双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
上 下
94 / 266

湯語り 1 ※R15

しおりを挟む
 ・・・・静まり返った浴場へ移動すると、ボクは結界の領域を広げた。
 ボクの結界内に包まれた滝口から、止まっていた湯が動き出して流れ落ち、温かな湿り気をおびた湯けむりが、肌を撫でる。

 ボクは力の入らない海神をしっかり腕で支え、丁寧に彼の髪や身体をすみずみまで洗い、流してやった。

 海神は心地よさそうに目を細め、ボクの首に腕を回すと小さく口づけてきた。

 「ありがとう・・・蒼。」

 ボクは海神をそっと、湯船の淵へ座らせ足を湯につけさせてから、自分の身体を洗い流した。
 湯の中へ進んだボクは、海神へ向かって両手を伸ばす。

 「海神・・・・おいで。」

 ボクの腕に倒れこむように飛び込んできた海神を、心の底から愛おしく思いながら、強く抱きすくめる。
 しばらくしてからボクが腕を緩めると、海神が軽く咳込んだ。

 「ごめんっ。強くし過ぎた。」

 「いい。・・・その方が、嬉しい。」

 そういって笑う海神が、なんだか消えてしまいそうな・・・儚く危ういものに見えて、ボクは怖くなって、慌てて彼を腕の中に閉じ込めた。

 「・・・・蒼?」

 海神の濡れた髪に顔をうずめ、動かなくなってしまったボクに、海神が不安げな声を上げた。

 海神を胸に抱いたまま深く考え込んでしまっていたボクは、その声に我に返り、ごまかすように彼の頭をなでた。

 「なんでもないよ。君が、可愛すぎて動けなくなったんだ。」

 海神の鼻の先を軽くつまんで、瞳をのぞきこむと、海神の深い色の瞳が少しずつ細められていって・・・・気づいた時には、ボクはすでに海神と絡み合いながら、奪い合うような激しい口づけを交わしていた。

 あんなに激しく体を重ねたばかりだというのに、ボクはもう海神が欲しくてたまらなくなってくる。
 ボクはいいけれど、海神にこれ以上の情交は毒になる。

 「海神・・・・海神・・・・。ちょっと、落ち着きたい。このままだと君を、抱き殺してしまいそうなんだ。」

 ボクの首に絡めた腕に力を込め、海神はうなじに顔をうずめると動かなくなった。

 「お前に抱かれて死ねるなら、本望だ。」

 「海神・・・・君が本当にそれを望むなら、ボクはためらわないよ。」

 ボクは海神の透き通るような耳をついばみながら、ささやいた。

 「だけどボクはまだ、全然君が足りてないんだ。お願いだから・・・・そんなこと望んだりしないで。・・・・君の傍で、もっと生きていたい。愛してるんだ。」

 「うん。」

 海神の首筋に小さく口づけ続けると、くすぐったいのか、海神はわずかに首をすくめている。

 「蒼・・・・・あの後一体、何があった。部屋が瓦礫の山と化していた。心臓が止まるかと・・・。」

 ボクの背に腕を回し、胸に頬をよせながら海神が静かに問いかけてきた。

 「大丈夫。黒のやつが、ちょっと挨拶してっただけだよ。・・・・ありがとう。ボクを想ってくれて。ねぇ・・・・・そういえば君は、黒と会ったことはなかったのか?」

 海神を湯の中につけてやりながらボクが問いかけると、彼はほんの少し眉をひそめた。

 「・・・・一度。彼が宵闇を壊した時、私はその場にいた。・・・・なぜ、そんなことを聞く。」

 「ん?特に深い理由があるわけじゃないよ。ただ・・・・君は初めのうち、ずっと白妙とともに過ごしていたんだろう?」

 「・・・・うん。」

 「宵闇を壊された白妙の、黒に対する恨みは深い・・・・。それなのに、白妙の傍らに常にいたはずの君が、ほとんど黒に反応を示さないから・・・少し、気になったんだ。」

 海神は少し首をかしげた。

 「彼は、誰よりも強力で邪悪な力を持つ妖鬼だ。危険なことはわかっている。だが・・・・・。」
 
 海神は、困ったように目を伏せてしまった。

 「彼の心は、悪なのだろうか。・・・・私にはそれがわからない。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

[R18] ヤンデレ彼氏のお仕置き

ねねこ
BL
優しいと思って付き合った彼氏が実はヤンデレで、お仕置きされています。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...