119 / 217
第六部 ざまぁ編
従者の帰省
しおりを挟む 宿舎の女将さんにあいさつを済ませてバスに乗り込む。席は前から三列目。大体いつも女子が前で男子たちは後ろの方の席に座る。なんで男子って後ろの方に座りたがるのかしら。
「愛、チョコいる?」
隣に座っている優里がバッグの中をゴソゴソと物色している。お目当てのものが中々見つけられなくて、「あれぇ、入ってるはずなんだけどなぁ」としょんぼりした顔を見せる。
「あっ、あった!」
遂に見つけた優里は嬉しそうに満面の笑みを私に向ける。ホント優里ってかわいいな。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
んー、甘くておいしい。……合宿、疲れたなぁ。
バスが発車しても後ろの男子たちはワイワイ騒いでいたけど、数分後には静かになった。きっと寝たのだろう。優里もいつの間にか私に頭を預けて気持ちよさそうにしている。数分前には想像もつかないくらい車内はしんと静まり返っていて、何人かのスース―といった寝息が微かに聞こえるだけだ。私は運転席の大きな窓から見える日の暮れた街の景色とボーっと眺めていた。
まさか桜庭くんの方から言ってきてくれるなんて思わなかったな。後ろを見ると通路側の肘掛けに頬杖をついて眠っている。数秒間眺めた後、ふと我に返って再び前方に視線を戻す。
花火の時、久保となにやら話していたみたいだったけど、きっと久保がなにか言ってけしかけたに違いない。ホント久保ったら、いらない気が回るっていうかなんていうか。でも今回は感謝しているわ。
私は桜庭くんのことが好き……は好きだけど、同時に尊敬している。勉強面は置いといて、テニスに関してはホントに脱帽。つい最近始めたと思ったらグングン上手くなっていって、いつの間にか私よりも全然上手くなっていて、もう団体戦のメンバーにだって選ばれている。桜庭くんってスポーツ万能だから、初めは運動神経がいいからだって、私とは違うんだって妬んだりもした。でも毎日毎日真剣に練習に取り組んでいる彼の姿を見ていたら、桜庭くんを妬んでいた自分が悔しく思えてきた。彼があんなに上手くなっているのは日々のたゆまぬ努力と、その真摯な姿勢があったからなんだと思い知らされた。それからは私自身もがんばらなきゃなって思った。
だから彼がどこまで行けるのか、彼の挑戦を見守っていたいと思ったし、彼のことは待っていることに決めた。私の元に来てくれるのは彼が満足してからでも構わない。その代わり、桜庭くんの行く末はちゃんと最後まで見届けさせてもらうわね。
私って実はすごく恥ずかしがり屋で、だから人と話す時はそれを隠すようについ上から目線になっちゃって。そのせいでよく性格悪い女だって思われたり、チームメイトとも衝突しちゃうんだろうな。いつももっと素直に話せていれば……。もっと言い方に気をつけないと。優里と久保はつき合い長いから分かってくれているんだけど。でも桜庭くんといる時はなんだか私も素でいられる気がする。それで彼の情熱に感化されてやる気になったりなんかもして……あー、なんだか熱くなってきた。
だから、これからもずっと桜庭くんの隣にいれたらいいな、なんてね。
「愛、チョコいる?」
隣に座っている優里がバッグの中をゴソゴソと物色している。お目当てのものが中々見つけられなくて、「あれぇ、入ってるはずなんだけどなぁ」としょんぼりした顔を見せる。
「あっ、あった!」
遂に見つけた優里は嬉しそうに満面の笑みを私に向ける。ホント優里ってかわいいな。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
んー、甘くておいしい。……合宿、疲れたなぁ。
バスが発車しても後ろの男子たちはワイワイ騒いでいたけど、数分後には静かになった。きっと寝たのだろう。優里もいつの間にか私に頭を預けて気持ちよさそうにしている。数分前には想像もつかないくらい車内はしんと静まり返っていて、何人かのスース―といった寝息が微かに聞こえるだけだ。私は運転席の大きな窓から見える日の暮れた街の景色とボーっと眺めていた。
まさか桜庭くんの方から言ってきてくれるなんて思わなかったな。後ろを見ると通路側の肘掛けに頬杖をついて眠っている。数秒間眺めた後、ふと我に返って再び前方に視線を戻す。
花火の時、久保となにやら話していたみたいだったけど、きっと久保がなにか言ってけしかけたに違いない。ホント久保ったら、いらない気が回るっていうかなんていうか。でも今回は感謝しているわ。
私は桜庭くんのことが好き……は好きだけど、同時に尊敬している。勉強面は置いといて、テニスに関してはホントに脱帽。つい最近始めたと思ったらグングン上手くなっていって、いつの間にか私よりも全然上手くなっていて、もう団体戦のメンバーにだって選ばれている。桜庭くんってスポーツ万能だから、初めは運動神経がいいからだって、私とは違うんだって妬んだりもした。でも毎日毎日真剣に練習に取り組んでいる彼の姿を見ていたら、桜庭くんを妬んでいた自分が悔しく思えてきた。彼があんなに上手くなっているのは日々のたゆまぬ努力と、その真摯な姿勢があったからなんだと思い知らされた。それからは私自身もがんばらなきゃなって思った。
だから彼がどこまで行けるのか、彼の挑戦を見守っていたいと思ったし、彼のことは待っていることに決めた。私の元に来てくれるのは彼が満足してからでも構わない。その代わり、桜庭くんの行く末はちゃんと最後まで見届けさせてもらうわね。
私って実はすごく恥ずかしがり屋で、だから人と話す時はそれを隠すようについ上から目線になっちゃって。そのせいでよく性格悪い女だって思われたり、チームメイトとも衝突しちゃうんだろうな。いつももっと素直に話せていれば……。もっと言い方に気をつけないと。優里と久保はつき合い長いから分かってくれているんだけど。でも桜庭くんといる時はなんだか私も素でいられる気がする。それで彼の情熱に感化されてやる気になったりなんかもして……あー、なんだか熱くなってきた。
だから、これからもずっと桜庭くんの隣にいれたらいいな、なんてね。
1
お気に入りに追加
2,281
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。