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第六部 ざまぁ編
注目の的②
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「もしかして、ハイマン嬢のお召し物はシルクではありません?」
「ありえませんよ。金に物を言わせて作った、精巧なフェイク生地では?」
「でも、代用品であの光沢や滑らかさを出すのは極めて困難だと聞きますし……」
「え……まさか本物……?」
コソコソとしながらも聞こえよがしに飛び交う嫌味やら驚愕やらに、小市民のジゼルは針のむしろに座らされている気分だ。
「なんの罰ゲームやねん、これ……」
この状態でハーミットと再会したら蜂の巣をつついたような騒ぎになる予感がして、暗澹とした気持ちでため息をついていると。
「ジゼル様!」
いつもの友人たちが笑顔で手を振る姿を見止め、少しだけほっとしながら両親と別れて合流するが――
「きゃああ……これが本物のシルクのドレス……!」
「艶も手触りも全然違いますわね!」
「最高級品を前にすれば、その場限りの流行など些末な問題ですわ……!」
「ちょ、ま……!」
あらかじめ彼女たちにはドレスの件を伝えてあったものの、初めて目の当たりにするシルクの衣装に目の色を変えて取り囲まれてしまう。
どこの世界でも若い子はテンション湯沸かし器で、しばらくもみくちゃにされたが、そのうちにはたと我に返って咳払いをする。
「……失礼しました、ジゼル様」
「ははは、別にええけど……」
「そ、それより、こちらのお召し物は、噂のハーミット様がプレゼントしてくださったものですよね?」
「うん、まあ」
今夜会うことになっていることまでは言ってないし、ここで漏らせば先ほどの騒ぎなど比ではないくらいの大騒動になりそうなので、不用意な発言はしない。
「悔しいですが、品質もセンスも素晴らしいですわ」
「ジゼル様にとてもお似合いなのも、癪に障りますわ」
「まるでジゼル様のことならなんでもお見通しと言わんばかりで、腹立たしいくらいです」
ハーミットに敵愾心を燃やす友人たちの負のオーラが怖い。
なんとも言えず乾いた笑みを浮かべるしかないジゼルは、通りすがりの給仕係から果実水を受け取るついでに、チラチラと周りに視線を走らせる。
ハーミットのことも気になるが、テッドがここに来ているなら、遠目にでもお見合い相手を見物できないかと思ってのことだ。
あの食えない男がデレるところが見たい……というよりも、ドン引きされてお断りされる無様なところがぜひ見たい。日頃の留飲を下げるためにも。
この二人が同一人物だと知らないジゼルは、実にくだらない欲望を抱きながら談笑に興じつつ開幕を待った。
女子とはおしゃべりな生き物で、つい先日顔を合わせてしゃべり倒したばかりなのに、次から次へと話題が飛び出して話が尽きる間もない。
ジゼルはいつハーミットがやって来るか、テッドが近くにいないか、アンテナを張り巡らせつつ適当に相槌を打つ程度だったが……どちらも気配すらない。それどころか、いつまで経っても始まる様子がないことに違和感を覚えた。
「なあ、まだ始まらんの?」
「確かに遅いですわね」
会場に時計はないが、体感的にはとっくに開始時間になっている。なのに、主賓の姿が見えないどころか、遅延の告知すらなされないとは前代未聞だ。
「一体どうされたのでしょう?」
「これまで遅れてお見えになったことなど、ありませんでしたのに……」
「急に体調を崩されたのでなければいいのですが……」
しばらくは平静を装っていたが、周囲から不穏なざわめきが広がると、思わずといった感じで不安を口にし始める。
「ありえませんよ。金に物を言わせて作った、精巧なフェイク生地では?」
「でも、代用品であの光沢や滑らかさを出すのは極めて困難だと聞きますし……」
「え……まさか本物……?」
コソコソとしながらも聞こえよがしに飛び交う嫌味やら驚愕やらに、小市民のジゼルは針のむしろに座らされている気分だ。
「なんの罰ゲームやねん、これ……」
この状態でハーミットと再会したら蜂の巣をつついたような騒ぎになる予感がして、暗澹とした気持ちでため息をついていると。
「ジゼル様!」
いつもの友人たちが笑顔で手を振る姿を見止め、少しだけほっとしながら両親と別れて合流するが――
「きゃああ……これが本物のシルクのドレス……!」
「艶も手触りも全然違いますわね!」
「最高級品を前にすれば、その場限りの流行など些末な問題ですわ……!」
「ちょ、ま……!」
あらかじめ彼女たちにはドレスの件を伝えてあったものの、初めて目の当たりにするシルクの衣装に目の色を変えて取り囲まれてしまう。
どこの世界でも若い子はテンション湯沸かし器で、しばらくもみくちゃにされたが、そのうちにはたと我に返って咳払いをする。
「……失礼しました、ジゼル様」
「ははは、別にええけど……」
「そ、それより、こちらのお召し物は、噂のハーミット様がプレゼントしてくださったものですよね?」
「うん、まあ」
今夜会うことになっていることまでは言ってないし、ここで漏らせば先ほどの騒ぎなど比ではないくらいの大騒動になりそうなので、不用意な発言はしない。
「悔しいですが、品質もセンスも素晴らしいですわ」
「ジゼル様にとてもお似合いなのも、癪に障りますわ」
「まるでジゼル様のことならなんでもお見通しと言わんばかりで、腹立たしいくらいです」
ハーミットに敵愾心を燃やす友人たちの負のオーラが怖い。
なんとも言えず乾いた笑みを浮かべるしかないジゼルは、通りすがりの給仕係から果実水を受け取るついでに、チラチラと周りに視線を走らせる。
ハーミットのことも気になるが、テッドがここに来ているなら、遠目にでもお見合い相手を見物できないかと思ってのことだ。
あの食えない男がデレるところが見たい……というよりも、ドン引きされてお断りされる無様なところがぜひ見たい。日頃の留飲を下げるためにも。
この二人が同一人物だと知らないジゼルは、実にくだらない欲望を抱きながら談笑に興じつつ開幕を待った。
女子とはおしゃべりな生き物で、つい先日顔を合わせてしゃべり倒したばかりなのに、次から次へと話題が飛び出して話が尽きる間もない。
ジゼルはいつハーミットがやって来るか、テッドが近くにいないか、アンテナを張り巡らせつつ適当に相槌を打つ程度だったが……どちらも気配すらない。それどころか、いつまで経っても始まる様子がないことに違和感を覚えた。
「なあ、まだ始まらんの?」
「確かに遅いですわね」
会場に時計はないが、体感的にはとっくに開始時間になっている。なのに、主賓の姿が見えないどころか、遅延の告知すらなされないとは前代未聞だ。
「一体どうされたのでしょう?」
「これまで遅れてお見えになったことなど、ありませんでしたのに……」
「急に体調を崩されたのでなければいいのですが……」
しばらくは平静を装っていたが、周囲から不穏なざわめきが広がると、思わずといった感じで不安を口にし始める。
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