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第六部 ざまぁ編
注目の的①
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数日間散々悩んだ挙句、ハーミットから贈られたシルクのドレスに袖を通すことにした。
彼自身に愛だの恋だの特別な感情があるわけではないが、自分が無視することで彼が不本意な結婚をさせられるのは寝覚めが悪いし、『あなた以外の女性と結ばれるつもりがない』と恥ずかしげもなく断じられて悪い気はしないし……とどのつまり、人の好さに付け込まれてほだされている状態である。
やや流されている感はあるが、色恋に関しては超弩級に疎いジゼルに、ライトノベルの悪役令嬢のような恋愛劇を求めるのは間違っているし、大阪のオバチャンらしくノリと勢いを重視して決める方が、意外とうまくいくような気がする。
……なんて御託を並べつつも、結局婚活するのが面倒臭いだけで、さっさと妥協してしまった方が楽という暴論だったりするが。
そもそも改まって結婚相手を探したとしても、これまで総スカンだったジゼルに運命の出会いなど訪れるわけもない。寄ってくるとすれば、金と権力目当ての中堅貴族出の次男三男だけだし、そんな輩共は親馬鹿な両親にすぐさま弾かれるに違いない。
その反面、ハーミットとは親公認でやり取りしているし、ざっくり手紙の内容を話して家族に相談してみたが「ジゼルの好きなようにしなさい」と助言をもらうだけだったので、よっぽどのことがない限り反対されることもない……ただ、そろって死んだ魚のような目をしていたのは不穏だ。
不人気のブサ猫がいかず後家にならずに済むのだから万々歳のはずだが、ロゼッタのように三つ子の妊娠出産などレアなケースでもない限り、基本女子が嫁げばめったに会うことはできないので、ジゼルが想像するよりも物悲しいものなのかもしれない。
とはいえ、そんな各方面がウインウインで収まる状況を逃す手はない――などと頭の悪い打算を巡らせた結果、グレージュのドレスをまとい王宮へと向かった。
馬車で揺られること約三十分。
渋滞に巻き込まれることもなく目的地までたどり着き、控室で軽く身づくろいを整えると、案内役の侍女の先導で大広間に通される。
会場内にはすでに参加者のほとんどが集まっていて、場は温まっている様子だ。
「あらやだ、それ本当?」
「そうなのよ。あ、これはここだけの話だからね。みんなには内緒よ」
「……そういえば、おたくの領地で新たな宝石の鉱脈が見つかったとか。景気のいい話でうらやましいですなぁ」
「そういうそちらこそ、他所の不作をチャンスに特産の小麦でひと儲けしたそうじゃありませんか。抜け目のなさは尊敬しますよ」
親しい友人同士の楽しいおしゃべりから、白々しい笑顔を張り付けた腹の探り合いまで、様々な話し声が聞こえる紳士淑女の間を父のエスコートで歩く。
すると、それまで各々の談笑に集中していた人々が顔を上げ……いつもなら上級貴族に対する形式的な礼だけ返して元に戻るのだが、今日に限っては一様に視線が釘付けになったまま離れない。
女子的に自慢にならない貫禄と存在感のせいで、そこにいるだけで自動的に周囲の視線を集めがちなジゼルだが、ここまでガン見されることはまずない。こんなに注目されているのは、多分デビューの日以来だ。
(恐るべし、シルクのドレス効果……!)
相応の目利きが見ればすぐに違いが分かるし、特に目が肥えてなくとも、こちらのすぐ傍を歩く母のドレスと比べれば差は一目瞭然だ。
清楚系美魔女の母を踏み台にするようで気が引けるのだが、娘が注目されるのが嬉しいのか、普段の楚々とした笑顔ではなく得意満面なドヤ顔をしているので、深く考えないことにした。
彼自身に愛だの恋だの特別な感情があるわけではないが、自分が無視することで彼が不本意な結婚をさせられるのは寝覚めが悪いし、『あなた以外の女性と結ばれるつもりがない』と恥ずかしげもなく断じられて悪い気はしないし……とどのつまり、人の好さに付け込まれてほだされている状態である。
やや流されている感はあるが、色恋に関しては超弩級に疎いジゼルに、ライトノベルの悪役令嬢のような恋愛劇を求めるのは間違っているし、大阪のオバチャンらしくノリと勢いを重視して決める方が、意外とうまくいくような気がする。
……なんて御託を並べつつも、結局婚活するのが面倒臭いだけで、さっさと妥協してしまった方が楽という暴論だったりするが。
そもそも改まって結婚相手を探したとしても、これまで総スカンだったジゼルに運命の出会いなど訪れるわけもない。寄ってくるとすれば、金と権力目当ての中堅貴族出の次男三男だけだし、そんな輩共は親馬鹿な両親にすぐさま弾かれるに違いない。
その反面、ハーミットとは親公認でやり取りしているし、ざっくり手紙の内容を話して家族に相談してみたが「ジゼルの好きなようにしなさい」と助言をもらうだけだったので、よっぽどのことがない限り反対されることもない……ただ、そろって死んだ魚のような目をしていたのは不穏だ。
不人気のブサ猫がいかず後家にならずに済むのだから万々歳のはずだが、ロゼッタのように三つ子の妊娠出産などレアなケースでもない限り、基本女子が嫁げばめったに会うことはできないので、ジゼルが想像するよりも物悲しいものなのかもしれない。
とはいえ、そんな各方面がウインウインで収まる状況を逃す手はない――などと頭の悪い打算を巡らせた結果、グレージュのドレスをまとい王宮へと向かった。
馬車で揺られること約三十分。
渋滞に巻き込まれることもなく目的地までたどり着き、控室で軽く身づくろいを整えると、案内役の侍女の先導で大広間に通される。
会場内にはすでに参加者のほとんどが集まっていて、場は温まっている様子だ。
「あらやだ、それ本当?」
「そうなのよ。あ、これはここだけの話だからね。みんなには内緒よ」
「……そういえば、おたくの領地で新たな宝石の鉱脈が見つかったとか。景気のいい話でうらやましいですなぁ」
「そういうそちらこそ、他所の不作をチャンスに特産の小麦でひと儲けしたそうじゃありませんか。抜け目のなさは尊敬しますよ」
親しい友人同士の楽しいおしゃべりから、白々しい笑顔を張り付けた腹の探り合いまで、様々な話し声が聞こえる紳士淑女の間を父のエスコートで歩く。
すると、それまで各々の談笑に集中していた人々が顔を上げ……いつもなら上級貴族に対する形式的な礼だけ返して元に戻るのだが、今日に限っては一様に視線が釘付けになったまま離れない。
女子的に自慢にならない貫禄と存在感のせいで、そこにいるだけで自動的に周囲の視線を集めがちなジゼルだが、ここまでガン見されることはまずない。こんなに注目されているのは、多分デビューの日以来だ。
(恐るべし、シルクのドレス効果……!)
相応の目利きが見ればすぐに違いが分かるし、特に目が肥えてなくとも、こちらのすぐ傍を歩く母のドレスと比べれば差は一目瞭然だ。
清楚系美魔女の母を踏み台にするようで気が引けるのだが、娘が注目されるのが嬉しいのか、普段の楚々とした笑顔ではなく得意満面なドヤ顔をしているので、深く考えないことにした。
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