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湯語り 1 ※R15
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・・・・静まり返った浴場へ移動すると、ボクは結界の領域を広げた。
ボクの結界内に包まれた滝口から、止まっていた湯が動き出して流れ落ち、温かな湿り気をおびた湯けむりが、肌を撫でる。
ボクは力の入らない海神をしっかり腕で支え、丁寧に彼の髪や身体をすみずみまで洗い、流してやった。
海神は心地よさそうに目を細め、ボクの首に腕を回すと小さく口づけてきた。
「ありがとう・・・蒼。」
ボクは海神をそっと、湯船の淵へ座らせ足を湯につけさせてから、自分の身体を洗い流した。
湯の中へ進んだボクは、海神へ向かって両手を伸ばす。
「海神・・・・おいで。」
ボクの腕に倒れこむように飛び込んできた海神を、心の底から愛おしく思いながら、強く抱きすくめる。
しばらくしてからボクが腕を緩めると、海神が軽く咳込んだ。
「ごめんっ。強くし過ぎた。」
「いい。・・・その方が、嬉しい。」
そういって笑う海神が、なんだか消えてしまいそうな・・・儚く危ういものに見えて、ボクは怖くなって、慌てて彼を腕の中に閉じ込めた。
「・・・・蒼?」
海神の濡れた髪に顔をうずめ、動かなくなってしまったボクに、海神が不安げな声を上げた。
海神を胸に抱いたまま深く考え込んでしまっていたボクは、その声に我に返り、ごまかすように彼の頭をなでた。
「なんでもないよ。君が、可愛すぎて動けなくなったんだ。」
海神の鼻の先を軽くつまんで、瞳をのぞきこむと、海神の深い色の瞳が少しずつ細められていって・・・・気づいた時には、ボクはすでに海神と絡み合いながら、奪い合うような激しい口づけを交わしていた。
あんなに激しく体を重ねたばかりだというのに、ボクはもう海神が欲しくてたまらなくなってくる。
ボクはいいけれど、海神にこれ以上の情交は毒になる。
「海神・・・・海神・・・・。ちょっと、落ち着きたい。このままだと君を、抱き殺してしまいそうなんだ。」
ボクの首に絡めた腕に力を込め、海神はうなじに顔をうずめると動かなくなった。
「お前に抱かれて死ねるなら、本望だ。」
「海神・・・・君が本当にそれを望むなら、ボクはためらわないよ。」
ボクは海神の透き通るような耳をついばみながら、ささやいた。
「だけどボクはまだ、全然君が足りてないんだ。お願いだから・・・・そんなこと望んだりしないで。・・・・君の傍で、もっと生きていたい。愛してるんだ。」
「うん。」
海神の首筋に小さく口づけ続けると、くすぐったいのか、海神はわずかに首をすくめている。
「蒼・・・・・あの後一体、何があった。部屋が瓦礫の山と化していた。心臓が止まるかと・・・。」
ボクの背に腕を回し、胸に頬をよせながら海神が静かに問いかけてきた。
「大丈夫。黒のやつが、ちょっと挨拶してっただけだよ。・・・・ありがとう。ボクを想ってくれて。ねぇ・・・・・そういえば君は、黒と会ったことはなかったのか?」
海神を湯の中につけてやりながらボクが問いかけると、彼はほんの少し眉をひそめた。
「・・・・一度。彼が宵闇を壊した時、私はその場にいた。・・・・なぜ、そんなことを聞く。」
「ん?特に深い理由があるわけじゃないよ。ただ・・・・君は初めのうち、ずっと白妙とともに過ごしていたんだろう?」
「・・・・うん。」
「宵闇を壊された白妙の、黒に対する恨みは深い・・・・。それなのに、白妙の傍らに常にいたはずの君が、ほとんど黒に反応を示さないから・・・少し、気になったんだ。」
海神は少し首をかしげた。
「彼は、誰よりも強力で邪悪な力を持つ妖鬼だ。危険なことはわかっている。だが・・・・・。」
海神は、困ったように目を伏せてしまった。
「彼の心は、悪なのだろうか。・・・・私にはそれがわからない。」
ボクの結界内に包まれた滝口から、止まっていた湯が動き出して流れ落ち、温かな湿り気をおびた湯けむりが、肌を撫でる。
ボクは力の入らない海神をしっかり腕で支え、丁寧に彼の髪や身体をすみずみまで洗い、流してやった。
海神は心地よさそうに目を細め、ボクの首に腕を回すと小さく口づけてきた。
「ありがとう・・・蒼。」
ボクは海神をそっと、湯船の淵へ座らせ足を湯につけさせてから、自分の身体を洗い流した。
湯の中へ進んだボクは、海神へ向かって両手を伸ばす。
「海神・・・・おいで。」
ボクの腕に倒れこむように飛び込んできた海神を、心の底から愛おしく思いながら、強く抱きすくめる。
しばらくしてからボクが腕を緩めると、海神が軽く咳込んだ。
「ごめんっ。強くし過ぎた。」
「いい。・・・その方が、嬉しい。」
そういって笑う海神が、なんだか消えてしまいそうな・・・儚く危ういものに見えて、ボクは怖くなって、慌てて彼を腕の中に閉じ込めた。
「・・・・蒼?」
海神の濡れた髪に顔をうずめ、動かなくなってしまったボクに、海神が不安げな声を上げた。
海神を胸に抱いたまま深く考え込んでしまっていたボクは、その声に我に返り、ごまかすように彼の頭をなでた。
「なんでもないよ。君が、可愛すぎて動けなくなったんだ。」
海神の鼻の先を軽くつまんで、瞳をのぞきこむと、海神の深い色の瞳が少しずつ細められていって・・・・気づいた時には、ボクはすでに海神と絡み合いながら、奪い合うような激しい口づけを交わしていた。
あんなに激しく体を重ねたばかりだというのに、ボクはもう海神が欲しくてたまらなくなってくる。
ボクはいいけれど、海神にこれ以上の情交は毒になる。
「海神・・・・海神・・・・。ちょっと、落ち着きたい。このままだと君を、抱き殺してしまいそうなんだ。」
ボクの首に絡めた腕に力を込め、海神はうなじに顔をうずめると動かなくなった。
「お前に抱かれて死ねるなら、本望だ。」
「海神・・・・君が本当にそれを望むなら、ボクはためらわないよ。」
ボクは海神の透き通るような耳をついばみながら、ささやいた。
「だけどボクはまだ、全然君が足りてないんだ。お願いだから・・・・そんなこと望んだりしないで。・・・・君の傍で、もっと生きていたい。愛してるんだ。」
「うん。」
海神の首筋に小さく口づけ続けると、くすぐったいのか、海神はわずかに首をすくめている。
「蒼・・・・・あの後一体、何があった。部屋が瓦礫の山と化していた。心臓が止まるかと・・・。」
ボクの背に腕を回し、胸に頬をよせながら海神が静かに問いかけてきた。
「大丈夫。黒のやつが、ちょっと挨拶してっただけだよ。・・・・ありがとう。ボクを想ってくれて。ねぇ・・・・・そういえば君は、黒と会ったことはなかったのか?」
海神を湯の中につけてやりながらボクが問いかけると、彼はほんの少し眉をひそめた。
「・・・・一度。彼が宵闇を壊した時、私はその場にいた。・・・・なぜ、そんなことを聞く。」
「ん?特に深い理由があるわけじゃないよ。ただ・・・・君は初めのうち、ずっと白妙とともに過ごしていたんだろう?」
「・・・・うん。」
「宵闇を壊された白妙の、黒に対する恨みは深い・・・・。それなのに、白妙の傍らに常にいたはずの君が、ほとんど黒に反応を示さないから・・・少し、気になったんだ。」
海神は少し首をかしげた。
「彼は、誰よりも強力で邪悪な力を持つ妖鬼だ。危険なことはわかっている。だが・・・・・。」
海神は、困ったように目を伏せてしまった。
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