ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第六部 ざまぁ編

さらなる野望?③

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「……お嬢様って、つくづくお人よしですよねぇ」
「そうか? ウチは会社経営に関しては、利益の出ぇへんことはせぇへんで。あくまでリスクマネジメントの一環や」
「照れ隠しじゃなく真顔で言ってるあたりが、真正だと思いますけどね……」

 まあまあ人が好い自覚はあるが、精神年齢がアラ還にもなれば自然と損得勘定が働くので、お人よしには該当しない気がする。真正のお人よしともなれば、それこそ物語のヒロインのような自己犠牲精神でもない限りありえない。
 首をかしげるジゼルに、テッドは肩をすくめて「お茶でも淹れてきます」と言い置いて出て行ってしまった。

「この世界のお人よりハードルは、思ったより低いんやろか……」

 ジゼルはそこいらの貴族令嬢より俗世にくわしいつもりだし、個人の努力では覆せない差別や貧困が根付いているのも知っているが、見えているところ以上に闇は深く、冷酷非情な人間が多いのかもしれない。
自分程度がお人よしと定義されるとは、なんとも世知辛い世の中である。
 一人ぼやきながら筆記具を片付けていると、厨房まで行っているはずのテッドが早くも舞い戻ってきた。

「え、お茶は?」
「すみません。お嬢様にお手紙が届いておりましたので、先にお渡ししておこうと思いまして」
「あー、そうなん。ありがとさん」

 差し出された手紙を受け取り送り主を確認すると、くいだおれ楽太郎――もとい、王都に座する大劇場ギャレットホールの副支配人だった。
 ブサネコ・カンパニーを立ち上げた時からお世話になっている、道頓堀のシンボル・くいだおれ太郎そっくりのベイルードの商工組合長の従兄という彼は、「これも何かのご縁」と言って支配人に口利きをしてくれて、かの劇場を乗合馬車の協賛企業してくれたばかりか、かなりの額を援助してくれている恩人である。

 トーマとのデートで知り合って以来、新作公演の興業が決まるたび案内を送ってくれるので、てっきりそれだろうと思っていたのだが。

「……ん? んん?」

 綴られた文字を追うたびに眉間にしわが寄り……最後まで読み終えたのちに天井を仰いだ。

「うーん、これは……」
「お待たせしました――って、どうされたんです、お嬢様?」

 淹れたてのお茶を載せたカートを押して入ってきたテッドに、無言で副支配人からの手紙を突き付ける。
 黙ってそれを受け取りざっと目を通すと、普段主を主とも思わない言動で定評のある彼でも、あからさまに眉をひそめた。

「これはさすがにやりすぎというか、短絡的というか……頭悪いんですか、あの人たち?」
「さすがにそれは言い過ぎやけどな。しっかし、ウチはなんもしとらんっちゅーのに、なんで喧嘩吹っかけてくるんか。ホンマ意味分からんで……」
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