ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第六部 ざまぁ編

取り調べは倉庫で

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 ところ変わって、とある商家の物流倉庫。
 喜劇のように間抜けな捕らわれ方をしたシルリー一味が、ミノムシのようにグルグル巻きにされた状態で冷たい床に座らされている前には、捕縛に一役買ったムサカたちの他、複数の使用人と護衛を連れたテッドとケネスがいて、罪人たちへ尋問をしていた。

「――なるほど。では、お前たちに取引を持ち掛けたのは軍人なんだな?」
「多分ナ。俺たちハこの国ニくわしくナイから、本物カは分かラない」
「それっポい服ってだケで、確かめたワケじゃないゾ」
「いえ、それだけ分かれば十分ですよ。あくまで私共の調査の足がかりにするだけで、あなた方を証言台に立たせるわけでもありませんし」

 二人は断罪劇の舞台裏を少しでも解明すべく彼らに探りを入れたが、それに関しては軍部が絡んでいるという疑惑が深まったくらいで、大した収穫は得られなかった。
 不貞腐れて証言を渋っているのかと思ったがそんな様子もなく、いっそ開き直っているのか聞かれてもないこともペラペラとしゃべるので手間はかからなかったが……おかげで瓢箪から駒のとんでもない事実を入手してしまった。

「それともう一度確認しますが、これが贋金だと本当に知らなかったんですね?」

 テッドがシルリーたちから押収した財布の中から、数枚の金貨を出して見せながら問うと、男たちは勢いよくコクコクとうなずいた。

「も、もちロんダ!」
「分かってタラ使うもンか! バれたら今度こそ無一文デこの国ヲ追い出されル!」
「やけニ羽振りがイイと思ったラ、まさか贋金だっタとハ……くそ、騙されタ!」

「これまで散々クズ石で人々を騙してきた悪徳商人が贋金を掴まされるとは、因果は巡るというかいっそ滑稽だな」
「まったくですね。ですが、これは笑いごとでは済まない由々しき事態ですよ」

 行き場のない苛立ちをぶつける子供のように、縛られた足をばたつかせるシルリーたちを呆れたように見下ろしつつも、意図せず発覚した国家の闇に二人は頭痛を禁じ得ないでいた。
 なにしろシルリー一味が軍より報酬として得ていた大金は、すべて贋金だったのだ。
 それはすなわち、軍が贋金を所有していたという事実に繋がる。

 犯罪者から押収するなどして保管されていた贋金を、自分たちの懐が痛まぬよう今回の報酬として横流しした可能性もあるが、二人には一つそれ以外に思い当たる節があった。
 それは十年ほど前のこと。当時から年々軍事費が削減され軍縮が進んでいく中、『軍部は使わなくなった金属製の軍事物を使って贋金を作っている』という噂が流れたことがある。

 あくまで噂の域を出ない話で確たる証拠もなく、軍部も真っ向から疑惑を拒否した手前立ち入り調査もできず、そのうちに聞かなくなったのですっかり忘れていたが、それが突如として真実味を帯びた瞬間だった。
 エントールに縁もゆかりもない異国人の駒なら、使い終われば即殺せばいいものをそうしなかったのは、もしもに備えて後生大事に残していた犯罪の証拠を擦り付けるためだったのかもしれない。

 仮に彼らが贋金を所持していた件で捕まり、軍人からもらったものだと証言したとしても、異国人を裁く法もなければ守る法もないのでどうとでもなる。
 ……まあ、このシルリー一味が連日連夜飲み歩き、渡した金を王都中でばら撒いているなど誤算中の誤算だったと思うが。

 彼らに手渡された贋金は金貨だけだったし、出来栄えもちょっと観察すれば分かるくらいに偽物っぽいので、すべては無理でも大多数を回収することは難しくない。庶民なら金貨を使う機会など滅多にないはずで、金庫に大事に仕舞われていることだろう。
 とはいえ、贋金が出回ったという事実は覆らないし、お金の価値や信用を保つためには硬貨のデザイン刷新をして、旧硬貨の使用を禁じることも考えないといけない。

 そのあたりをどう父王やミリアルドに説明すべきか迷うが……くわしい話はすっ飛ばして、王太子の婚姻記念がどうとかと話をこじつけて新硬貨の発行を促すのがベストだろうか。
 十年前とは違い証拠品があるとはいえ、出所が軍部だともそこで作られたものだとも証明されていないので、追及材料としてあまり役に立たない。
 まあ、探られて痛い腹のある奴を脅すにはうってつけのブツなので、大事に保管させてもらうが。

「……お、俺たちハどうなルンだ?」
「こちらの方々と一緒にガンドールへ帰っていただきます。そこで然るべき裁きを受け、きっちり償いをしてくだされば、当方としてはこれ以上何かをするつもりはありませんが……それで命が助かるかは保障しかねます」
「え……?」

 私刑にでもされるのかと怯えていた男たちは、何事もなく祖国へ帰れることに一旦胸を撫で下ろしつつも、続く不穏な言葉に冷や汗が流れる。

「あなた方はご存じないでしょうが、お嬢様はさるガンドールの皇子殿下のお気に入りですよ。ガンドールでは司法にどの程度権力者の意向が反映されるのか存じませんが、仮に今回ことがその殿下のお耳にはいったら、大層お怒りになることでしょうね。どのような処分が下されるか――私には怖くて怖くて、想像もできません」

 自分の腕を抱えて身震いする素振りを見せつつも、ワクワクが隠しきれないテッカテカの笑顔で言い放たれ、シルリー一味は全員白目を剥いて気絶した。
 ブサ猫女神の威光を見誤っていた三下悪役たちの末路はいかなるものか、直接知ることができないのは本当に残念だとテッドは思う。

「お手数をかけたな。聞きたいことは聞けたから、もう連れて行ってくれ。くれぐれも逃がさないようにな」
「はイ」

 恐怖のあまり失神したシルリーたちに憐みの視線を向けながら、ケネスは移送するよう指示を出したのち、改めてムサカに向き直った。

「ムサカ殿。この度は娘を貶める片棒を担いだ輩共を捕えてくれて、本当にありがとう。今は礼を述べるしかできないが、いずれ別の形で礼をさせてもらおう」
「も、もったイなイ言葉、でス……我々ノ商品をすべて買い上ゲていたダいただけデ十分デござイマス……」
「いやいや、私たちが無理を言ったばかりに、こいつらを引き渡すため祖国へとんぼ返りせねばならないのだから、このくらいのことは当然だ」
「そう、でスか……」

 高位の貴族なのに偉そぶることなく、物腰柔らかでカタコトの言葉に文句ひとつ言わないケネスを前に、ムサカは恐縮しきりでタジタジになりながらペコペコと頭を下げた。
 血は繋がっていないらしいが、こういうところは案外ジゼルと似ていると思うし、親子なんだなとしみじみ感じ入ってしまう。

「お疲れ様でした、ムサカさん。久しぶりにお会いするなり、無茶なお願いをして申し訳ありませんでしたが、このタイミングであなたに出会えて本当に僥倖でした。これぞまさに天の配剤でしょう」
「……ふん。お前ノためニやったコトでハない。すべては女神ノためダ。しかシ、役に立てたようデなによリだ」

 主人に倣うように、従者の装いをしたテッドが礼を述べ恭しく頭を下げると、先ほどとは打って変わってムサカは胡乱げな目で対応しつつも、素直にその言葉を受け取った。
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