ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第六部 ざまぁ編

ブサ猫令嬢はただの悪役令嬢ではない⑨

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 ジゼルの血統が尊いものではないと暴露され、会場はこれまでになく騒然とした。
 アーメンガート殺害未遂だとか、賄賂を使ったネガティブキャンペーンだとか、長らく悪評を背負ってきたジゼルならやりかねないと思われていたし、そういうネタは社交界では日常茶飯事だから感覚が麻痺している。

 だが、選民思想の強い貴族にとって、血筋は平民とは一線を画する唯一の証明で、能力や外見よりはるかに重視されるもの。
 出自を偽り貴族を名乗るなど、万死に値する罪だと考えるだろう。
 その習性をよく知っていたからこそ、ジゼルを屈服させる虎の子として最後まで取っておいたのだろう。

 図星なだけに一番突かれて痛いところだが、それだけに一番覚悟を決めていたところでもあるし、反論の準備もできている。

「これまた突拍子もないこと言わはりますなぁ。で、その証拠は?」
「複数の証人がいます。こちらへどうぞ」

 ニックが壇上から声をかけると、仮面を被った給仕係の女性が三人ほど出てきた。

「この者たちはかつて、ハイマン公爵家に仕えていた者です。これまで使用人として遵守すべき守秘義務に基づき、長年口を閉ざしていましたが、どこの馬の骨とも知れない輩が敬愛すべき主を利用して、自己中心的な暴利をむさぼる姿を見るに堪えかね、我々に告発してくれたのです。そうでしたね、皆様」

 ニックが眼鏡の奥に有無を言わせない光を宿して、証人たちを一瞥する。
 これ以上ジゼルの反論を許してなるものかという強力な圧に、彼女たちは肩をピクリと震わせたのち、震える声で証言をする。

「……さ、左様でございます」
「奥様のお子が流れたのを秘するため、たまたま屋敷の前に捨てられていた赤ん坊を、公爵家の娘として育てることにしたのです」
「私たちは……そこにいる女が捨て子だと知っていて、公爵家のご令嬢としてお世話しました」
「旦那様からも奥様からも口止めされていて、ずっと隠しておりました……申し訳ありません……」

 彼女たちの語り口調は、先ほどまでの証人たちと比べて芝居掛かっていないというか、ジゼルへの悪意や糾弾への熱量が感じられない。むしろ、証言することへの罪悪感の方が強いとすら見受けられる。
 これが演技だとは思えない。

 王家は金銭や恐喝などなんらかの方法を用い、彼女たちが重く閉ざしていた口を開かせたのだ、と考える方がしっくりくる。
 証言そのものも両親から聞いた話とほぼ同じで、彼女たちがかつて公爵家の侍女だったことも、ジゼルの出生の秘密も、疑いようもない真実だと白日の下に晒されたことになる。

 何年も前から受け入れている事実だから、今更ショックを受けようがないが……それよりどうやってこの場を切り抜けるかに集中せねば。
 こんな時のために、いろいろと言い訳は考えてある。

「……せやからなんですの? そん時ウチはなんも自分でようせぇへん、無力な赤ん坊ですよ? 責任を追及するんやったら、ウチやなくその決定を下した両親でしょう?」
「その落ち着き払った様子では、お前は前々から己の出自を知っていたんだろう。であれば、隠蔽工作に加担したのも同義でお前も同罪……むしろその地位や権利を乱用して賄賂をばら撒き無辜の民衆を扇動し、我が身の卑しさを差し置いてアーメンガートの出自をあげつらい、虐げたばかりか命まで狙ったともなれば、公爵夫妻よりはるかに重い罪に問えるぞ」

「せやから、ウチはなんもやってへんって、何度も言わせんとってくださいよ。ちゅーかそれよりも、おたくさんらの強権があればもっと前に調べられたはずやのに、これまでなんもせんかった手落ちを認めへんばかりか、今更になって公衆面前で暴露するなんて非常識やないですか」
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