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1巻
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(せやけど……このままやったら、ベタなざまぁ劇まっしぐらやで)
恐怖と屈辱で震えるロゼッタを視界の端に捉えながら、ジゼルはどうにか丸く収める手立てがないか考える。子供相手に極刑なんてことはないだろうが、この手のざまぁのテンプレから考えて、令嬢としての身分を剥奪された上、生涯修道院に閉じ込められることくらいは十分にあり得る。
ロゼッタの言葉は確かに悪かったが、貧乏人扱い以外は正論ど真ん中だし、あれくらいの悪口陰口でいちいち罰せられていたらかなわない。
そもそも、罰を下した側が不利益を被りかねないことに、ミリアルドは多分気づいていない。
ここに集められているのは、この国に名を轟かす名家の令嬢ばかり。
不勉強なせいでビショップ家がどのような家柄かジゼルは知らないが、婚約者候補に挙がっている以上、少なくともルクウォーツ家と対等かそれ以上の立場であり、後ろ盾として求められているくらいなのだから〝たかが側室腹の王太子〟に泣き寝入りすることはしないだろう。
報復とは往々にして連鎖するもの。ざまぁしたはずの側がざまぁされ返される、なんてことは容易に想像がつく。そうなったらシナリオ崩壊どころか、国家滅亡なんてこともあり得る。
(アカンアカン! どないかせんと!)
焦る気持ちとは裏腹に、頭の中が真っ白になって何も思いつかない。
(うあああ! ウチは正真正銘のアホや! 悪役令嬢やのにチートもなんもなくて、なんの役にも立たん――ん? あ、そうや! ウチは悪役令嬢やったわ!)
悪役令嬢といえば究極のいじめっ子――ジゼルは天啓のようなひらめきに身を任せて立ち上がると、ロゼッタの頭をツッコミよろしく平手でスパーンッと叩いた。
「こンのアホんだらぁ! なんちゅうナメたマネしてくれとんじゃワレェ!」
やばい。とっさのことで素の言葉遣いが出てしまったし、加減なしでぶっ叩いたので、ロゼッタが机に突っ伏さんばかりに傾いている。
おまけに悪役を意識しすぎたせいで、ヤクザ化して令嬢らしさどころか女らしさの欠片もない。
だが、やらかしに絶望しても時すでに遅し。飛び出してしまった言葉は元には戻らない。
速攻で言いつけを破ってしまった己の迂闊さに頭を抱えたくなったが、ロゼッタは突然見知らぬ相手に罵声と共に叩かれたことで放心状態だし、他の令嬢たちも言わずもがな。
泣いていたアーメンガートも怒り狂っていたミリアルドも、きつすぎる訛りにポカンとした間抜け面で思考停止している。
失態を晒して大ピンチではあるが、この場をうやむやに終わらせる大チャンスにもなり得る。ジゼルは周りが混乱している間に思考を切り替え、夜叉のごとき表情で罵声を浴びせ続けた。
「取り巻きは取り巻きらしく、ウチの後ろでボケーッと突っ立っとけばええもんを! ちっぽけな正義感振りかざしてええ子ちゃんぶって、呼ばれもせんのにしゃしゃり出てくるから、こないなことになるんやろーがぁ、このすっとこどっこい! そのカラッポのドタマをパッカーンとかち割って、ゴミ捨て場に埋めてまうぞゴラァ!」
傲慢な悪役令嬢が不出来な取り巻きを罵倒するシーンを演じるつもりだったのに、これではヤクザが不手際をやらかした舎弟を叱り飛ばしているようにしか聞こえない。
(これやから、大阪人は悪役令嬢に向かへんねん!)
破れかぶれになりつつもこのまま思い描くシナリオに突き進むべく、恵比寿神のようにニッコォッとした笑みを張りつけて、バカップルに揉み手をしながらごますり体勢に入る。
「いやぁ、ウチの妹分がえらい申し訳ないことしましたぁ。ホンマに、すんませんでしたぁ。この通りアホみたいに気が強うて真っ直ぐな子やから、誰彼構わずついつい噛みついてしまうことがありますのや。この子にはウチからよぉーよぉー言って聞かせますんで、このジゼル・ハイマンの顔に免じて、今回のことは堪忍したってください。お願いしますわぁ。ほれ、アンタも頭下げぇや!」
クレーム対応社員のように平身低頭ペコペコと謝り倒したジゼルは、最後は背伸びしてロゼッタの後頭部をグイグイ押して謝罪のポーズを取らせる。
ロゼッタは珍妙な寸劇にひどく困惑してはいたが、ハイマン家の令嬢相手に抵抗して謝罪を拒否すればもっと話がこじれるのを理解しているのか、渋々ながら深く頭を下げた。
「……も、申し訳、ございませんでした。ミリアルド殿下、ルクウォーツ嬢。数々のご無礼と失言、どうぞお許しください……」
「ほらほら、この子もこうして反省してますやろ。つまらんことで不敬罪やなんやって物騒なこと言わんと、歳も近いモン同士なんですから、みんなで仲よくやりましょうや。ね? ね?」
ジゼルは恵比須顔を崩さず、揉み手しながらミリアルドたちを宥めすかす。
一連の出来事にすっかり毒気を抜かれたミリアルドとアーメンガートの二人は呆れ顔を突き合わせたのち、ややあってミリアルドが嘆息と共に口を開く。
「……ハイマン嬢がそこまで言うなら、今回のことは不問に付す。その代わり、僕とアーメンガートがいかに固い絆で結ばれているか、社交界全体に徹底的に周知させろ。それを引き裂こうとすればどうなるかも、な。公爵家の発言権があればそれくらい容易いだろう?」
「はーい、喜んでぇ!」
居酒屋店員風の返事をしながら、お茶目なテヘペロ顔で親指を立てるジゼルに、ミリアルドは「こいつ大丈夫か?」と額に手を当てて苦悩する。
よし、いい感じにロゼッタから意識を切り離せた。すかさず視線をスライドさせて、場を仕切っていそうな執事らしい年配の使用人に「今がチャンスやで、オッチャン!」と目力で念を送る。
その合図に気づいた執事は慌てて動き出し、ミリアルドに「お茶会はどうなさいますか?」と耳打ちした。できる執事で助かった。
「……僕はアーメンガートと二人きりで仕切り直す。汚れたドレスを着替えさせたいし、またビショップ嬢のような愚者に噛みつかれては敵わない。他の令嬢たちは適当にもてなしてから帰せ」
ミリアルドはしばし黙考したのちにそう告げ、愛する人をお姫様抱っこする。
「きゃ、殿下……⁉」
「ここまで駆けてきて疲れただろう。僕のために酷使した足を労ってあげないとね」
「あああ、あの、わたくし、その、重いので……!」
「大丈夫だよ、アーメンガート。君は羽のように軽い」
などと乙女ゲーム的な会話をしながら、バカップルたちは再び二人の世界に入り込み、挨拶もなしに客人たちに背を向けて去っていった。
呆気に取られた一同がそれを見送り――すっかり見えなくなってから、執事がゴホンッとわざとらしい咳払いをして場を仕切り直す。
「えー……この度はお忙しい中お集まりいただきましたのに、お嬢様方にはなんとお詫び申し上げればよいのやら。私どももこのような展開は想像すらしておらず、大変困惑しておりますが……殿下からのお言葉通り、みな様を精一杯おもてなしさせていただきますので、お時間が許します限りごゆっくりお過ごしくださいませ」
冷や汗と少しの本音を滲ませた執事に、令嬢たちは心から同情しながらうなずき返した。
*****
「――この度は、大変申し訳ありませんでしたぁ!」
主催者不在のお茶会を再開すべく、すっかり冷めてしまったお茶を淹れ直している間、ジゼルは自分のやらかしを清算すべく、ロゼッタの前でお手本のような土下座を披露していた。
「よそさんのお嬢さんに手ぇ上げたばっかりか、ウチみたいなブッサイクでケッタイな女の取り巻きとか言うてしまいまして、ホンマに申し訳ありませんでした! 他のお嬢さんらも勘違いせんといてくださいね! ウチがあの場を収めるためについた、勝手な嘘なんです!」
失態を挽回すべく頑張って標準語的イントネーションでしゃべろうとしているものの、パニクっているせいか端々に訛りが隠せていない。
だが、今のロゼッタにとってそんなことは些細な問題だ。
下々が高貴な人間に跪くことはあっても、この国に土下座の文化はない。真摯に謝罪されていることは分かるが、あまりに奇怪な行動にロゼッタは再度戸惑いを隠しきれないでいた。
豊かで広大な領地を治める侯爵家の長女として、この国を支える敏腕宰相の娘として、物心つく前から様々な人物と接してきたロゼッタだが、ジゼルのような人間は初めてだ。
親にだってぶたれたことはないし、あんな風に怒鳴られたこともない。
王太子から不敬罪を言い渡された時もかなりのショックを受けたが、それ以上にジゼルの言動の方が予想外すぎて、怒りも悲しみも何もかもが吹っ飛んでしまった。
そもそも、噂で聞いていたジゼル・ハイマン像とは天と地ほどかけ離れている。
品格も知性もなく、親の権力で傍若無人に振る舞う傲慢な少女――そう伝え聞いていたが、実際には全然違う。
確かに突然手を上げられたり怒鳴られたりという面だけ見れば、その形容は正しいのかもしれない。しかし、その後ジゼルはまるで不出来な我が子を庇う母のように、なりふり構わず王太子に頭を下げて不敬罪を撤回させた。
身から出た錆だと、所詮は他人事だと、見て見ぬふりをすればいいのに、知り合いとも呼べないロゼッタのために、自分が悪役の泥を被ることを厭わず助けてくれた。
もしあの時、彼女が立ち上がらなければ、ロゼッタは生涯、社交界に出入りすることは許されなかっただろう。あるいは、それ以上の罰が与えられたかもしれない。まさに命の恩人だ。
(この方は……話し方も行動も型破りで、おおよそ淑女らしいとは言えないのに……何故かしら、とても惹かれるものがあるわ。お父様が『ハイマン嬢が王太子妃になるのはほぼ決定事項』とおっしゃっていたのも、あながち嘘ではなかったということね)
今年十四になるロゼッタは侯爵令嬢たるべく、幼少期から厳しい令嬢教育を受けてきたが、王太子妃を目指すよう強要されたことはほとんどない。
今回の婚約者選びに際しても「お前は数合わせのようなものだ」と言われ、むしろ「あまり目立つな」とまで釘を刺されていた。
だから、ハイマン家と王家の間ですでに密約が交わされており、このお茶会はあくまで公平性の演出のためだと思っていた。
その予想は当たらずとも遠からずで、公爵家の後ろ盾を欲したミリアルドの母は「あとで好きなだけ側室や愛妾を囲っていいから、正室には絶対にジゼルを選ぶように」とミリアルドによく言い含めていた。
しかし、正義感の強いロゼッタがそんな茶番を認めるわけもなく、自分がミリアルドに気に入られて悪名高い令嬢の鼻っ柱を折ってやる気満々だったが……実際はぽっと出のアーメンガートが横からすべてを掻っ攫い、それを糾弾したことにより窮地に立たされ、叩き潰すつもりだったジゼルに救われた。
なんとも皮肉な結末であるが、噂を鵜呑みにして勝手に敵愾心を抱いていた自分の方が、よっぽど傲慢だったと恥じ入るばかりだ。
「どうか顔を上げてください、ハイマン嬢。私はあなたのおかげで救われたのです。こちらが感謝することはあっても、あなたが謝罪されることは何もありません」
「ホンマに? 怒ってません?」
ほっとしつつもまだ不安を滲ませた目で、ジゼルはロゼッタを見上げる。
不細工な猫を彷彿とさせる顔なのに、こうして上目遣いでじっと見つめられると、無性に「可愛い!」と叫んで撫で回したくなる危ない衝動に駆られる。
なまじ相手が年下なだけに庇護欲がそそられ、いっそ抱きしめたいとすら思う。
二人のやり取りを遠巻きに見ていた令嬢たちもブサ猫独特の魅力に撃ち抜かれ、そこここで〝キュン死に〟が発生していた。
ジゼルが家族から溺愛されるわけも、彼女の人好きのする朗らかな性格に加えて、このブサ猫愛が極まった結果なのだが、本人はまったく気づいていない。
(わ、私としたことが、なんて破廉恥な!)
これを日本人は〝萌え〟と呼ぶが、この国にはそのような概念はない。
思わずジゼルに伸ばしそうになった手を引っ込めたロゼッタは、新たに芽生えた感情にドギマギしつつも、貴族令嬢の矜持を守るべく平静を取り繕う。
「も、もちろんです。それより、公爵令嬢がいつまでそのような格好をしているつもりです?」
隠し切れない動揺からいつにもまして高飛車な物言いになり、それをまずいと思ってか助け起こすべく手を差し出す。
「ありがとうございます……よいしょっと」
ニコリと笑ったジゼルが出された手を掴むと――絹の手袋越しに絶妙な柔らかさと弾力を感じ、再びロゼッタは悶絶することになる。
(んまあ、なんてプニプニなの! ず、ずっと触っていたい!)
ドレスについた芝生を落とすジゼルの横で、猫の肉球のごとき魔性の誘惑を理性でねじ伏せ、コホンと軽く咳払いをする。
「今回は、た、たまたまうまくいきましたけど、下手をしていたらあなたまで罰せられるところでしたわ。今後は無鉄砲な行動は慎んでくださいませ。ご家族に累が及んだらどうするのですか」
「いやぁ、ホンマにそうですね。我ながらアホなことしたって反省してます」
助けた相手に小姑のような注意をされても嫌な顔一つせず、「あはは、すんませんでした」と苦笑し、恥ずかしそうに後頭部を掻くジゼル。
きちんとお礼と謝罪をしないといけないのに、逆に説教するなどお門違いだ。
一呼吸入れて気合を入れ直し、ロゼッタは今度こそと口を開いた。
「……その様子ではちゃんとお分かりいただけていないようですわね。仕方がありませんので、このロゼッタ・ビショップがしっかりお傍で教育させてもらいますわ! どうぞお覚悟を!」
やっぱり内心とは裏腹の発言をしてしまい、自己嫌悪に陥って気が遠くなるロゼッタだが、ジゼルは何故かキラキラした目を向けてくる。
「え? ウチをビショップ嬢の取り巻きにしてくれますのん⁉」
「逆です、逆! この私が、ハイマン嬢の取り巻きになって差し上げようと言うのです! ありがたく思ってくださいませ!」
「え、えええ⁉ ウチなんかとつるんどっても、なんも得はな――」
「まあ! ビショップ嬢、抜け駆けはいけませんわ!」
「わたくしもハイマン嬢に侍りとうございます!」
「え、あ、う、お⁉」
それまで二人のやり取りを微笑ましく見守っていた令嬢たちだが、ロゼッタの取り巻き宣言に急に色めき立ち、我も我もと立ち上がってジゼルに詰めかける。追っかけに囲まれる超人気アイドル……というよりも、主婦に狙われるタイムバーゲン最後の一品の気分だ。
「な、なんやよう分からんけど……誰か助けてぇ!」
その叫びを聞きつけた侍女たちによって令嬢らは遠ざけられたが、ひょんなことから自称取り巻きを一度に八人も得てしまったジゼルは、本人無自覚のうちに愛され系悪役令嬢の一歩を踏み出した。
*****
そんなカオスな一幕を経てお茶会は再開され、王太子の婚約者を選ぶ会改め、上級貴族令嬢たちの女子会が始まった。
本来ならミリアルドの婚約者の座を狙う者として、全員がライバル同士だったはずだが、すでに争う理由もなく和気あいあいとした雰囲気に包まれている。
しかし、ほとんどの令嬢が社交界デビューはまだだし、よほど親密な家同士でない限り大した接点もないので、自己紹介から始まり当たり障りのない話が終われば、自然と話題は泥棒猫……もとい、本日の主役アーメンガートに移っていく。
「……それにしても、ルクウォーツ嬢は実に幸運でしたわね」
「運よく走れるだけの距離のところで馬車が動かなくなり、運よく遅刻しても会場に通してもらい、運よく殿下の目に留まったのですからね」
「神の祝福を受けていらっしゃるのでしょう」
傍に控える侍女たちに告げ口されてはいけないので、あからさまな悪口は避けているが、そこに含まれる悪意や嫉妬はあまり隠せていない。
ジゼルはいない人間の悪口を言うことは性に合わないので黙ってはいるが、正直アーメンガートには好感を持っていないし、彼女たちと同様にあれは周到に仕組まれた作戦だったと思っている。
令嬢らの言葉通り、アーメンガートは運がよすぎた。
ドレスに合わせるようなヒールでは多少体力があっても長距離は走れないし、そもそも招待状があったところで、供も付けず一人でやってきた泥だらけの子供を、ホイホイ王宮の中に入れてくれるとは思えない。
事前に入念な調査や根回しが必要なのは想像に難くないが、ルクウォーツ侯爵の力があれば簡単なことだろう。次期国王の外戚の座を得るために遠縁の娘を養女に取ったとすれば、多少の綱渡りはするはず。露見したところで大した罪にもならないので、侯爵の地位が揺らぐこともない。
ヒロインがあんなに必死に婚約者の座をゲットしようとしたのも、侯爵からの指示なのか、引き取ってもらったことへの恩返しなのか、それとも前世でミリアルドが推しだったから、悪役令嬢に奪われる前にゲットしてしまおうと思ったのか。
(……まあ、ウチが考えたところで詮ない話や。もう終わったことやしな)
ヒロインとメインヒーローが結ばれて、めでたしめでたし。それでいいじゃないかとジゼルは結論づけて、目の前の焼き菓子を頬張った。
(んー! サックサクのクッキー、うま! 公爵家のパティシエも一流や思っとったけど、王宮クオリティーはまた別格やなぁ。やっぱ素材やろか)
甘いものを食べていれば、些細なモヤモヤはすぐに吹き飛ぶ。
至福の表情でクッキーを咀嚼するジゼルを見ながら、令嬢たちは「癒されますわ!」「可愛いです!」とささやき合い、アーメンガートのことなどすっかり忘れキャッキャと萌えを共有していた。
「……ところでハイマン嬢。ずっと気になっていたのですが、どこでそのようなお言葉を学んだのですか?」
「こほっ」
クッキーの粉が気管に入りそうになってむせつつも、再びやってきたピンチを切り抜けるため必死に言い訳を考える。
「え、えーと……どこやったか忘れてしまいましたけど、ちっちゃい頃に行った旅行先で、こんな感じの変わった言葉遣いのご婦人がおりまして……面白がって真似してる間にクセになって、ついぞ抜けなくなってしもうたんですわ。今頑張って直してる途中なんです」
「あら、微笑ましい思い出ですわね」
「なんとなく分かりますわ。小さい頃のクセってなかなか抜けませんもの」
「そう言っていただけてほっとしてますわ。デビューまでにはなんとかしますので、大目に見てくれると嬉しいですわ……おほほ……」
わざとらしいお嬢様言葉と笑いで締めてお茶を濁そうとしたが――
「あら? 無理に直す必要はないのではなくて?」
「はい?」
「とてもしっくりくると言いますか……それをなくしてしまうとハイマン嬢ではないと言いますか……」
「そう、たとえるなら、お砂糖とバターと卵を入れ忘れたクッキーのような……」
「それはもう、ただの小麦粉の塊ですやん」
比喩表現の内容はともかく、ジゼルのイメージにおける訛りの比率がでかすぎやしないか?
確かに大阪弁はジゼルのアイデンティティを形成する大事な要素ではあるが、それを抜き取るだけでただの小麦粉の塊になってしまうとは予想外だ。好意的に受け止められているのはありがたいが、褒められている気がしないのは被害妄想だろうか。
「うーん、そう言ってくれるのはありがたいですけど、やっぱり令嬢らしくないと恥をかくことにもなりますし、家族も品がないって迷惑が……」
「それならご心配なく。わたくしたちがお母様を通じて根回ししておきますわ」
「ビショップ嬢の危機を救った勇気あるご令嬢だとお伝えすれば、きっとあの家と親しいご夫人たちは味方してくださいます。そろって社交界の重鎮ばかりですし、他の貴族たちも表立って物申すことはできなくなりますわ」
「え、ちょ……そんなことして大丈夫なんですか?」
「ふふふ、この程度の裏工作は社交界では日常茶飯事でございますわ」
「ですので、ハイマン嬢は何もお気になさらず、どうぞありのままでお過ごしくださいませ」
令嬢たちは花のように可憐な微笑みを浮かべながらも、その背景に黒いオーラを漂わせている。
魑魅魍魎の巣窟の入口を覗いてしまった気分にいたたまれなくなったが、あんなに大々的に訛りを披露してしまった以上、そのお言葉に甘えるしかなかった。
その後は年頃の女の子らしい他愛ないおしゃべりでお茶会は和やかに過ぎていき、日が暮れる前にお開きとなった。
*****
転生ヒロインの登場により、思わぬ結末になったお茶会が終わってから早一週間。
先日のお茶会のことで、ロゼッタから正式にお礼と謝罪の手紙が送られてきた。
ツンデレのテンプレだと思われていたロゼッタだが、素直でないのは口だけのようで、紙面には大変しおらしい文章が綴られていた。そのギャップもまた可愛いのだけれど、問題はそこではなく、「父がハイマン嬢に会いたがっているので、都合のいい日に伺いたい」と書かれていたことだ。
そこで家族に相談して、両親が在宅している日を選んで我が家に招待することになり、準備のために屋敷は少しバタバタしているが、子供のジゼルに手伝えることもなく、マナーのおさらいをしながら勉強に勤しんでいた。
ジゼルとしては追放フラグが消滅したも同然で、早くも本編シナリオが終わった気分だが、当たり前ながらゲームとは違って人生は死ぬまで続く。
家族には有力貴族のお友達がたくさんできたことは褒められたし、早々にボロを出してしまった件も結果オーライだから気にするなと言われたが、王太子の婚約者になれなかったことだけは残念がられた……というか、事の次第を報告するなりものすごく慰められた。
どうやら彼らは、他の令嬢と同様にジゼルもミリアルドに憧れている、あるいは王太子妃になりたがっている、と思い込んでいたのだ。
確かに記憶を取り戻す前は思考も幼く、「おうじさまとけっこんする!」なんて口走ったかもしれないが、追放フラグを思い出した今では完全にあり得ない話だ。とんだ誤解である。
どちらにも微塵も興味がないことをきっぱりと示すと、元より無理強いするつもりはなかったようで、一転して「嫁になんか行かなくていい! ずっとこの家にいればいい!」という結論に至り、溺愛が加速していた。
しかし、公爵令嬢が嫁がないままでは体裁が悪い。
いくらどこの馬の骨とも知れないブサ猫であったとしても、戸籍上ではジゼル・ハイマンとして存在している限り公爵家に迷惑がかかってしまう。
顔面偏差値はどうにもならないが、せめて頭の出来くらいは人並みにしないとと思い立ち、真面目に勉学に励むことにしたのだ。
しかし、思ったよりもその道のりは険しい。普通ならとっくに終わっているはずのカリキュラムがまったくの未消化で、基礎の基礎からやらないとまずい状態なのだ。
少し話は逸れるが島藤未央は小学生だった頃、そりゃあもう勉強嫌いの権化だった。
授業中はノートに好きなキャラのラクガキをして遊んでばかりで、マンガやテレビに没頭して宿題だってしょっちゅう忘れるし、夏休みの課題はラスト一週間でやっつけるのがデフォルトの、脳みそ空っぽなアホの子だった。
中学生になってもその緊張感のなさは続き、そんな娘を見かねた親が「一教科でも平均点以下ならコレクションは全部廃棄!」と宣言し、それをガチで実行されたことにより心を入れ替えた……という黒歴史がある。
自分をディスって笑いを取るのが大阪人だが、さすがに恥ずかしくてネタにしたくない過去ナンバーワンだ。
周囲の証言によると、前世の記憶を取り戻す前のジゼルは、実年齢に対応した島藤未央の行動パターンをトレースしていたことが多かった。つまり、この怠け癖は幼少期の未央から受け継いだものであり、結局のところ身から出た錆というヤツだった。
転生悪役令嬢らしからぬ低スペックを授けた神と、ここまで放置して甘やかした両親に恨みを抱きつつも、元アラフォー社会人として自己責任という名の十字架を背負う義務がある。
それでも最初は、大人の思考回路と人並みの記憶力を持っているから楽勝……と高をくくっていたが、歴史も語学も一からやり直しだし、前世では令嬢教育など受けたこともなくゼロからのスタートだから、大したアドバンテージではない。
有力貴族のご令嬢たちの根回しのおかげで、大阪弁を無理に矯正しなくていいことだけが唯一の救いである。二十年近く社会人をやっていたので標準語もマスターしているが、訛りが完全に消えることはないし、始めからそういうキャラで売り出している方が楽だ。
恐怖と屈辱で震えるロゼッタを視界の端に捉えながら、ジゼルはどうにか丸く収める手立てがないか考える。子供相手に極刑なんてことはないだろうが、この手のざまぁのテンプレから考えて、令嬢としての身分を剥奪された上、生涯修道院に閉じ込められることくらいは十分にあり得る。
ロゼッタの言葉は確かに悪かったが、貧乏人扱い以外は正論ど真ん中だし、あれくらいの悪口陰口でいちいち罰せられていたらかなわない。
そもそも、罰を下した側が不利益を被りかねないことに、ミリアルドは多分気づいていない。
ここに集められているのは、この国に名を轟かす名家の令嬢ばかり。
不勉強なせいでビショップ家がどのような家柄かジゼルは知らないが、婚約者候補に挙がっている以上、少なくともルクウォーツ家と対等かそれ以上の立場であり、後ろ盾として求められているくらいなのだから〝たかが側室腹の王太子〟に泣き寝入りすることはしないだろう。
報復とは往々にして連鎖するもの。ざまぁしたはずの側がざまぁされ返される、なんてことは容易に想像がつく。そうなったらシナリオ崩壊どころか、国家滅亡なんてこともあり得る。
(アカンアカン! どないかせんと!)
焦る気持ちとは裏腹に、頭の中が真っ白になって何も思いつかない。
(うあああ! ウチは正真正銘のアホや! 悪役令嬢やのにチートもなんもなくて、なんの役にも立たん――ん? あ、そうや! ウチは悪役令嬢やったわ!)
悪役令嬢といえば究極のいじめっ子――ジゼルは天啓のようなひらめきに身を任せて立ち上がると、ロゼッタの頭をツッコミよろしく平手でスパーンッと叩いた。
「こンのアホんだらぁ! なんちゅうナメたマネしてくれとんじゃワレェ!」
やばい。とっさのことで素の言葉遣いが出てしまったし、加減なしでぶっ叩いたので、ロゼッタが机に突っ伏さんばかりに傾いている。
おまけに悪役を意識しすぎたせいで、ヤクザ化して令嬢らしさどころか女らしさの欠片もない。
だが、やらかしに絶望しても時すでに遅し。飛び出してしまった言葉は元には戻らない。
速攻で言いつけを破ってしまった己の迂闊さに頭を抱えたくなったが、ロゼッタは突然見知らぬ相手に罵声と共に叩かれたことで放心状態だし、他の令嬢たちも言わずもがな。
泣いていたアーメンガートも怒り狂っていたミリアルドも、きつすぎる訛りにポカンとした間抜け面で思考停止している。
失態を晒して大ピンチではあるが、この場をうやむやに終わらせる大チャンスにもなり得る。ジゼルは周りが混乱している間に思考を切り替え、夜叉のごとき表情で罵声を浴びせ続けた。
「取り巻きは取り巻きらしく、ウチの後ろでボケーッと突っ立っとけばええもんを! ちっぽけな正義感振りかざしてええ子ちゃんぶって、呼ばれもせんのにしゃしゃり出てくるから、こないなことになるんやろーがぁ、このすっとこどっこい! そのカラッポのドタマをパッカーンとかち割って、ゴミ捨て場に埋めてまうぞゴラァ!」
傲慢な悪役令嬢が不出来な取り巻きを罵倒するシーンを演じるつもりだったのに、これではヤクザが不手際をやらかした舎弟を叱り飛ばしているようにしか聞こえない。
(これやから、大阪人は悪役令嬢に向かへんねん!)
破れかぶれになりつつもこのまま思い描くシナリオに突き進むべく、恵比寿神のようにニッコォッとした笑みを張りつけて、バカップルに揉み手をしながらごますり体勢に入る。
「いやぁ、ウチの妹分がえらい申し訳ないことしましたぁ。ホンマに、すんませんでしたぁ。この通りアホみたいに気が強うて真っ直ぐな子やから、誰彼構わずついつい噛みついてしまうことがありますのや。この子にはウチからよぉーよぉー言って聞かせますんで、このジゼル・ハイマンの顔に免じて、今回のことは堪忍したってください。お願いしますわぁ。ほれ、アンタも頭下げぇや!」
クレーム対応社員のように平身低頭ペコペコと謝り倒したジゼルは、最後は背伸びしてロゼッタの後頭部をグイグイ押して謝罪のポーズを取らせる。
ロゼッタは珍妙な寸劇にひどく困惑してはいたが、ハイマン家の令嬢相手に抵抗して謝罪を拒否すればもっと話がこじれるのを理解しているのか、渋々ながら深く頭を下げた。
「……も、申し訳、ございませんでした。ミリアルド殿下、ルクウォーツ嬢。数々のご無礼と失言、どうぞお許しください……」
「ほらほら、この子もこうして反省してますやろ。つまらんことで不敬罪やなんやって物騒なこと言わんと、歳も近いモン同士なんですから、みんなで仲よくやりましょうや。ね? ね?」
ジゼルは恵比須顔を崩さず、揉み手しながらミリアルドたちを宥めすかす。
一連の出来事にすっかり毒気を抜かれたミリアルドとアーメンガートの二人は呆れ顔を突き合わせたのち、ややあってミリアルドが嘆息と共に口を開く。
「……ハイマン嬢がそこまで言うなら、今回のことは不問に付す。その代わり、僕とアーメンガートがいかに固い絆で結ばれているか、社交界全体に徹底的に周知させろ。それを引き裂こうとすればどうなるかも、な。公爵家の発言権があればそれくらい容易いだろう?」
「はーい、喜んでぇ!」
居酒屋店員風の返事をしながら、お茶目なテヘペロ顔で親指を立てるジゼルに、ミリアルドは「こいつ大丈夫か?」と額に手を当てて苦悩する。
よし、いい感じにロゼッタから意識を切り離せた。すかさず視線をスライドさせて、場を仕切っていそうな執事らしい年配の使用人に「今がチャンスやで、オッチャン!」と目力で念を送る。
その合図に気づいた執事は慌てて動き出し、ミリアルドに「お茶会はどうなさいますか?」と耳打ちした。できる執事で助かった。
「……僕はアーメンガートと二人きりで仕切り直す。汚れたドレスを着替えさせたいし、またビショップ嬢のような愚者に噛みつかれては敵わない。他の令嬢たちは適当にもてなしてから帰せ」
ミリアルドはしばし黙考したのちにそう告げ、愛する人をお姫様抱っこする。
「きゃ、殿下……⁉」
「ここまで駆けてきて疲れただろう。僕のために酷使した足を労ってあげないとね」
「あああ、あの、わたくし、その、重いので……!」
「大丈夫だよ、アーメンガート。君は羽のように軽い」
などと乙女ゲーム的な会話をしながら、バカップルたちは再び二人の世界に入り込み、挨拶もなしに客人たちに背を向けて去っていった。
呆気に取られた一同がそれを見送り――すっかり見えなくなってから、執事がゴホンッとわざとらしい咳払いをして場を仕切り直す。
「えー……この度はお忙しい中お集まりいただきましたのに、お嬢様方にはなんとお詫び申し上げればよいのやら。私どももこのような展開は想像すらしておらず、大変困惑しておりますが……殿下からのお言葉通り、みな様を精一杯おもてなしさせていただきますので、お時間が許します限りごゆっくりお過ごしくださいませ」
冷や汗と少しの本音を滲ませた執事に、令嬢たちは心から同情しながらうなずき返した。
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「――この度は、大変申し訳ありませんでしたぁ!」
主催者不在のお茶会を再開すべく、すっかり冷めてしまったお茶を淹れ直している間、ジゼルは自分のやらかしを清算すべく、ロゼッタの前でお手本のような土下座を披露していた。
「よそさんのお嬢さんに手ぇ上げたばっかりか、ウチみたいなブッサイクでケッタイな女の取り巻きとか言うてしまいまして、ホンマに申し訳ありませんでした! 他のお嬢さんらも勘違いせんといてくださいね! ウチがあの場を収めるためについた、勝手な嘘なんです!」
失態を挽回すべく頑張って標準語的イントネーションでしゃべろうとしているものの、パニクっているせいか端々に訛りが隠せていない。
だが、今のロゼッタにとってそんなことは些細な問題だ。
下々が高貴な人間に跪くことはあっても、この国に土下座の文化はない。真摯に謝罪されていることは分かるが、あまりに奇怪な行動にロゼッタは再度戸惑いを隠しきれないでいた。
豊かで広大な領地を治める侯爵家の長女として、この国を支える敏腕宰相の娘として、物心つく前から様々な人物と接してきたロゼッタだが、ジゼルのような人間は初めてだ。
親にだってぶたれたことはないし、あんな風に怒鳴られたこともない。
王太子から不敬罪を言い渡された時もかなりのショックを受けたが、それ以上にジゼルの言動の方が予想外すぎて、怒りも悲しみも何もかもが吹っ飛んでしまった。
そもそも、噂で聞いていたジゼル・ハイマン像とは天と地ほどかけ離れている。
品格も知性もなく、親の権力で傍若無人に振る舞う傲慢な少女――そう伝え聞いていたが、実際には全然違う。
確かに突然手を上げられたり怒鳴られたりという面だけ見れば、その形容は正しいのかもしれない。しかし、その後ジゼルはまるで不出来な我が子を庇う母のように、なりふり構わず王太子に頭を下げて不敬罪を撤回させた。
身から出た錆だと、所詮は他人事だと、見て見ぬふりをすればいいのに、知り合いとも呼べないロゼッタのために、自分が悪役の泥を被ることを厭わず助けてくれた。
もしあの時、彼女が立ち上がらなければ、ロゼッタは生涯、社交界に出入りすることは許されなかっただろう。あるいは、それ以上の罰が与えられたかもしれない。まさに命の恩人だ。
(この方は……話し方も行動も型破りで、おおよそ淑女らしいとは言えないのに……何故かしら、とても惹かれるものがあるわ。お父様が『ハイマン嬢が王太子妃になるのはほぼ決定事項』とおっしゃっていたのも、あながち嘘ではなかったということね)
今年十四になるロゼッタは侯爵令嬢たるべく、幼少期から厳しい令嬢教育を受けてきたが、王太子妃を目指すよう強要されたことはほとんどない。
今回の婚約者選びに際しても「お前は数合わせのようなものだ」と言われ、むしろ「あまり目立つな」とまで釘を刺されていた。
だから、ハイマン家と王家の間ですでに密約が交わされており、このお茶会はあくまで公平性の演出のためだと思っていた。
その予想は当たらずとも遠からずで、公爵家の後ろ盾を欲したミリアルドの母は「あとで好きなだけ側室や愛妾を囲っていいから、正室には絶対にジゼルを選ぶように」とミリアルドによく言い含めていた。
しかし、正義感の強いロゼッタがそんな茶番を認めるわけもなく、自分がミリアルドに気に入られて悪名高い令嬢の鼻っ柱を折ってやる気満々だったが……実際はぽっと出のアーメンガートが横からすべてを掻っ攫い、それを糾弾したことにより窮地に立たされ、叩き潰すつもりだったジゼルに救われた。
なんとも皮肉な結末であるが、噂を鵜呑みにして勝手に敵愾心を抱いていた自分の方が、よっぽど傲慢だったと恥じ入るばかりだ。
「どうか顔を上げてください、ハイマン嬢。私はあなたのおかげで救われたのです。こちらが感謝することはあっても、あなたが謝罪されることは何もありません」
「ホンマに? 怒ってません?」
ほっとしつつもまだ不安を滲ませた目で、ジゼルはロゼッタを見上げる。
不細工な猫を彷彿とさせる顔なのに、こうして上目遣いでじっと見つめられると、無性に「可愛い!」と叫んで撫で回したくなる危ない衝動に駆られる。
なまじ相手が年下なだけに庇護欲がそそられ、いっそ抱きしめたいとすら思う。
二人のやり取りを遠巻きに見ていた令嬢たちもブサ猫独特の魅力に撃ち抜かれ、そこここで〝キュン死に〟が発生していた。
ジゼルが家族から溺愛されるわけも、彼女の人好きのする朗らかな性格に加えて、このブサ猫愛が極まった結果なのだが、本人はまったく気づいていない。
(わ、私としたことが、なんて破廉恥な!)
これを日本人は〝萌え〟と呼ぶが、この国にはそのような概念はない。
思わずジゼルに伸ばしそうになった手を引っ込めたロゼッタは、新たに芽生えた感情にドギマギしつつも、貴族令嬢の矜持を守るべく平静を取り繕う。
「も、もちろんです。それより、公爵令嬢がいつまでそのような格好をしているつもりです?」
隠し切れない動揺からいつにもまして高飛車な物言いになり、それをまずいと思ってか助け起こすべく手を差し出す。
「ありがとうございます……よいしょっと」
ニコリと笑ったジゼルが出された手を掴むと――絹の手袋越しに絶妙な柔らかさと弾力を感じ、再びロゼッタは悶絶することになる。
(んまあ、なんてプニプニなの! ず、ずっと触っていたい!)
ドレスについた芝生を落とすジゼルの横で、猫の肉球のごとき魔性の誘惑を理性でねじ伏せ、コホンと軽く咳払いをする。
「今回は、た、たまたまうまくいきましたけど、下手をしていたらあなたまで罰せられるところでしたわ。今後は無鉄砲な行動は慎んでくださいませ。ご家族に累が及んだらどうするのですか」
「いやぁ、ホンマにそうですね。我ながらアホなことしたって反省してます」
助けた相手に小姑のような注意をされても嫌な顔一つせず、「あはは、すんませんでした」と苦笑し、恥ずかしそうに後頭部を掻くジゼル。
きちんとお礼と謝罪をしないといけないのに、逆に説教するなどお門違いだ。
一呼吸入れて気合を入れ直し、ロゼッタは今度こそと口を開いた。
「……その様子ではちゃんとお分かりいただけていないようですわね。仕方がありませんので、このロゼッタ・ビショップがしっかりお傍で教育させてもらいますわ! どうぞお覚悟を!」
やっぱり内心とは裏腹の発言をしてしまい、自己嫌悪に陥って気が遠くなるロゼッタだが、ジゼルは何故かキラキラした目を向けてくる。
「え? ウチをビショップ嬢の取り巻きにしてくれますのん⁉」
「逆です、逆! この私が、ハイマン嬢の取り巻きになって差し上げようと言うのです! ありがたく思ってくださいませ!」
「え、えええ⁉ ウチなんかとつるんどっても、なんも得はな――」
「まあ! ビショップ嬢、抜け駆けはいけませんわ!」
「わたくしもハイマン嬢に侍りとうございます!」
「え、あ、う、お⁉」
それまで二人のやり取りを微笑ましく見守っていた令嬢たちだが、ロゼッタの取り巻き宣言に急に色めき立ち、我も我もと立ち上がってジゼルに詰めかける。追っかけに囲まれる超人気アイドル……というよりも、主婦に狙われるタイムバーゲン最後の一品の気分だ。
「な、なんやよう分からんけど……誰か助けてぇ!」
その叫びを聞きつけた侍女たちによって令嬢らは遠ざけられたが、ひょんなことから自称取り巻きを一度に八人も得てしまったジゼルは、本人無自覚のうちに愛され系悪役令嬢の一歩を踏み出した。
*****
そんなカオスな一幕を経てお茶会は再開され、王太子の婚約者を選ぶ会改め、上級貴族令嬢たちの女子会が始まった。
本来ならミリアルドの婚約者の座を狙う者として、全員がライバル同士だったはずだが、すでに争う理由もなく和気あいあいとした雰囲気に包まれている。
しかし、ほとんどの令嬢が社交界デビューはまだだし、よほど親密な家同士でない限り大した接点もないので、自己紹介から始まり当たり障りのない話が終われば、自然と話題は泥棒猫……もとい、本日の主役アーメンガートに移っていく。
「……それにしても、ルクウォーツ嬢は実に幸運でしたわね」
「運よく走れるだけの距離のところで馬車が動かなくなり、運よく遅刻しても会場に通してもらい、運よく殿下の目に留まったのですからね」
「神の祝福を受けていらっしゃるのでしょう」
傍に控える侍女たちに告げ口されてはいけないので、あからさまな悪口は避けているが、そこに含まれる悪意や嫉妬はあまり隠せていない。
ジゼルはいない人間の悪口を言うことは性に合わないので黙ってはいるが、正直アーメンガートには好感を持っていないし、彼女たちと同様にあれは周到に仕組まれた作戦だったと思っている。
令嬢らの言葉通り、アーメンガートは運がよすぎた。
ドレスに合わせるようなヒールでは多少体力があっても長距離は走れないし、そもそも招待状があったところで、供も付けず一人でやってきた泥だらけの子供を、ホイホイ王宮の中に入れてくれるとは思えない。
事前に入念な調査や根回しが必要なのは想像に難くないが、ルクウォーツ侯爵の力があれば簡単なことだろう。次期国王の外戚の座を得るために遠縁の娘を養女に取ったとすれば、多少の綱渡りはするはず。露見したところで大した罪にもならないので、侯爵の地位が揺らぐこともない。
ヒロインがあんなに必死に婚約者の座をゲットしようとしたのも、侯爵からの指示なのか、引き取ってもらったことへの恩返しなのか、それとも前世でミリアルドが推しだったから、悪役令嬢に奪われる前にゲットしてしまおうと思ったのか。
(……まあ、ウチが考えたところで詮ない話や。もう終わったことやしな)
ヒロインとメインヒーローが結ばれて、めでたしめでたし。それでいいじゃないかとジゼルは結論づけて、目の前の焼き菓子を頬張った。
(んー! サックサクのクッキー、うま! 公爵家のパティシエも一流や思っとったけど、王宮クオリティーはまた別格やなぁ。やっぱ素材やろか)
甘いものを食べていれば、些細なモヤモヤはすぐに吹き飛ぶ。
至福の表情でクッキーを咀嚼するジゼルを見ながら、令嬢たちは「癒されますわ!」「可愛いです!」とささやき合い、アーメンガートのことなどすっかり忘れキャッキャと萌えを共有していた。
「……ところでハイマン嬢。ずっと気になっていたのですが、どこでそのようなお言葉を学んだのですか?」
「こほっ」
クッキーの粉が気管に入りそうになってむせつつも、再びやってきたピンチを切り抜けるため必死に言い訳を考える。
「え、えーと……どこやったか忘れてしまいましたけど、ちっちゃい頃に行った旅行先で、こんな感じの変わった言葉遣いのご婦人がおりまして……面白がって真似してる間にクセになって、ついぞ抜けなくなってしもうたんですわ。今頑張って直してる途中なんです」
「あら、微笑ましい思い出ですわね」
「なんとなく分かりますわ。小さい頃のクセってなかなか抜けませんもの」
「そう言っていただけてほっとしてますわ。デビューまでにはなんとかしますので、大目に見てくれると嬉しいですわ……おほほ……」
わざとらしいお嬢様言葉と笑いで締めてお茶を濁そうとしたが――
「あら? 無理に直す必要はないのではなくて?」
「はい?」
「とてもしっくりくると言いますか……それをなくしてしまうとハイマン嬢ではないと言いますか……」
「そう、たとえるなら、お砂糖とバターと卵を入れ忘れたクッキーのような……」
「それはもう、ただの小麦粉の塊ですやん」
比喩表現の内容はともかく、ジゼルのイメージにおける訛りの比率がでかすぎやしないか?
確かに大阪弁はジゼルのアイデンティティを形成する大事な要素ではあるが、それを抜き取るだけでただの小麦粉の塊になってしまうとは予想外だ。好意的に受け止められているのはありがたいが、褒められている気がしないのは被害妄想だろうか。
「うーん、そう言ってくれるのはありがたいですけど、やっぱり令嬢らしくないと恥をかくことにもなりますし、家族も品がないって迷惑が……」
「それならご心配なく。わたくしたちがお母様を通じて根回ししておきますわ」
「ビショップ嬢の危機を救った勇気あるご令嬢だとお伝えすれば、きっとあの家と親しいご夫人たちは味方してくださいます。そろって社交界の重鎮ばかりですし、他の貴族たちも表立って物申すことはできなくなりますわ」
「え、ちょ……そんなことして大丈夫なんですか?」
「ふふふ、この程度の裏工作は社交界では日常茶飯事でございますわ」
「ですので、ハイマン嬢は何もお気になさらず、どうぞありのままでお過ごしくださいませ」
令嬢たちは花のように可憐な微笑みを浮かべながらも、その背景に黒いオーラを漂わせている。
魑魅魍魎の巣窟の入口を覗いてしまった気分にいたたまれなくなったが、あんなに大々的に訛りを披露してしまった以上、そのお言葉に甘えるしかなかった。
その後は年頃の女の子らしい他愛ないおしゃべりでお茶会は和やかに過ぎていき、日が暮れる前にお開きとなった。
*****
転生ヒロインの登場により、思わぬ結末になったお茶会が終わってから早一週間。
先日のお茶会のことで、ロゼッタから正式にお礼と謝罪の手紙が送られてきた。
ツンデレのテンプレだと思われていたロゼッタだが、素直でないのは口だけのようで、紙面には大変しおらしい文章が綴られていた。そのギャップもまた可愛いのだけれど、問題はそこではなく、「父がハイマン嬢に会いたがっているので、都合のいい日に伺いたい」と書かれていたことだ。
そこで家族に相談して、両親が在宅している日を選んで我が家に招待することになり、準備のために屋敷は少しバタバタしているが、子供のジゼルに手伝えることもなく、マナーのおさらいをしながら勉強に勤しんでいた。
ジゼルとしては追放フラグが消滅したも同然で、早くも本編シナリオが終わった気分だが、当たり前ながらゲームとは違って人生は死ぬまで続く。
家族には有力貴族のお友達がたくさんできたことは褒められたし、早々にボロを出してしまった件も結果オーライだから気にするなと言われたが、王太子の婚約者になれなかったことだけは残念がられた……というか、事の次第を報告するなりものすごく慰められた。
どうやら彼らは、他の令嬢と同様にジゼルもミリアルドに憧れている、あるいは王太子妃になりたがっている、と思い込んでいたのだ。
確かに記憶を取り戻す前は思考も幼く、「おうじさまとけっこんする!」なんて口走ったかもしれないが、追放フラグを思い出した今では完全にあり得ない話だ。とんだ誤解である。
どちらにも微塵も興味がないことをきっぱりと示すと、元より無理強いするつもりはなかったようで、一転して「嫁になんか行かなくていい! ずっとこの家にいればいい!」という結論に至り、溺愛が加速していた。
しかし、公爵令嬢が嫁がないままでは体裁が悪い。
いくらどこの馬の骨とも知れないブサ猫であったとしても、戸籍上ではジゼル・ハイマンとして存在している限り公爵家に迷惑がかかってしまう。
顔面偏差値はどうにもならないが、せめて頭の出来くらいは人並みにしないとと思い立ち、真面目に勉学に励むことにしたのだ。
しかし、思ったよりもその道のりは険しい。普通ならとっくに終わっているはずのカリキュラムがまったくの未消化で、基礎の基礎からやらないとまずい状態なのだ。
少し話は逸れるが島藤未央は小学生だった頃、そりゃあもう勉強嫌いの権化だった。
授業中はノートに好きなキャラのラクガキをして遊んでばかりで、マンガやテレビに没頭して宿題だってしょっちゅう忘れるし、夏休みの課題はラスト一週間でやっつけるのがデフォルトの、脳みそ空っぽなアホの子だった。
中学生になってもその緊張感のなさは続き、そんな娘を見かねた親が「一教科でも平均点以下ならコレクションは全部廃棄!」と宣言し、それをガチで実行されたことにより心を入れ替えた……という黒歴史がある。
自分をディスって笑いを取るのが大阪人だが、さすがに恥ずかしくてネタにしたくない過去ナンバーワンだ。
周囲の証言によると、前世の記憶を取り戻す前のジゼルは、実年齢に対応した島藤未央の行動パターンをトレースしていたことが多かった。つまり、この怠け癖は幼少期の未央から受け継いだものであり、結局のところ身から出た錆というヤツだった。
転生悪役令嬢らしからぬ低スペックを授けた神と、ここまで放置して甘やかした両親に恨みを抱きつつも、元アラフォー社会人として自己責任という名の十字架を背負う義務がある。
それでも最初は、大人の思考回路と人並みの記憶力を持っているから楽勝……と高をくくっていたが、歴史も語学も一からやり直しだし、前世では令嬢教育など受けたこともなくゼロからのスタートだから、大したアドバンテージではない。
有力貴族のご令嬢たちの根回しのおかげで、大阪弁を無理に矯正しなくていいことだけが唯一の救いである。二十年近く社会人をやっていたので標準語もマスターしているが、訛りが完全に消えることはないし、始めからそういうキャラで売り出している方が楽だ。
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