも深く大きな存在であった龍粋が、ここまで・・・・こんなにも小さく見えるほど追い詰められていることに、思い至ろうとすらしなかった、自分のあまりの思いやりのなさに、白妙は自分の頬を張り飛ばしてやりたかった・・・・・。
冷静になって考えてみれば、すぐにわかる事だった。
・・・・宵闇なら、放っておいたりしていなかった。
彼なら、必ず龍粋の元へ駆け付け、寄り添っていたはずなのだ・・・・。
・・・・白妙は、ただただ宵闇の想いを継ぎたい一心で、龍粋の元へと急いだ。
宵闇のそばを離れた瞬間から・・・・。
白妙はひたすらに、泣き出したいのを・・・・・叫び出したいのを、気が狂いそうなほど耐えていた。
宵闇の傍から、片時も離れたくない・・・・・。
彼の存在は、あの日あやふやな者になったまま、戻らないでいるのだ。
もし・・・・彼の身に間違いが起きたらどうしよう。
今、この瞬間も、彼があの場にあの姿のままでとどまってくれているとは限らないのだ・・・・・。
だが、だからこそ、白妙は龍粋の元へ行くべきだと考えていた。
彼の意思を継いでやれるものは、自分を除いて誰も存在しないのだ。
宵闇ならどうする?
宵闇がそばにいるなら、私に何を求めるだろう?
彼がいない今だからこそ、彼の影を欠片も失ってはいけない。
そんな、焦りを帯びた強い想いに背中を押され、白妙は龍粋の元へ急いだ。
白妙が龍粋の部屋の前へ立つと、静かに扉が開いた。
音のない部屋の中へ、白妙が恐る恐る足を踏み入れると、柔らかく深い静かな声が耳朶を揺らした。
「ちょうど、今眠ってしまったんだ。・・・・・本当は、君に会わせたかったのだけど。・・・考えてみれば宵闇が共にいる時の方が、いいに決まっていたな。」
「龍粋・・・・・」
寝台の上で健やかに寝息を立てている幼子の髪を、慈しむように撫でていた龍粋は、手を止め、伏せていた視線を白妙に向けた。
その瞳から、涙が静かに流れ出す。
「白妙・・・・・すまない。・・・・許せとは言わない。私は・・・・・大きな罪を犯した。お前を傷つけるつもりも、お前から宵闇を奪うつもりも、なかったのだ。」
龍粋は深く頭を下げ、動こうとしなかった。
「・・・そんなことをするな。・・・・私も、宵闇も・・・・あの時のことを後悔など、していないのだ。・・・今も、これからも。」
そう言って白妙は、そっと龍粋の身体を起こし、彼の濡れた瞳を見つめた。
龍粋の涙を見たことなど、今まで一度もなかった。
彼はいつも穏やかに微笑み、どんな時も常に、宵闇と自分を包み込んでくれていた。
あの日・・・。
宵闇を失うかもしれないという恐怖に直面した白妙は、自分にとって宵闇の存在がどれほど大きくかけがえのないものであるかを思い知らされ、心を埋め尽くされた。
生々しさを帯びて突き付けられた突然の感情と別れの恐怖に、白妙が心を縛られたとして、そんな白妙をだれが責めるだろうか・・・・・。
だが、誰に責められなかったとしても、白妙は自分を許せなかった。
あんなにも深く大きな存在であった龍粋が、ここまで・・・・こんなにも小さく見えるほど追い詰められていることに、思い至ろうとすらしなかった、自分のあまりの思いやりのなさに、白妙は自分の頬を張り飛ばしてやりたかった・・・・・。
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