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第六部 ざまぁ編
差し入れと熱血指導②
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「ちゅーか、金貨は菓子折りの下に忍ばせてといて、『山吹の菓子でございます』って言うて渡すんが礼儀やで」
「はあ……」
そんな越後屋方式を説かれたって、乙女ゲーム世界で通用するわけがない。
テッドは「どこ情報だ」とばかりに胡乱な目を向けるが、何を言うべきか思いつかなかったのか、生返事だけして口を閉ざした。
などとくだらない会話をしているうちに、劇団側で話がまとまったのか代表者らしい男がジゼルたちの前に現れた。
「お待たせして申し訳ありません。私は当劇団で長を務めております、ボブソンと申します。この度は結構な品を頂戴いたしまして、なんとお礼を申し上げればいいか……」
「いえいえ、ホンマにたいしたモンやないんですよ。安いおやつを押し付けて、こっちが申し訳ないくらいです。そちらさんくらい有名な劇団やったら、差し入れにはもっと豪勢なモンいただくんですやろ?」
「はは、そのようなことは。ただ、そういうものをいただけるのは、劇団を仕切る上役だけとか、売れっ子や贔屓の役者だけのことが多いので、皆に分け隔てなく振舞ってくださるのは本当にありがたいです」
「そうでしたか。大所帯やと大変ですねぇ」
世知辛い下っ端事情にしみじみとうなずき返しながら、できるだけ早く用事を終わらせるべく本題に切り込む。
「……ところで、ウチの役やってくれはる方ってどなたです?」
「それは……」
悪役令嬢役だけをあげつらい糾弾するつもりでは、とばかりに渋い顔をするボブソンに、ご利益ありそうと評判の恵比須顔を向けて説得する。
「いや、ホンマにクレームつけるつもりやのうて。ほら、ウチの訛りは独特ですやろ? 普通の人に真似すんのは難しいし、せっかくモデルにしてくれてるんやったら、より本物に近づけてほしいですしねぇ。ド素人がプロの役者さんに指導するなんておこがましいですけど、アドバイスくらいさせてもらえんかなぁと思いまして」
「はあ、しかし……」
「今ならウチを宣伝材料に使う許可も、お付けしますよ。出血大サービスですわ」
「え!?」
「モデル自らが役作りに協力してるって宣伝したら、興行収入右肩上がりで過去記録をぶっちぎりで更新……かどうかは知らんけど、注目されることは間違いなしですわ。それに、ウチ公認やって初めから出しとけば、お客さんも公爵家からの反発を気にせんと安心して劇に集中できると思いません? そら、王家の人らからウチの協力を得たらアカンって釘刺されてるなら、無理にとは言いませんけど」
一応逃げ道を作ったが、そんな制約がなされているはずがない。
依頼した側も、プライドを傷つけられたジゼルが地団太を踏んだり、怒鳴り込みに来ることくらいは想像できても、「ウチが大阪弁監修するで!」と嬉々として首を突っ込んでくるとは夢にも思っていないはずだ。
そう見越して怒涛のプレゼンを展開させるジゼルに、ボブソンは処理落ち寸前になりながらも様々なことを脳内で天秤にかけたのち……事の次第を見守る群衆の中の一人に目を向けた。
「ヒルダ」
「は、はいっ……」
呼びかけに応じて、練習着らしい簡素なワンピースをまとった若い女性が前に出てきた。
主役経験もあるという言葉も納得の、舞台映えする美人だ。
こんな素晴らしい素材で、自分をモデルにした役をやらせるなんてもったいないというか、そもそも自分がこんなブサ猫で申し訳ないというか……心中複雑だが、偉そうにプレゼンした手前あとには引けない。
「はあ……」
そんな越後屋方式を説かれたって、乙女ゲーム世界で通用するわけがない。
テッドは「どこ情報だ」とばかりに胡乱な目を向けるが、何を言うべきか思いつかなかったのか、生返事だけして口を閉ざした。
などとくだらない会話をしているうちに、劇団側で話がまとまったのか代表者らしい男がジゼルたちの前に現れた。
「お待たせして申し訳ありません。私は当劇団で長を務めております、ボブソンと申します。この度は結構な品を頂戴いたしまして、なんとお礼を申し上げればいいか……」
「いえいえ、ホンマにたいしたモンやないんですよ。安いおやつを押し付けて、こっちが申し訳ないくらいです。そちらさんくらい有名な劇団やったら、差し入れにはもっと豪勢なモンいただくんですやろ?」
「はは、そのようなことは。ただ、そういうものをいただけるのは、劇団を仕切る上役だけとか、売れっ子や贔屓の役者だけのことが多いので、皆に分け隔てなく振舞ってくださるのは本当にありがたいです」
「そうでしたか。大所帯やと大変ですねぇ」
世知辛い下っ端事情にしみじみとうなずき返しながら、できるだけ早く用事を終わらせるべく本題に切り込む。
「……ところで、ウチの役やってくれはる方ってどなたです?」
「それは……」
悪役令嬢役だけをあげつらい糾弾するつもりでは、とばかりに渋い顔をするボブソンに、ご利益ありそうと評判の恵比須顔を向けて説得する。
「いや、ホンマにクレームつけるつもりやのうて。ほら、ウチの訛りは独特ですやろ? 普通の人に真似すんのは難しいし、せっかくモデルにしてくれてるんやったら、より本物に近づけてほしいですしねぇ。ド素人がプロの役者さんに指導するなんておこがましいですけど、アドバイスくらいさせてもらえんかなぁと思いまして」
「はあ、しかし……」
「今ならウチを宣伝材料に使う許可も、お付けしますよ。出血大サービスですわ」
「え!?」
「モデル自らが役作りに協力してるって宣伝したら、興行収入右肩上がりで過去記録をぶっちぎりで更新……かどうかは知らんけど、注目されることは間違いなしですわ。それに、ウチ公認やって初めから出しとけば、お客さんも公爵家からの反発を気にせんと安心して劇に集中できると思いません? そら、王家の人らからウチの協力を得たらアカンって釘刺されてるなら、無理にとは言いませんけど」
一応逃げ道を作ったが、そんな制約がなされているはずがない。
依頼した側も、プライドを傷つけられたジゼルが地団太を踏んだり、怒鳴り込みに来ることくらいは想像できても、「ウチが大阪弁監修するで!」と嬉々として首を突っ込んでくるとは夢にも思っていないはずだ。
そう見越して怒涛のプレゼンを展開させるジゼルに、ボブソンは処理落ち寸前になりながらも様々なことを脳内で天秤にかけたのち……事の次第を見守る群衆の中の一人に目を向けた。
「ヒルダ」
「は、はいっ……」
呼びかけに応じて、練習着らしい簡素なワンピースをまとった若い女性が前に出てきた。
主役経験もあるという言葉も納得の、舞台映えする美人だ。
こんな素晴らしい素材で、自分をモデルにした役をやらせるなんてもったいないというか、そもそも自分がこんなブサ猫で申し訳ないというか……心中複雑だが、偉そうにプレゼンした手前あとには引けない。
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