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第六部 ざまぁ編
女子トークに花を咲かせて③
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「お相手探しといえば……ジゼル様はどうなのです?」
「どうって――ひっ」
急に話を振られて小首をかしげる先には、ギラついた目を向けるミラとジェーンがいた。
この二人結婚して久しく、とっくに母親になっているというのに、未だ恋バナと聞けば目の色を変える年頃の少女のままだ。精神的に若々しいのは結構だが、ちょっとは落ち着いてほしい。
そんな猪突猛進コンビにロックオンされ、やばいと背筋に悪寒が走るが時すでに遅し。彼女たちを止める術もなければ隙もない。
いつぞやシエラが尋問されていた時のように両脇をガッチリと固められ、恍惚とした表情でマシンガントークが炸裂する。
「まあ、おとぼけにならないでくださいませ! アディス家の仮面舞踏会でお知り合いになられた、ハーミット様とかいう方ですよ!」
「夫人が止めるのも聞かずしつこく言い寄ってくる金満デブ男から、ジゼル様をお救いするためお姫様抱っこで華麗に攫ったとお聞きしましたわ!」
「ん、んん⁉」
「まさに理想の王子様って感じですわね! 素性が分からないというのも、またミステリアスで……きゃっ」
「私たちが既婚でなければその場にはせ参じ、ぜひこの目で確認したかったです……」
「ちょちょちょ、ちょい待ち! 話が明後日の方向に行っとるんやけど⁉」
ところどころ事実があるものの、伝言ゲームの罠なのか過剰な恋愛フィルターのせいなのか、随分と捻じ曲げられているではないか。
まるで演劇の一幕のようだが、実際にはそんな甘ったるい展開ではなかった。
お見合いを仕組んだのはアディス夫人だし、紹介されたデブ男は犯罪級のロリコンでジゼルに微塵も興味がなかったし、お姫様抱っこは……十中八九緊急回避だったと思う。多分。
暴走しがちな恋バナオタクたちを席に落ち着かせて、こんこんと言って聞かせるように訂正すると、二人は「なーんだ」とでも言いたげな顔をして一旦は矛先を収めた……かに見えたが、追及の手を緩めるつもりはないらしい。
「なるほど。我々の認識に少々誤解があったようですが、素敵な出会いがあったのは確かですわね」
「熱烈なアプローチをされていると小耳に挟みましたが、具体的にはどのような?」
「いや、そんな大層なことはないと思うけどな。時々花をもらうくらいで……まあ、初っ端に千本近いバラは送られてきたっけ」
「千本……」
二人はあっけにとられたようにつぶやき、なにやら思案顔になったので、さすがにドン引きしてこれ以上突っ込んでこないかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「ジゼル様、九九九本のバラの花束の意味をご存じですか?」
「なんかプロポーズ的なことやったっけ?」
「当たらずとも遠からずですけど――『何度生まれ変わってもあなたを愛する』、ですわ」
「いやーん、情熱的で素敵じゃありませんか!」
「うちの旦那にも見習ってほしいものですわ!」
「うへぇ……」
頬を赤らめながらキャッキャと騒ぐ友人とは裏腹に、ジゼルは想像以上の重さにげんなりした表情になり、東屋のテーブルに突っ伏した。
あの時のハーミットの様子からして、ミリアルドのように病んでいる風ではなかったが、さりとてそこまで一途に想ってくれている雰囲気もなかったと思う。
恋愛音痴なせいで読み取れなかっただけだろうか。
……彼の本心はともかく、そんな執着的意味合いのプレゼントをジャムにして大丈夫だったのか。
テーブルに置かれた紅色の瓶を眺めながら、今更ながら不安になるジゼルだった。
「どうって――ひっ」
急に話を振られて小首をかしげる先には、ギラついた目を向けるミラとジェーンがいた。
この二人結婚して久しく、とっくに母親になっているというのに、未だ恋バナと聞けば目の色を変える年頃の少女のままだ。精神的に若々しいのは結構だが、ちょっとは落ち着いてほしい。
そんな猪突猛進コンビにロックオンされ、やばいと背筋に悪寒が走るが時すでに遅し。彼女たちを止める術もなければ隙もない。
いつぞやシエラが尋問されていた時のように両脇をガッチリと固められ、恍惚とした表情でマシンガントークが炸裂する。
「まあ、おとぼけにならないでくださいませ! アディス家の仮面舞踏会でお知り合いになられた、ハーミット様とかいう方ですよ!」
「夫人が止めるのも聞かずしつこく言い寄ってくる金満デブ男から、ジゼル様をお救いするためお姫様抱っこで華麗に攫ったとお聞きしましたわ!」
「ん、んん⁉」
「まさに理想の王子様って感じですわね! 素性が分からないというのも、またミステリアスで……きゃっ」
「私たちが既婚でなければその場にはせ参じ、ぜひこの目で確認したかったです……」
「ちょちょちょ、ちょい待ち! 話が明後日の方向に行っとるんやけど⁉」
ところどころ事実があるものの、伝言ゲームの罠なのか過剰な恋愛フィルターのせいなのか、随分と捻じ曲げられているではないか。
まるで演劇の一幕のようだが、実際にはそんな甘ったるい展開ではなかった。
お見合いを仕組んだのはアディス夫人だし、紹介されたデブ男は犯罪級のロリコンでジゼルに微塵も興味がなかったし、お姫様抱っこは……十中八九緊急回避だったと思う。多分。
暴走しがちな恋バナオタクたちを席に落ち着かせて、こんこんと言って聞かせるように訂正すると、二人は「なーんだ」とでも言いたげな顔をして一旦は矛先を収めた……かに見えたが、追及の手を緩めるつもりはないらしい。
「なるほど。我々の認識に少々誤解があったようですが、素敵な出会いがあったのは確かですわね」
「熱烈なアプローチをされていると小耳に挟みましたが、具体的にはどのような?」
「いや、そんな大層なことはないと思うけどな。時々花をもらうくらいで……まあ、初っ端に千本近いバラは送られてきたっけ」
「千本……」
二人はあっけにとられたようにつぶやき、なにやら思案顔になったので、さすがにドン引きしてこれ以上突っ込んでこないかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
「ジゼル様、九九九本のバラの花束の意味をご存じですか?」
「なんかプロポーズ的なことやったっけ?」
「当たらずとも遠からずですけど――『何度生まれ変わってもあなたを愛する』、ですわ」
「いやーん、情熱的で素敵じゃありませんか!」
「うちの旦那にも見習ってほしいものですわ!」
「うへぇ……」
頬を赤らめながらキャッキャと騒ぐ友人とは裏腹に、ジゼルは想像以上の重さにげんなりした表情になり、東屋のテーブルに突っ伏した。
あの時のハーミットの様子からして、ミリアルドのように病んでいる風ではなかったが、さりとてそこまで一途に想ってくれている雰囲気もなかったと思う。
恋愛音痴なせいで読み取れなかっただけだろうか。
……彼の本心はともかく、そんな執着的意味合いのプレゼントをジャムにして大丈夫だったのか。
テーブルに置かれた紅色の瓶を眺めながら、今更ながら不安になるジゼルだった。
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