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第六部 ざまぁ編
さらなる野望?①
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グリード地区でひと悶着あってから、一週間ほどが経った。
王太子とその婚約者が王都のあちこちを視察して回ったことは、目下街中で話題になっているようだが、それをざっくり要約すると『美男美女カップルで眼福』だとか『仲がよろしいようで、お世継ぎの心配はなさそう』だとか『いかにもな王子様とお姫様』だとか、やや皮肉交じりの褒め言葉が飛び交っているらしい。
まあ、為政者として有能で立派であっても、国民ウケがいいとは限らない。
仕事を完璧にこなす上司が、必ずしも部下から慕われるわけではないのと同じである。
ミリアルドは幼い頃から王としての才覚を発揮し、すでにいつでも王位を継げるほどだし、アーメンガートも妃教育で好成績を修め、婚約者の段階で様々な仕事を任されている――と、国政における事実上のナンバーツーである宰相がいうのだから、能力面で問題がないのは確かだ。
人間誰しも向き不向きがあるので仕方のないことだが……もしかしたらその酷評の一端に、ジゼルの貴族っぽさゼロのフレンドリーすぎる対応と比較されているのだとしたら、ちょっと罪悪感が湧くし、逆恨みされていないか心配でもある。
とはいえ、ジゼルが何年も前から王都の商人たちと交流していたのは知っていたはずだし、それでいてこれまでずっと市井と関わってこなかったのは向こうの勝手だ。
民主主義的な投票で玉座が決まるわけでもなし、人気のあるなしぐらいでクーデターが起きるほどこの国は荒れていない。
もしもクレームをつけられたら丁重に謝罪するなり、イメージアップ戦略に協力するなりするとして――ひとまず今は、目の前の商機をつかむことに専念する。
「……回転焼き屋の出店ですか?」
「せや。寒い冬は温かいモンが売れるし、手軽に食べられる甘いおやつ系は競合が少ないからな」
下町で食べ歩きをしながら仕入れた情報によると、晩秋から春先まで長く厳しい冷え込みが続くエントールでは、軽食やおやつにホットスナックがよく売れるらしい。
しかし、屋台で並んでいるのは、串焼き肉やフライドチキンやプレッツェルっぽい揚げ菓子など、塩味の効いたものがほとんど。そして、安くてボリューミーであればあるほど人気だ。
チュロスやドーナツなどの甘い揚げ菓子もあるが、砂糖そのものの価格が高いので、庶民が買える値段にしようと思うとどうしてもボリュームを減らさざるを得ず、コスパ重視の消費者のニーズに合わないとのことで店の数も少ない。
不作の影響で砂糖も高騰しており、なおのこと割に合わないので、この冬は商売を控える者が増えるだろう。
だが、回転焼きに使うのは砂糖を使わずとも甘く、天災にも強い甘藷。
去年登場した新味のカボチャも平年並みの収穫量で、価格も安定している。
小麦や卵の価格はさすがに値上がりしているが、砂糖ほどではないし、生地を薄くしたり片栗粉を混ぜたりと、努力次第でこれまで通りの定価に収められる範囲である。
なんならわずかに商品を小さくして、実質値上げの形をとってもいい。
だから、新規参入でもリスクは少ない――商工組合に出す書類の必要事項を埋めながらそう語ると、テッドは納得したようにうなずいた。
王太子とその婚約者が王都のあちこちを視察して回ったことは、目下街中で話題になっているようだが、それをざっくり要約すると『美男美女カップルで眼福』だとか『仲がよろしいようで、お世継ぎの心配はなさそう』だとか『いかにもな王子様とお姫様』だとか、やや皮肉交じりの褒め言葉が飛び交っているらしい。
まあ、為政者として有能で立派であっても、国民ウケがいいとは限らない。
仕事を完璧にこなす上司が、必ずしも部下から慕われるわけではないのと同じである。
ミリアルドは幼い頃から王としての才覚を発揮し、すでにいつでも王位を継げるほどだし、アーメンガートも妃教育で好成績を修め、婚約者の段階で様々な仕事を任されている――と、国政における事実上のナンバーツーである宰相がいうのだから、能力面で問題がないのは確かだ。
人間誰しも向き不向きがあるので仕方のないことだが……もしかしたらその酷評の一端に、ジゼルの貴族っぽさゼロのフレンドリーすぎる対応と比較されているのだとしたら、ちょっと罪悪感が湧くし、逆恨みされていないか心配でもある。
とはいえ、ジゼルが何年も前から王都の商人たちと交流していたのは知っていたはずだし、それでいてこれまでずっと市井と関わってこなかったのは向こうの勝手だ。
民主主義的な投票で玉座が決まるわけでもなし、人気のあるなしぐらいでクーデターが起きるほどこの国は荒れていない。
もしもクレームをつけられたら丁重に謝罪するなり、イメージアップ戦略に協力するなりするとして――ひとまず今は、目の前の商機をつかむことに専念する。
「……回転焼き屋の出店ですか?」
「せや。寒い冬は温かいモンが売れるし、手軽に食べられる甘いおやつ系は競合が少ないからな」
下町で食べ歩きをしながら仕入れた情報によると、晩秋から春先まで長く厳しい冷え込みが続くエントールでは、軽食やおやつにホットスナックがよく売れるらしい。
しかし、屋台で並んでいるのは、串焼き肉やフライドチキンやプレッツェルっぽい揚げ菓子など、塩味の効いたものがほとんど。そして、安くてボリューミーであればあるほど人気だ。
チュロスやドーナツなどの甘い揚げ菓子もあるが、砂糖そのものの価格が高いので、庶民が買える値段にしようと思うとどうしてもボリュームを減らさざるを得ず、コスパ重視の消費者のニーズに合わないとのことで店の数も少ない。
不作の影響で砂糖も高騰しており、なおのこと割に合わないので、この冬は商売を控える者が増えるだろう。
だが、回転焼きに使うのは砂糖を使わずとも甘く、天災にも強い甘藷。
去年登場した新味のカボチャも平年並みの収穫量で、価格も安定している。
小麦や卵の価格はさすがに値上がりしているが、砂糖ほどではないし、生地を薄くしたり片栗粉を混ぜたりと、努力次第でこれまで通りの定価に収められる範囲である。
なんならわずかに商品を小さくして、実質値上げの形をとってもいい。
だから、新規参入でもリスクは少ない――商工組合に出す書類の必要事項を埋めながらそう語ると、テッドは納得したようにうなずいた。
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**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
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