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第七部 革命編
予期せぬ訃報と収穫祭の行方(上)
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夏が終わって秋が来た。
去年とは打って変わって全国的に豊作だという噂で、ラングドンでも盛大な収穫祭を予定されており、大人も子供も早くもお祭り気分で準備が進めている。
ジゼルたちも設営の手伝いや、当日の料理の試作に駆り出されていつも以上に忙しいが、前世の文化祭を思い出す楽しい忙しさだから苦にはならない。
「――飾りってこんな感じでいいですか?」
「ええ、よくできてるわ。それをたくさん作って、この長い紐に括りつけて吊り下げて飾るのよ」
今日はご夫人たちに教わりながら、収穫祭の装飾品を作っていた。
着古した服を端切れにして家畜や野菜の小さなオーナメントを作り、それを紐でガーランド状に吊るして、自宅や会場のあちこちに飾るのだという。
いいところのお嬢様たちは幼い頃から刺繍を叩きこまれるので、料理や掃除はからっきしだが針仕事は得意な者が多い。最近は繕い物も積極的にやっているおかげで、みんな器用に可愛らしいオーナメントを生み出していく。
……ただし、不器用の極みのジゼルは例外中の例外だが。
「あの、ジゼルさん? それは……」
「えっと。鶏さんのつもり、やねんけど……」
型紙通りに切ったところまでは、確かに鶏だった。
なのに、おがくずの詰め物を入れて縫い合わせたら、何故か謎の物体が出来上がった。
縫い目が荒くておがくずが飛び出していているところがあり、よりホラーな雰囲気で呪われそうな感じがする。
これ以上呪いのブツを量産しては困るので、ジゼルはオーナメント作りから外れて、ガーランド用の紐にくくる役に任命された。
「ま、まあ、出来が悪かったって気にすることはないよ。どうせ祭りの最終日に焚くかがり火で全部燃やしちゃうからね」
「まあ!」
「せっかく作ったのに、どうしてですの?」
「それはね、命の供養のためだよ」
「命?」
可愛らしく小首をかしげるお嬢様たちに、ご夫人たちは微笑ましげにクスリと笑う。
「家畜だけじゃなく、野菜も麦も豆もみんな生きてる。その命をいただいて、あたしたちは毎日命を繋いでる。そのことに感謝してますって、天上の神様に伝えるために煙に乗せてお祈りを届けてもらうのさ」
「なるほど……」
「お言葉ですが、そのようなことをせずとも、神にわたくしたちの声は届くのでは?」
「そうだね。でも、火を囲んでみんなで同じことをお祈りしてるとさ、みんなの心が一つになる感じがするだろう。案外、それが一番のキモなのかもしれないね」
つまりは命をいただくことへの感謝をするのと同時に、住民同士の結束を強めるためのイベントなのかもしれない。
そんな話をしながらその日の作業を終え、そろって修道院へと戻ったら――シスターたちが神妙な顔で出迎えてくれた。
「おかえり。帰って早々で悪いけど、院長先生からお話があるんですって。みんなを食堂に集めてほしいって頼まれたから、このまま来てくれる?」
ジゼルたちは何事かと顔を見合わせつつ、言われるまま食堂へ向かって院長先生の話に耳を傾ける。
「……つい先ほど領主様からお知らせが届いたのですが、三日前に現国王フレデリック陛下が崩御されたとのことです。領主様がおっしゃるには、他国の間者が仕掛けた度重なる暗殺未遂事件により陛下は心を病まれ、それ以来ずっと臥せられて衰弱の一途を辿り、そのままご回復することなく旅立たれたとか……」
予期せぬ訃報に、その場の全員が言葉を失った。
一国の王なんだから命を狙われること自体珍しくないとはいえ、生身の人間である以上ストレスや恐怖で心神耗弱になるのも仕方のないことで、それがきっかけで命を落としてしまうことも十分あり得る話だ。
しかし、それよりも信じがたいのは、この国で一番安全なはずの王宮で何度も暗殺を仕掛けられたということだ。しかも、他国の間者にである。
実際は軍部が王族に取り入り戦争の機運を高めるため、裏で糸を引いていた事件なのだが、ジゼルはあずかり知らないことだ。
去年とは打って変わって全国的に豊作だという噂で、ラングドンでも盛大な収穫祭を予定されており、大人も子供も早くもお祭り気分で準備が進めている。
ジゼルたちも設営の手伝いや、当日の料理の試作に駆り出されていつも以上に忙しいが、前世の文化祭を思い出す楽しい忙しさだから苦にはならない。
「――飾りってこんな感じでいいですか?」
「ええ、よくできてるわ。それをたくさん作って、この長い紐に括りつけて吊り下げて飾るのよ」
今日はご夫人たちに教わりながら、収穫祭の装飾品を作っていた。
着古した服を端切れにして家畜や野菜の小さなオーナメントを作り、それを紐でガーランド状に吊るして、自宅や会場のあちこちに飾るのだという。
いいところのお嬢様たちは幼い頃から刺繍を叩きこまれるので、料理や掃除はからっきしだが針仕事は得意な者が多い。最近は繕い物も積極的にやっているおかげで、みんな器用に可愛らしいオーナメントを生み出していく。
……ただし、不器用の極みのジゼルは例外中の例外だが。
「あの、ジゼルさん? それは……」
「えっと。鶏さんのつもり、やねんけど……」
型紙通りに切ったところまでは、確かに鶏だった。
なのに、おがくずの詰め物を入れて縫い合わせたら、何故か謎の物体が出来上がった。
縫い目が荒くておがくずが飛び出していているところがあり、よりホラーな雰囲気で呪われそうな感じがする。
これ以上呪いのブツを量産しては困るので、ジゼルはオーナメント作りから外れて、ガーランド用の紐にくくる役に任命された。
「ま、まあ、出来が悪かったって気にすることはないよ。どうせ祭りの最終日に焚くかがり火で全部燃やしちゃうからね」
「まあ!」
「せっかく作ったのに、どうしてですの?」
「それはね、命の供養のためだよ」
「命?」
可愛らしく小首をかしげるお嬢様たちに、ご夫人たちは微笑ましげにクスリと笑う。
「家畜だけじゃなく、野菜も麦も豆もみんな生きてる。その命をいただいて、あたしたちは毎日命を繋いでる。そのことに感謝してますって、天上の神様に伝えるために煙に乗せてお祈りを届けてもらうのさ」
「なるほど……」
「お言葉ですが、そのようなことをせずとも、神にわたくしたちの声は届くのでは?」
「そうだね。でも、火を囲んでみんなで同じことをお祈りしてるとさ、みんなの心が一つになる感じがするだろう。案外、それが一番のキモなのかもしれないね」
つまりは命をいただくことへの感謝をするのと同時に、住民同士の結束を強めるためのイベントなのかもしれない。
そんな話をしながらその日の作業を終え、そろって修道院へと戻ったら――シスターたちが神妙な顔で出迎えてくれた。
「おかえり。帰って早々で悪いけど、院長先生からお話があるんですって。みんなを食堂に集めてほしいって頼まれたから、このまま来てくれる?」
ジゼルたちは何事かと顔を見合わせつつ、言われるまま食堂へ向かって院長先生の話に耳を傾ける。
「……つい先ほど領主様からお知らせが届いたのですが、三日前に現国王フレデリック陛下が崩御されたとのことです。領主様がおっしゃるには、他国の間者が仕掛けた度重なる暗殺未遂事件により陛下は心を病まれ、それ以来ずっと臥せられて衰弱の一途を辿り、そのままご回復することなく旅立たれたとか……」
予期せぬ訃報に、その場の全員が言葉を失った。
一国の王なんだから命を狙われること自体珍しくないとはいえ、生身の人間である以上ストレスや恐怖で心神耗弱になるのも仕方のないことで、それがきっかけで命を落としてしまうことも十分あり得る話だ。
しかし、それよりも信じがたいのは、この国で一番安全なはずの王宮で何度も暗殺を仕掛けられたということだ。しかも、他国の間者にである。
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