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第六部 ざまぁ編
ハイマン家は団結する
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ジゼルが獄中生活を満喫しつつ、予期せぬ従者との再会に大混乱していた頃。
太陽にも等しい中心的人物が消えたハイマン家では、誰もが失意のどん底にいるだろう――と思われていたが。
「これより、我がハイマン家はジゼルの無実を証明する会を結成する! 各人死力を尽くしてあの子を貶める証言をした輩を探し出し、歪んだ真実を捏造した愚鈍な王家に正義の鉄槌を下すのだ!」
「言われるまでもありませんわ、あなた。大切な娘をあんな風にこけにされて、黙っているなど母親失格です。わたくしの持てるもの伝手も財もすべてを使い、あの子の潔白を証明して見せますわ」
「僕も徹底的にやらせていただきますよ。か弱いジゼルをラングドンへ送るなど許しがたい所業です。ハイマン家を敵に回したことを死ぬほど後悔させてやりましょう」
「諸君らの意気込みは大いに結構。だが、あまりに性急に行動すれば敵に感づかれてしまう。我々の意図をあちらに悟られないよう、慎重に行動してくれ。あの子が我が身に代えて守ってくれたこの家を失っては元も子もない」
「分かってますよ、お父様。ジゼルの帰ってくる場所を守るのも、残された僕らの義務ですからね」
朝食を終えた食堂にて。
ケネスがダンッと食卓を叩いて声高に宣言すると、アメリアもハンスも力強くうなずき返し、ここに“ジゼルの無実を証明する会”が爆誕した。
ショックや憤りで寝不足らしく皆一様に目の下に濃い隈があるが、湿っぽい空気が一切ないどころかアドレナリン全開で元気いっぱい……というか異常テンションだった。
しかも三人とも『ジゼル命』と刺繍のされた鉢巻を巻いており、美男美女一家がいろいろと台無しである。
しかし、ストレス過多で正常な思考が失われた彼らは気づいていないし、傍に控える使用人も大概ブサ猫萌えに浸食されているので、違和感がないどころか当然とばかりに誰も突っ込まない。
そんな異様な空気に包まれた食堂で、第一回の作戦会議が始まった。
「では、さっそく具体的な行動について詰めていこう。私はジゼルの会社に協賛してくれている商会に声をかけ、証人とされた人物を探してもらうよう頼もうと思う」
「わたくしは王都の繁華街で働くグリード地区の人たちや、孤児院出身の子たちに声をかけてみますわ。意外にそういう話は、下で働く人間が聞いているものですから」
「僕はロゼッタと一緒に社交界の動きを監視しつつ、アーメンガート嬢の身辺情報を探ってみようと思います。あんな大それたことを秘密裏に計画し実行したとなれば、かなりの数の協力者がいたはずです。そのうちの一人か二人でもあぶりだせれば、女狐の尻尾を掴む一端になるでしょう」
「敵の懐に潜り込むような真似をして大丈夫なの?」
「僕が直接乗り込むわけじゃありませんよ。王宮勤めをしている学生時代の友人に話を聞くだけです。彼はアーメンガート嬢の熱狂的なファンでして、かなりの情報通ですよ」
両親の前なのでオブラートに包んで表現したが、実際の彼は犯罪者級のストーカだ。
仕事も私生活もそっちのけで昼夜問わず彼女の行動を陰から見守っているとか、捨てられた私物をこっそり回収してコレクションしてるとか、お付きの侍女より正確に彼女のスケジュールを把握しているとか……とにかくできれば一生関わり合いになりたくないタイプである。
重度のシスコンのハンスだってそんなことはしないのに。
いや、正確に言えばジゼルに嫌われたくないからやらないだけで、ばれない確証があるなら実行しかねないので根っこは意外に同類なのだか、それはさておき。
件の友人は、見つかればその場で命を刈り取られてもおかしくない所業を繰り返す男だが、今回に限っては超有力な切り札になりえる。アーメンガートと対立する立場にあるハンスに協力してくれるかは不明だが、そこは次期公爵としての交渉術が試されるところだ。
「それと、可能な限りお義父様にも協力していただきます。まあ、ジゼル側であるお義父様は警戒されるでしょうから、そう簡単に情報は漏らさないでしょうけど、王宮にいるだけで漏れ聞こえることもあるでしょうから」
お義父様とは、言わずもがな愛妻ロゼッタの父アーノルドである。
その名前が出た時、ふと公爵夫妻の顔に陰りがよぎった。
「アーノルド殿か……ところで、彼は大丈夫なのか……?」
「ロゼッタちゃんにはやりすぎないように釘を刺しましたけど、問題はグロリアさんよねぇ……旦那様を見る目に明らかな殺気が籠ってたもの」
現役宰相を諜報員に使おうというのはなかなか厚顔無恥な行いであるが、この国のナンバー2としてミリアルドの蛮行を止められなかった責任は重い。
ジゼルを失ったハイマン家としては、断罪劇を阻止できなかったアーノルドに恨みを抱く立場にあるのだが、ロゼッタやグロリアがブチ切れているので、彼女たちをなだめるのに忙しくそういう感情が吹っ飛んでしまった。
自分より感情を爆発させている人が傍にいると、逆に冷静になってしまうパターンである。
それに……現在別室で行われている取り調べを考えると、憐憫の情しかない。
アーノルドを連れ去ったビショップ家の女性陣は、般若か夜叉かと言わんばかりの形相だった。あの様子を思い出すだけで悪寒が走る。
血の雨が降りませんように――と一家は胸中で祈りながら作戦会議を続けた。
太陽にも等しい中心的人物が消えたハイマン家では、誰もが失意のどん底にいるだろう――と思われていたが。
「これより、我がハイマン家はジゼルの無実を証明する会を結成する! 各人死力を尽くしてあの子を貶める証言をした輩を探し出し、歪んだ真実を捏造した愚鈍な王家に正義の鉄槌を下すのだ!」
「言われるまでもありませんわ、あなた。大切な娘をあんな風にこけにされて、黙っているなど母親失格です。わたくしの持てるもの伝手も財もすべてを使い、あの子の潔白を証明して見せますわ」
「僕も徹底的にやらせていただきますよ。か弱いジゼルをラングドンへ送るなど許しがたい所業です。ハイマン家を敵に回したことを死ぬほど後悔させてやりましょう」
「諸君らの意気込みは大いに結構。だが、あまりに性急に行動すれば敵に感づかれてしまう。我々の意図をあちらに悟られないよう、慎重に行動してくれ。あの子が我が身に代えて守ってくれたこの家を失っては元も子もない」
「分かってますよ、お父様。ジゼルの帰ってくる場所を守るのも、残された僕らの義務ですからね」
朝食を終えた食堂にて。
ケネスがダンッと食卓を叩いて声高に宣言すると、アメリアもハンスも力強くうなずき返し、ここに“ジゼルの無実を証明する会”が爆誕した。
ショックや憤りで寝不足らしく皆一様に目の下に濃い隈があるが、湿っぽい空気が一切ないどころかアドレナリン全開で元気いっぱい……というか異常テンションだった。
しかも三人とも『ジゼル命』と刺繍のされた鉢巻を巻いており、美男美女一家がいろいろと台無しである。
しかし、ストレス過多で正常な思考が失われた彼らは気づいていないし、傍に控える使用人も大概ブサ猫萌えに浸食されているので、違和感がないどころか当然とばかりに誰も突っ込まない。
そんな異様な空気に包まれた食堂で、第一回の作戦会議が始まった。
「では、さっそく具体的な行動について詰めていこう。私はジゼルの会社に協賛してくれている商会に声をかけ、証人とされた人物を探してもらうよう頼もうと思う」
「わたくしは王都の繁華街で働くグリード地区の人たちや、孤児院出身の子たちに声をかけてみますわ。意外にそういう話は、下で働く人間が聞いているものですから」
「僕はロゼッタと一緒に社交界の動きを監視しつつ、アーメンガート嬢の身辺情報を探ってみようと思います。あんな大それたことを秘密裏に計画し実行したとなれば、かなりの数の協力者がいたはずです。そのうちの一人か二人でもあぶりだせれば、女狐の尻尾を掴む一端になるでしょう」
「敵の懐に潜り込むような真似をして大丈夫なの?」
「僕が直接乗り込むわけじゃありませんよ。王宮勤めをしている学生時代の友人に話を聞くだけです。彼はアーメンガート嬢の熱狂的なファンでして、かなりの情報通ですよ」
両親の前なのでオブラートに包んで表現したが、実際の彼は犯罪者級のストーカだ。
仕事も私生活もそっちのけで昼夜問わず彼女の行動を陰から見守っているとか、捨てられた私物をこっそり回収してコレクションしてるとか、お付きの侍女より正確に彼女のスケジュールを把握しているとか……とにかくできれば一生関わり合いになりたくないタイプである。
重度のシスコンのハンスだってそんなことはしないのに。
いや、正確に言えばジゼルに嫌われたくないからやらないだけで、ばれない確証があるなら実行しかねないので根っこは意外に同類なのだか、それはさておき。
件の友人は、見つかればその場で命を刈り取られてもおかしくない所業を繰り返す男だが、今回に限っては超有力な切り札になりえる。アーメンガートと対立する立場にあるハンスに協力してくれるかは不明だが、そこは次期公爵としての交渉術が試されるところだ。
「それと、可能な限りお義父様にも協力していただきます。まあ、ジゼル側であるお義父様は警戒されるでしょうから、そう簡単に情報は漏らさないでしょうけど、王宮にいるだけで漏れ聞こえることもあるでしょうから」
お義父様とは、言わずもがな愛妻ロゼッタの父アーノルドである。
その名前が出た時、ふと公爵夫妻の顔に陰りがよぎった。
「アーノルド殿か……ところで、彼は大丈夫なのか……?」
「ロゼッタちゃんにはやりすぎないように釘を刺しましたけど、問題はグロリアさんよねぇ……旦那様を見る目に明らかな殺気が籠ってたもの」
現役宰相を諜報員に使おうというのはなかなか厚顔無恥な行いであるが、この国のナンバー2としてミリアルドの蛮行を止められなかった責任は重い。
ジゼルを失ったハイマン家としては、断罪劇を阻止できなかったアーノルドに恨みを抱く立場にあるのだが、ロゼッタやグロリアがブチ切れているので、彼女たちをなだめるのに忙しくそういう感情が吹っ飛んでしまった。
自分より感情を爆発させている人が傍にいると、逆に冷静になってしまうパターンである。
それに……現在別室で行われている取り調べを考えると、憐憫の情しかない。
アーノルドを連れ去ったビショップ家の女性陣は、般若か夜叉かと言わんばかりの形相だった。あの様子を思い出すだけで悪寒が走る。
血の雨が降りませんように――と一家は胸中で祈りながら作戦会議を続けた。
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