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すれ違い 2
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・・・・・・眠りについてしまった海神を部屋に残したまま、ボクは"祈りの間"で独り、遠い過去の記憶に想いを馳せていた。
妖鬼の王が死に、神妖界が落ち着いた後も、ボクがあの美しい青年の神妖について、正体を追及することはなかった。
流れ落ちていった星の正体を暴いたところで、もう触れることも・・・・視線を交わすことさえも叶わない・・・・・。
強烈に胸をしめつけてくるやり場のない想いと、刹那の甘やかな記憶を、胸の奥深くへ強引にしまいこむことしか、ボクにできることはなかった。
彼との約束を果たした時点で、託された力を使うべき場所さえも失ったボクは、しばらく放蕩して過ごした。
どんな事をしてみても、とほうもない虚無感が打ち寄せる波のように恒久的に心の穴をえぐり続ける。
ボクは癒えることのない痛みを抱きしめたまま、老いることも死ぬこともできず亡羊とした時だけを与えられた我が身を、心の底から呪っていた。
そうして何もかもに嫌気がさし、空虚な毎日を自堕落に過ごしていたボクの前に、彼は現れた・・・・・。
海神・・・・・・。
ボクは心の中で静かにその名を呼んだ。
それだけのことなのに、胸の奥が温かさで満たされ、彼の姿を心に思い描けばドクリと全身が熱く脈打った。
ボクは初めて、自分が妖鬼に生まれたことを激しく憎んだ。
この身勝手で凶暴なボクの本能は、ささいなことで目を覚まし、今回のように海神の心と身体を繰り返し傷つけるだろう。
そのたびにボクは、彼に涙をこぼさせる・・・・・。
不意に目の前の空気が揺らいだ。
海神が、いつもと変わらないきちんとした身なりで静かにたたずんでいる。
だが注意深く見れば、目の淵は赤く、乱暴な口づけを受けた唇は、少し腫れ艶めかしく染まっていた。
「大丈夫か。」
そう言って伸ばしてきた彼の手を、ボクは拒絶し振り払った。
海神を守りたいのに、誰よりも傷つけてしまうのはボク自身だ。
あまりのふがいなさに、ボクは気が狂いそうなほど打ちのめされていた。
「ボクに触れるな。」
海神は目をふせ小さくうなずく。
「わかった・・・・。」
海神は静かにそう言うと、背を向けてボクから距離をとろうと歩き出した。
思わずボクは、海神を後ろから抱きすくめた。
「蒼・・・・私は・・・。」
ボクは何か言いかけた海神の顎を指で引き上げ、口づけで唇を無理矢理ふさいだ。
息苦しいほどの愛おしさが熱の塊になって湧きあがってくる。
急に怖くなったボクは、慌てて海神を突き放すと、その場から逃げ出そうとした。
そんなボクの腕を、海神の手が強くつかんだ。
「蒼・・・・。何を恐れている。・・・・何を怒っているんだ。」
何も言えず、その場に足を止めたボクを、今度は海神が後ろから抱きしめてくる。
ボクは目を閉じて、背中に感じる海神の温もりを感じた。
何も答えを返さないボクを、海神は黙ったまま、根気よく待ち続けているようだった。
ボクは耐えられなくなって、腰に回された海神の腕をほどこうとした。
同時に、耳元で濡れて消え入りそうな海神の細い声が響く。
「お願いだ・・・・離れてくれるな。」
ボクは海神の腕を握りしめた手を止めた。
妖鬼の王が死に、神妖界が落ち着いた後も、ボクがあの美しい青年の神妖について、正体を追及することはなかった。
流れ落ちていった星の正体を暴いたところで、もう触れることも・・・・視線を交わすことさえも叶わない・・・・・。
強烈に胸をしめつけてくるやり場のない想いと、刹那の甘やかな記憶を、胸の奥深くへ強引にしまいこむことしか、ボクにできることはなかった。
彼との約束を果たした時点で、託された力を使うべき場所さえも失ったボクは、しばらく放蕩して過ごした。
どんな事をしてみても、とほうもない虚無感が打ち寄せる波のように恒久的に心の穴をえぐり続ける。
ボクは癒えることのない痛みを抱きしめたまま、老いることも死ぬこともできず亡羊とした時だけを与えられた我が身を、心の底から呪っていた。
そうして何もかもに嫌気がさし、空虚な毎日を自堕落に過ごしていたボクの前に、彼は現れた・・・・・。
海神・・・・・・。
ボクは心の中で静かにその名を呼んだ。
それだけのことなのに、胸の奥が温かさで満たされ、彼の姿を心に思い描けばドクリと全身が熱く脈打った。
ボクは初めて、自分が妖鬼に生まれたことを激しく憎んだ。
この身勝手で凶暴なボクの本能は、ささいなことで目を覚まし、今回のように海神の心と身体を繰り返し傷つけるだろう。
そのたびにボクは、彼に涙をこぼさせる・・・・・。
不意に目の前の空気が揺らいだ。
海神が、いつもと変わらないきちんとした身なりで静かにたたずんでいる。
だが注意深く見れば、目の淵は赤く、乱暴な口づけを受けた唇は、少し腫れ艶めかしく染まっていた。
「大丈夫か。」
そう言って伸ばしてきた彼の手を、ボクは拒絶し振り払った。
海神を守りたいのに、誰よりも傷つけてしまうのはボク自身だ。
あまりのふがいなさに、ボクは気が狂いそうなほど打ちのめされていた。
「ボクに触れるな。」
海神は目をふせ小さくうなずく。
「わかった・・・・。」
海神は静かにそう言うと、背を向けてボクから距離をとろうと歩き出した。
思わずボクは、海神を後ろから抱きすくめた。
「蒼・・・・私は・・・。」
ボクは何か言いかけた海神の顎を指で引き上げ、口づけで唇を無理矢理ふさいだ。
息苦しいほどの愛おしさが熱の塊になって湧きあがってくる。
急に怖くなったボクは、慌てて海神を突き放すと、その場から逃げ出そうとした。
そんなボクの腕を、海神の手が強くつかんだ。
「蒼・・・・。何を恐れている。・・・・何を怒っているんだ。」
何も言えず、その場に足を止めたボクを、今度は海神が後ろから抱きしめてくる。
ボクは目を閉じて、背中に感じる海神の温もりを感じた。
何も答えを返さないボクを、海神は黙ったまま、根気よく待ち続けているようだった。
ボクは耐えられなくなって、腰に回された海神の腕をほどこうとした。
同時に、耳元で濡れて消え入りそうな海神の細い声が響く。
「お願いだ・・・・離れてくれるな。」
ボクは海神の腕を握りしめた手を止めた。
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