ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

文字の大きさ
上 下
124 / 217
第六部 ざまぁ編

注目の的②

しおりを挟む
「もしかして、ハイマン嬢のお召し物はシルクではありません?」
「ありえませんよ。金に物を言わせて作った、精巧なフェイク生地では?」
「でも、代用品であの光沢や滑らかさを出すのは極めて困難だと聞きますし……」
「え……まさか本物……?」

 コソコソとしながらも聞こえよがしに飛び交う嫌味やら驚愕やらに、小市民のジゼルは針のむしろに座らされている気分だ。

「なんの罰ゲームやねん、これ……」

 この状態でハーミットと再会したら蜂の巣をつついたような騒ぎになる予感がして、暗澹とした気持ちでため息をついていると。

「ジゼル様!」

 いつもの友人たちが笑顔で手を振る姿を見止め、少しだけほっとしながら両親と別れて合流するが――

「きゃああ……これが本物のシルクのドレス……!」
「艶も手触りも全然違いますわね!」
「最高級品を前にすれば、その場限りの流行など些末な問題ですわ……!」
「ちょ、ま……!」

 あらかじめ彼女たちにはドレスの件を伝えてあったものの、初めて目の当たりにするシルクの衣装に目の色を変えて取り囲まれてしまう。
 どこの世界でも若い子はテンション湯沸かし器で、しばらくもみくちゃにされたが、そのうちにはたと我に返って咳払いをする。

「……失礼しました、ジゼル様」
「ははは、別にええけど……」
「そ、それより、こちらのお召し物は、噂のハーミット様がプレゼントしてくださったものですよね?」
「うん、まあ」

 今夜会うことになっていることまでは言ってないし、ここで漏らせば先ほどの騒ぎなど比ではないくらいの大騒動になりそうなので、不用意な発言はしない。

「悔しいですが、品質もセンスも素晴らしいですわ」
「ジゼル様にとてもお似合いなのも、癪に障りますわ」
「まるでジゼル様のことならなんでもお見通しと言わんばかりで、腹立たしいくらいです」

 ハーミットに敵愾心を燃やす友人たちの負のオーラが怖い。
 なんとも言えず乾いた笑みを浮かべるしかないジゼルは、通りすがりの給仕係から果実水を受け取るついでに、チラチラと周りに視線を走らせる。

 ハーミットのことも気になるが、テッドがここに来ているなら、遠目にでもお見合い相手を見物できないかと思ってのことだ。
 あの食えない男がデレるところが見たい……というよりも、ドン引きされてお断りされる無様なところがぜひ見たい。日頃の留飲を下げるためにも。

 この二人が同一人物だと知らないジゼルは、実にくだらない欲望を抱きながら談笑に興じつつ開幕を待った。

 女子とはおしゃべりな生き物で、つい先日顔を合わせてしゃべり倒したばかりなのに、次から次へと話題が飛び出して話が尽きる間もない。
 ジゼルはいつハーミットがやって来るか、テッドが近くにいないか、アンテナを張り巡らせつつ適当に相槌を打つ程度だったが……どちらも気配すらない。それどころか、いつまで経っても始まる様子がないことに違和感を覚えた。

「なあ、まだ始まらんの?」
「確かに遅いですわね」

 会場に時計はないが、体感的にはとっくに開始時間になっている。なのに、主賓の姿が見えないどころか、遅延の告知すらなされないとは前代未聞だ。

「一体どうされたのでしょう?」
「これまで遅れてお見えになったことなど、ありませんでしたのに……」
「急に体調を崩されたのでなければいいのですが……」

 しばらくは平静を装っていたが、周囲から不穏なざわめきが広がると、思わずといった感じで不安を口にし始める。
しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。