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第六部 ざまぁ編
ブサ猫令嬢はただの悪役令嬢ではない②
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角砂糖は単に手が滑って落としただけで、それを彼女らがいいように解釈してやたらと感激して、訂正できるような空気ではなくなっただけだったりする。
実際にアリの食料になったので嘘ではないものの、美談として語られると尻がむずがゆい――などと現実逃避している場合ではない。
味方してくれるのはありがたいし心強いが、全員まるっと不敬罪にかけられては本当に大罪人になってしまう。早く黙らせないと。
「ええい! やかましわ!」
人気劇団員をも慄かせる大声量で、会場のあちこちから上がる野次をかき消す。
「これはウチが売られた喧嘩や! 外野は口を挟まんとって! はいはい、もっと後ろに下がって下がって! そないな砂被り席におられたら、やりにくうてしゃあないわ! ケリがつくまで一言でもなんか言うたり、そっから一歩でも出てきたら……絶交やからな! 一生口きかへんし遊ばへんで!」
乙女ゲームではなく任侠映画みたいな台詞回しもさることながら、脅し文句が小学生並みの語彙力のなさに絶望しかけたが、
「ジゼルが一生口をきいてくれなくなるとか……耐えられない……!」
「なんということでしょう、ジゼル様と絶交だなんて……想像しただけで血の涙が出ますわ!」
「いっそ死んだ方がマシです!」
「ああでも、わたくしたちを守るためにお一人で戦おうとなさるジゼル様のお姿の、なんと尊いことか……!」
「さすがジゼル様です! 輝いておられます!」
「どこぞの女狐とは格が違いますわね!」
何故か会心の一撃を食らったらしく、軒並み涙ながらに撃沈して後退していく。
ところどころで謎の好感度アップがあったり、どさくさに紛れてアーメンガートをディスったり、余計な効果もあったようだが……ひとまず沈静化したのでよしとしよう。
「……おい、仲良しごっこの寸劇は終わりか?」
非難の的になりいくつも青筋の浮いていたミリアルドも、ジゼルの幼稚な喝で静まってしまったことに毒気を抜かれたらしく、皮肉交じりながらもすごくフラットな声色で問いかけてきた。
「みたいです。えらいお待たせして申し訳ありませんねぇ。せやけどこれで、落ち着いてお話できますわ」
こちらにやましいことなどないことを証明するべく、というより余計な横やりがこれ以上入らないよう、ギャラリーから離れた檀上近くまで歩み寄りながら口を開く。
「で、なんの話でしたっけ……そうそう、ウチを断罪するとか社交界から追放するとかなんとか。せやけど、そないなこと言われても、なんも心当たりはありませんけど? この通りいつでもどこでも公明正大に生きとりますからね」
「ふん、減らず口を叩けるのも今のうちだ。お前の犯した罪の数々を白日の下に晒し、正義の鉄槌を下してやる」
「ほお、ほんならどうぞご自由に。ウチはなんもやましいことありませんから」
複数形ということから出自だけの問題ではないようだ。
一体どんな冤罪を押し付けてくるのかまったく読めず、緊張で胃の底が冷え切りキリキリと痛むが、商談と同じでひるんだ方が負けだ。余裕ぶった恵比須顔を維持して、仁王像のごとく腕組みをしてふんぞり返る。
ミリアルドはそれを忌々しそうに睨みつつ、傍に控えていた従僕に目配せする。
遠くにいた時は分からなかったが、あれは合法ショタの眼鏡くん……もとい、攻略対象の一人ニック・メイガンだ。
細く丸められた羊皮紙に巻かれた紐を解いて広げる様子を見ながら、そういえば悪役令嬢の断罪シーンでは必ず彼が罪状を読み上げてたな……と場違いな記憶がチラつくが、聞こえてきた咳払いに小さく頭を振って追い出す。
実際にアリの食料になったので嘘ではないものの、美談として語られると尻がむずがゆい――などと現実逃避している場合ではない。
味方してくれるのはありがたいし心強いが、全員まるっと不敬罪にかけられては本当に大罪人になってしまう。早く黙らせないと。
「ええい! やかましわ!」
人気劇団員をも慄かせる大声量で、会場のあちこちから上がる野次をかき消す。
「これはウチが売られた喧嘩や! 外野は口を挟まんとって! はいはい、もっと後ろに下がって下がって! そないな砂被り席におられたら、やりにくうてしゃあないわ! ケリがつくまで一言でもなんか言うたり、そっから一歩でも出てきたら……絶交やからな! 一生口きかへんし遊ばへんで!」
乙女ゲームではなく任侠映画みたいな台詞回しもさることながら、脅し文句が小学生並みの語彙力のなさに絶望しかけたが、
「ジゼルが一生口をきいてくれなくなるとか……耐えられない……!」
「なんということでしょう、ジゼル様と絶交だなんて……想像しただけで血の涙が出ますわ!」
「いっそ死んだ方がマシです!」
「ああでも、わたくしたちを守るためにお一人で戦おうとなさるジゼル様のお姿の、なんと尊いことか……!」
「さすがジゼル様です! 輝いておられます!」
「どこぞの女狐とは格が違いますわね!」
何故か会心の一撃を食らったらしく、軒並み涙ながらに撃沈して後退していく。
ところどころで謎の好感度アップがあったり、どさくさに紛れてアーメンガートをディスったり、余計な効果もあったようだが……ひとまず沈静化したのでよしとしよう。
「……おい、仲良しごっこの寸劇は終わりか?」
非難の的になりいくつも青筋の浮いていたミリアルドも、ジゼルの幼稚な喝で静まってしまったことに毒気を抜かれたらしく、皮肉交じりながらもすごくフラットな声色で問いかけてきた。
「みたいです。えらいお待たせして申し訳ありませんねぇ。せやけどこれで、落ち着いてお話できますわ」
こちらにやましいことなどないことを証明するべく、というより余計な横やりがこれ以上入らないよう、ギャラリーから離れた檀上近くまで歩み寄りながら口を開く。
「で、なんの話でしたっけ……そうそう、ウチを断罪するとか社交界から追放するとかなんとか。せやけど、そないなこと言われても、なんも心当たりはありませんけど? この通りいつでもどこでも公明正大に生きとりますからね」
「ふん、減らず口を叩けるのも今のうちだ。お前の犯した罪の数々を白日の下に晒し、正義の鉄槌を下してやる」
「ほお、ほんならどうぞご自由に。ウチはなんもやましいことありませんから」
複数形ということから出自だけの問題ではないようだ。
一体どんな冤罪を押し付けてくるのかまったく読めず、緊張で胃の底が冷え切りキリキリと痛むが、商談と同じでひるんだ方が負けだ。余裕ぶった恵比須顔を維持して、仁王像のごとく腕組みをしてふんぞり返る。
ミリアルドはそれを忌々しそうに睨みつつ、傍に控えていた従僕に目配せする。
遠くにいた時は分からなかったが、あれは合法ショタの眼鏡くん……もとい、攻略対象の一人ニック・メイガンだ。
細く丸められた羊皮紙に巻かれた紐を解いて広げる様子を見ながら、そういえば悪役令嬢の断罪シーンでは必ず彼が罪状を読み上げてたな……と場違いな記憶がチラつくが、聞こえてきた咳払いに小さく頭を振って追い出す。
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2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
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ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
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