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第六部 ざまぁ編
プレゼントの真意②
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「ドレスに靴にアクセサリー……あとこちらは手袋ですね」
「他にもコサージュやストールまでありますわ」
一番大きな箱に入っていたのは、光沢のある生地でできたグレージュのドレス。
ぱっと見ただけでジゼルに合わせたと分かるサイズで、試着してみたら本当にピッタリだった。
一体どこでこれだけ緻密な寸法を手に入れたのか恐ろしくなったが、箱やリボンにハイマン家御用達の“レビナス・クロース”の焼き印が押されていたので安堵した。
とはいえ、まだかろうじて面識のあるハーミットだから許せるだけで、赤の他人が悪用してプレゼントを押し付けてきたらと思うとぞっとする。
まあ、そんな予定は一切ないので心配するだけ無駄だが。
後ろの編み上げ部分と、スカートのスリットから覗くレースには、彼女のトレードマークのヒョウ柄が仕込まれているが、フリルや宝石などのゴテゴテした装飾はほとんどなく、パニエの量が少ないのかスカートのふくらみもやや控えめ。
おとなしめな色合いもあって、いつもより数段大人っぽい印象だ。
流行のデザインではないのが少し気になるが、使われている素材だけで十分ハンデを覆せるというか、むしろ逆にマウント取れるレベルである。
(このトロットロな手触り……メインの生地は一〇〇%シルクと見た!)
胸中で鑑定士気取りでつぶやくジゼル。
上級貴族といえど、シルクで作ったドレスを着ることはほとんどない。エントールは養蚕業があまり盛んではなく、少ない国産シルクは王室にほぼ買い取られてしまうので、こちらに回ってくるのはほぼ輸入品なのだ。
農作物とは違い関税は低く設定されているものの、生糸の状態で輸入され、織物屋や染物屋などあちこち経由して仕立て屋に卸されるため、最終顧客にたどり着くまでに元値から数倍くらい跳ね上がる。
なので、たいていは絹糸を織り込んで、それっぽく見えるフェイク生地で代用している。
その代用品も綿や毛糸と比べれば十分高価なのだが……一着とはいえオールシルクでドレスを仕立てたらどれだけの額になるのか。
アーメンガートが以前着ていた、真珠とダイヤモンドをふんだんにあしらったデビュタントドレスよりはマシだろうが、いつものドレスの何倍もするのは間違いない。
ドレスに合わせる手袋やストールも、同じグレージュで統一されていることだし、こちらもシルクのはずだ。
お値段だけでなく希少価値という点でも、エントール女性垂涎の的である。
そんな超レア級の布製品と比べ、アクセサリー類はやや安価なガーネットではあるが、宝石を最も美しく見せる精巧なカットや土台の細工の細かさは、一流の職人だけがなせる業だ。
素材はともかく、技術料は半端ではないはずである。
(こんな馬鹿高いモンを、フル装備でポーンッとプレゼントしてくれるハーミットさんって、一体……)
彼の金銭感覚に呆れるやら、そら恐ろしさを感じるやらだが、それ以上に急にこんな高価なものを贈ってきた真意が見えなくて困惑を隠せない。
これまでハーミットからのプレゼントといえば花だったのに、何故今になってドレス一式を贈ってくれたのか。
不作の影響で財政難になっている家もあるようだが、ハイマン家がそうではないのは調べればすぐに分かることだし、仮に今シーズン着ていくものに困っていたとしても、こんな風に財を見せつけるような手法では逆効果な気がする。
頭の隅で悩みつつも、次々と出されていくものをチェックしていると、一人の侍女が細長い封筒を差し出した。
「他にもコサージュやストールまでありますわ」
一番大きな箱に入っていたのは、光沢のある生地でできたグレージュのドレス。
ぱっと見ただけでジゼルに合わせたと分かるサイズで、試着してみたら本当にピッタリだった。
一体どこでこれだけ緻密な寸法を手に入れたのか恐ろしくなったが、箱やリボンにハイマン家御用達の“レビナス・クロース”の焼き印が押されていたので安堵した。
とはいえ、まだかろうじて面識のあるハーミットだから許せるだけで、赤の他人が悪用してプレゼントを押し付けてきたらと思うとぞっとする。
まあ、そんな予定は一切ないので心配するだけ無駄だが。
後ろの編み上げ部分と、スカートのスリットから覗くレースには、彼女のトレードマークのヒョウ柄が仕込まれているが、フリルや宝石などのゴテゴテした装飾はほとんどなく、パニエの量が少ないのかスカートのふくらみもやや控えめ。
おとなしめな色合いもあって、いつもより数段大人っぽい印象だ。
流行のデザインではないのが少し気になるが、使われている素材だけで十分ハンデを覆せるというか、むしろ逆にマウント取れるレベルである。
(このトロットロな手触り……メインの生地は一〇〇%シルクと見た!)
胸中で鑑定士気取りでつぶやくジゼル。
上級貴族といえど、シルクで作ったドレスを着ることはほとんどない。エントールは養蚕業があまり盛んではなく、少ない国産シルクは王室にほぼ買い取られてしまうので、こちらに回ってくるのはほぼ輸入品なのだ。
農作物とは違い関税は低く設定されているものの、生糸の状態で輸入され、織物屋や染物屋などあちこち経由して仕立て屋に卸されるため、最終顧客にたどり着くまでに元値から数倍くらい跳ね上がる。
なので、たいていは絹糸を織り込んで、それっぽく見えるフェイク生地で代用している。
その代用品も綿や毛糸と比べれば十分高価なのだが……一着とはいえオールシルクでドレスを仕立てたらどれだけの額になるのか。
アーメンガートが以前着ていた、真珠とダイヤモンドをふんだんにあしらったデビュタントドレスよりはマシだろうが、いつものドレスの何倍もするのは間違いない。
ドレスに合わせる手袋やストールも、同じグレージュで統一されていることだし、こちらもシルクのはずだ。
お値段だけでなく希少価値という点でも、エントール女性垂涎の的である。
そんな超レア級の布製品と比べ、アクセサリー類はやや安価なガーネットではあるが、宝石を最も美しく見せる精巧なカットや土台の細工の細かさは、一流の職人だけがなせる業だ。
素材はともかく、技術料は半端ではないはずである。
(こんな馬鹿高いモンを、フル装備でポーンッとプレゼントしてくれるハーミットさんって、一体……)
彼の金銭感覚に呆れるやら、そら恐ろしさを感じるやらだが、それ以上に急にこんな高価なものを贈ってきた真意が見えなくて困惑を隠せない。
これまでハーミットからのプレゼントといえば花だったのに、何故今になってドレス一式を贈ってくれたのか。
不作の影響で財政難になっている家もあるようだが、ハイマン家がそうではないのは調べればすぐに分かることだし、仮に今シーズン着ていくものに困っていたとしても、こんな風に財を見せつけるような手法では逆効果な気がする。
頭の隅で悩みつつも、次々と出されていくものをチェックしていると、一人の侍女が細長い封筒を差し出した。
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