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第四部 思春期編
皇子様はボリウッドスター?
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商人たちに聞いたガンドールの情報は、宰相を通じてすべて外務大臣へ提供した。
大臣からは大変感謝され、酪農が盛んなマグノリア公爵領のバターやチーズを、お礼にもらってしまった。無論ただの乳製品ではなく、王室にもたびたび献上される最高級品だ。
ハイマン家がいかにお金持ちといっても、なかなか手に入らない貴重な代物なので、たかが情報収集をしただけの報酬としてもらうのは申し訳ないのだが、下手に貸し借りを作る方が面倒だと割り切って受け取った。
そんな裏事情はさておき……時は流れて、春の舞踏会当日。
朝から風呂だのエステだので全身もみくちゃにされ、ぐったりする間もなくドレスアップに駆り出される。
今日の戦闘服は、流行りのオフショルダーのケープがついた、薄緑色のドレスだ。ところどころにヒョウ柄のレースをあしらっているが、よく見ないと分からないレベルで、遠目にはシンプルなデサインである。
なにしろ、今日はアーメンガートに花を持たせる日だ。
友好アピールのために、アーメンガートとバーバラに最高級のユキヒョウの毛皮の羽織り物を着せる手はずになっており、いつものように「ヒョウ柄の元祖はウチやで!」とばかりにババンッとキメるわけにはいかない。
身内を含めてヒョウ柄を普段から身に着けている女性たちにも、出来るだけ使用を控えるように通達しているから、さぞ目立つことだろう。
主役を引き立てるよう入念に準備を整え、二台の馬車に分かれて会場へ向かう。
(ふわぁ……眠っ)
小さな車窓からゆっくりと暮れていく空を眺めつつ、欠伸をかみ殺す。
支度疲れと馬車の揺れがいい具合に眠気を誘い、気を抜くと寝てしまいそうになるが、覚醒を促すべく異国の皇子様についての情報を整理することにした。
ゼベル・ダグマ・ガンドール――本名はもっと長いらしいが、公式で使われている名称だからそれで問題ないだろう。
年齢は三十六歳。皇子というとどうしても若者を想像してしまうが、皇帝の子ならいくつでも皇子である。皇族は複数妻を娶ることができるらしく、現在三人の奥方がおり、六男四女の父親だという。
ジゼルの常識に当てはめるとかなりの子だくさんだが、三人の女性の腹から生まれたのだと思えば「さもありあん」という人数ではある。
そんな彼は幼少の頃から語学の才能に秀でており、成人してからは外交官として友好国と国元をせわしなく往復して、皇族としての勤めを果たしているそうだ。
ただ、その日によって気分がコロコロ変わる悪癖があるようで、たびたび部下を困らせるらしい。
とはいえ、職務には忠実だし、身分を傘に着るような真似もしないし、酒癖も女癖も悪くはないとのことだから、迎え入れる側としてはそれほど問題児ではない。むしろ、やり手の外交官として有名なくらいだ。
それなのに何故、先触れもなくこの国を訪問したのかといえば……やはり慈愛の女神と噂される公爵令嬢に興味を引かれたからのようだ。それとなくアリッサ侯爵に探りを入れると、すぐに肯定の返事が来た。
ミリアルドの機嫌が損なわれることを恐れ、王宮にはその旨を伝えていないようだが、ゼベルの口から洩れる可能性は十二分にある。不安はぬぐえない。
だがまあ、仮にもやり手と称されるアラフォー男が、他国の内情を引っ掻き回すような真似はしないだろう。その場の空気を瞬時の読み、立てるべき人間を選んでくれることを切に願う。
その他にも細々とした情報はあるが、こちらが注意すべきことはない。
ゼベルとは社交的な挨拶をしてさよならすることだけを考え、あとはたらふくご馳走を食べて帰る。今日の目標はそれに尽きる。
あれこれ思考を巡らせている間に王宮前に到着し、控室で軽く衣装を整えてから会場である大広間に通された。
すでに会場には大勢の紳士淑女が集い、静かでゆったりとした旋律をBGMに談笑している。ざっと見回すが、ガンドール人らしき客はいない。おそらく特別な来賓だから王族と入場するのだろう。
デビューから一年経って貴族らしい付き合い方にも慣れ、顔見知りと挨拶しながら友人と合流してプチ女子会をエンジョイしつつ、遠巻きにくだらない陰口を叩くアーメンガート派閥の面々を華麗にスルーする。
その内容は最初の頃はジゼルを小馬鹿にするものが多かったが、近頃は傾向が変わってきた。
ロクに接点もないのにアーメンガートに暴言暴力を振るっているだとか、「王太子妃に相応しいのは自分だ」とそこら中に言いふらしているだとか、根も葉もない流言飛語が横行していている。
しかし、その手の話を流している主な下手人が下級貴族なだけに、社交界では大した影響力はない。
親衛隊の面々がこっそり対処している部分もあるが、ここを牛耳る上級貴族はルクウォーツ侯爵家以外、ジゼルの味方あるいは反アーメンガート派だからだ。
そもそも、ミリアルドが婚約者に濡れ落ち葉のようにベッタリくっついているのだから、嫌がらせの一つもできないことくらい誰だって分かる。
「放置しておいてよろしいんですの、ジゼル様?」
「たまにはしっかり言い返した方が……」
「ええやん、別に。ほっとき、ほっとき」
憤懣やるかたない気持ちを吐露する友人たちに「あのような小者は歯牙にかける必要はない」とばかりに手を振る。
低俗な輩に関わりたくないというのもあるが、実際にジゼルはその気になれば下級貴族を締め上げることなど簡単だ。
実家の権力を使わずとも、商人としてのコネを使えば、主な商会との取引を中止させることもできるし、王都中に事実無根の悪評を流すだとか、偽の借用書を作らせて財政的に破滅させるとか、方法はいくらでもある。
……もちろん、そんな悪逆非道な真似は神に誓ってやらないし、これを提案してきたのはテッドなので、彼が一番悪魔的思考の持ち主である。
(ちょこっと愚痴っただけやのに、ものごっついええ笑顔で言うてくるんやもんな…末恐ろしい従者やで)
いざという時の切り札がある安心感が得られたものの、あんなとんでもない輩が傍仕えってどうなんだろう……と思わず遠い目になっているうちに、王族と共に数人のガンドール人らしい男たちが姿を現した。
公式な訪問ではないということで、大々的に紹介されることはなかったが、遠い異国の皇子が春の舞踏会に出席するという話はすでに社交界に広がっており、温かな拍手と共に迎え入れられる。
公的な場だからか、商人たちが着ていたゆったりとした民族衣装ではなく、こちらの盛装に近い衣装を着ており、中でも白地に金糸の縁取りがある一際仕立てのいい詰襟を着ているのが、第六皇子のゼベルだろう。
ガンドールの男性の魅力バロメーターは髭らしいく、若い頃からせっせと伸ばし整えるのが習慣になっているらしい。それに則り部下はこぞってフサフサと伸ばしているが、ゼベルだけはきれいに剃っている。
そのせいかアラフォーという年の割には若く見え、エキゾチックなくっきりとした目鼻立ちと相まって、会場の女性たちの熱視線がザクザク刺さっている。
ジゼルはそのあたりの感度が激しく鈍いので、「ボリウッド男優ってあんな感じなんかなぁ」という感想しか頭にない。
「あのお方がゼベル様……素敵ね……」
「一曲踊って下さるだけでも、いい思い出になりそう……」
「馬鹿ねぇ、私たちのような下々にお声をかけて下さるほど、皇子殿下はお暇ではありませんよ――うう、自分で言ってて虚しいですけど」
「ですわねぇ……」
ポヤーンと頬を染めていたたかと思えば、現実を突きつけられてズーンと沈み込む――そんなせわしなく表情を変える女性陣含め、皆一様に興味津々といった様子で異国人の一団を眺めていた。
初め外務大臣を交え国王夫妻が相手をしていたが、次第にミリアルドとアーメンガートが会話を引き継ぐ。
急場しのぎで覚えたにしては流暢なガンドール語の挨拶で、客人を驚かせ笑顔を引き出している。
特にアーメンガートが率先して会話を盛り上げ、単に王太子に守られるだけのお姫様ではないと、この国を背負うに値する女性であるとアピールしていた。
ある程度はジゼルから得た情報からの仕込みだろうが、努力なくしてこの結果はありえなかっただろう。
婚約者に選ばれた経緯がアレだっただけに心配していたが、男を転がすだけでなくちゃんと国政にも携われることが分かってほっとした。
(ラノベの転生ヒロインって脳みそチャランポランな子が多いけど、アーメンガートは違っててよかったわ。ていうか、何かと他力本願なウチが言えた義理でもないし、逆に見習わなアカンところやな……)
自戒を込めてヒロインに対する認識を改める。
少し見ない間にまた一段と大人びた美貌に磨きをかけたアーメンガートは、大胆に上半身を露出させるベアトップのドレスの上から、フカフカとしたユキヒョウの毛皮でできたストールをまとい、ハリウッド女優のような輝きを放っている。
横に立つミリアルドも以前よりイケメン振りが増しているが、毛色の違うエキゾチックイケメンが傍にいるせいか、やや霞んで見える。
(憐れ、メインヒーロー……)
心の中でこっそり合掌しつつ、非公式な国際会談を横目に飲み物のお代わりを頼んでいると、トーマがこちらにやってきた。
「こんばんは、ジゼル嬢」
「どうも、こんばんは――あれ、アンはどうしはったんです?」
「父がどうしても会わせたい令息がいるとかで、嫌々引っ張られていきました……」
強制お見合いか……アンも可哀想に。
しかし、コーカス氏もお世辞にも若いとはいえず、母親も加減がよくないとのことで、両親が存命の間に結婚することはアンのためでもある。
二人に何かあれば義兄であるトーマが後見人になるだろうが、生まれた頃からの付き合いの彼はともかく、妻となる人が彼女の存在をどう扱うか分かったものではない。
子供のように無垢なアンを受け入れてくれるだけでなく、養子の身で爵位を継いだトーマの地位を脅かさないという条件を満たすとなれば、かなり数が絞られるから、きっとコーカス氏も難儀したことだろう。
娘に甘いコーカス氏が無理矢理引っ張っていくところを見ると、きっと相当な掘り出し物だと思われる。
アンにとって吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが……前回のようにヒキガエルさんでないことを祈るばかりだ。
大臣からは大変感謝され、酪農が盛んなマグノリア公爵領のバターやチーズを、お礼にもらってしまった。無論ただの乳製品ではなく、王室にもたびたび献上される最高級品だ。
ハイマン家がいかにお金持ちといっても、なかなか手に入らない貴重な代物なので、たかが情報収集をしただけの報酬としてもらうのは申し訳ないのだが、下手に貸し借りを作る方が面倒だと割り切って受け取った。
そんな裏事情はさておき……時は流れて、春の舞踏会当日。
朝から風呂だのエステだので全身もみくちゃにされ、ぐったりする間もなくドレスアップに駆り出される。
今日の戦闘服は、流行りのオフショルダーのケープがついた、薄緑色のドレスだ。ところどころにヒョウ柄のレースをあしらっているが、よく見ないと分からないレベルで、遠目にはシンプルなデサインである。
なにしろ、今日はアーメンガートに花を持たせる日だ。
友好アピールのために、アーメンガートとバーバラに最高級のユキヒョウの毛皮の羽織り物を着せる手はずになっており、いつものように「ヒョウ柄の元祖はウチやで!」とばかりにババンッとキメるわけにはいかない。
身内を含めてヒョウ柄を普段から身に着けている女性たちにも、出来るだけ使用を控えるように通達しているから、さぞ目立つことだろう。
主役を引き立てるよう入念に準備を整え、二台の馬車に分かれて会場へ向かう。
(ふわぁ……眠っ)
小さな車窓からゆっくりと暮れていく空を眺めつつ、欠伸をかみ殺す。
支度疲れと馬車の揺れがいい具合に眠気を誘い、気を抜くと寝てしまいそうになるが、覚醒を促すべく異国の皇子様についての情報を整理することにした。
ゼベル・ダグマ・ガンドール――本名はもっと長いらしいが、公式で使われている名称だからそれで問題ないだろう。
年齢は三十六歳。皇子というとどうしても若者を想像してしまうが、皇帝の子ならいくつでも皇子である。皇族は複数妻を娶ることができるらしく、現在三人の奥方がおり、六男四女の父親だという。
ジゼルの常識に当てはめるとかなりの子だくさんだが、三人の女性の腹から生まれたのだと思えば「さもありあん」という人数ではある。
そんな彼は幼少の頃から語学の才能に秀でており、成人してからは外交官として友好国と国元をせわしなく往復して、皇族としての勤めを果たしているそうだ。
ただ、その日によって気分がコロコロ変わる悪癖があるようで、たびたび部下を困らせるらしい。
とはいえ、職務には忠実だし、身分を傘に着るような真似もしないし、酒癖も女癖も悪くはないとのことだから、迎え入れる側としてはそれほど問題児ではない。むしろ、やり手の外交官として有名なくらいだ。
それなのに何故、先触れもなくこの国を訪問したのかといえば……やはり慈愛の女神と噂される公爵令嬢に興味を引かれたからのようだ。それとなくアリッサ侯爵に探りを入れると、すぐに肯定の返事が来た。
ミリアルドの機嫌が損なわれることを恐れ、王宮にはその旨を伝えていないようだが、ゼベルの口から洩れる可能性は十二分にある。不安はぬぐえない。
だがまあ、仮にもやり手と称されるアラフォー男が、他国の内情を引っ掻き回すような真似はしないだろう。その場の空気を瞬時の読み、立てるべき人間を選んでくれることを切に願う。
その他にも細々とした情報はあるが、こちらが注意すべきことはない。
ゼベルとは社交的な挨拶をしてさよならすることだけを考え、あとはたらふくご馳走を食べて帰る。今日の目標はそれに尽きる。
あれこれ思考を巡らせている間に王宮前に到着し、控室で軽く衣装を整えてから会場である大広間に通された。
すでに会場には大勢の紳士淑女が集い、静かでゆったりとした旋律をBGMに談笑している。ざっと見回すが、ガンドール人らしき客はいない。おそらく特別な来賓だから王族と入場するのだろう。
デビューから一年経って貴族らしい付き合い方にも慣れ、顔見知りと挨拶しながら友人と合流してプチ女子会をエンジョイしつつ、遠巻きにくだらない陰口を叩くアーメンガート派閥の面々を華麗にスルーする。
その内容は最初の頃はジゼルを小馬鹿にするものが多かったが、近頃は傾向が変わってきた。
ロクに接点もないのにアーメンガートに暴言暴力を振るっているだとか、「王太子妃に相応しいのは自分だ」とそこら中に言いふらしているだとか、根も葉もない流言飛語が横行していている。
しかし、その手の話を流している主な下手人が下級貴族なだけに、社交界では大した影響力はない。
親衛隊の面々がこっそり対処している部分もあるが、ここを牛耳る上級貴族はルクウォーツ侯爵家以外、ジゼルの味方あるいは反アーメンガート派だからだ。
そもそも、ミリアルドが婚約者に濡れ落ち葉のようにベッタリくっついているのだから、嫌がらせの一つもできないことくらい誰だって分かる。
「放置しておいてよろしいんですの、ジゼル様?」
「たまにはしっかり言い返した方が……」
「ええやん、別に。ほっとき、ほっとき」
憤懣やるかたない気持ちを吐露する友人たちに「あのような小者は歯牙にかける必要はない」とばかりに手を振る。
低俗な輩に関わりたくないというのもあるが、実際にジゼルはその気になれば下級貴族を締め上げることなど簡単だ。
実家の権力を使わずとも、商人としてのコネを使えば、主な商会との取引を中止させることもできるし、王都中に事実無根の悪評を流すだとか、偽の借用書を作らせて財政的に破滅させるとか、方法はいくらでもある。
……もちろん、そんな悪逆非道な真似は神に誓ってやらないし、これを提案してきたのはテッドなので、彼が一番悪魔的思考の持ち主である。
(ちょこっと愚痴っただけやのに、ものごっついええ笑顔で言うてくるんやもんな…末恐ろしい従者やで)
いざという時の切り札がある安心感が得られたものの、あんなとんでもない輩が傍仕えってどうなんだろう……と思わず遠い目になっているうちに、王族と共に数人のガンドール人らしい男たちが姿を現した。
公式な訪問ではないということで、大々的に紹介されることはなかったが、遠い異国の皇子が春の舞踏会に出席するという話はすでに社交界に広がっており、温かな拍手と共に迎え入れられる。
公的な場だからか、商人たちが着ていたゆったりとした民族衣装ではなく、こちらの盛装に近い衣装を着ており、中でも白地に金糸の縁取りがある一際仕立てのいい詰襟を着ているのが、第六皇子のゼベルだろう。
ガンドールの男性の魅力バロメーターは髭らしいく、若い頃からせっせと伸ばし整えるのが習慣になっているらしい。それに則り部下はこぞってフサフサと伸ばしているが、ゼベルだけはきれいに剃っている。
そのせいかアラフォーという年の割には若く見え、エキゾチックなくっきりとした目鼻立ちと相まって、会場の女性たちの熱視線がザクザク刺さっている。
ジゼルはそのあたりの感度が激しく鈍いので、「ボリウッド男優ってあんな感じなんかなぁ」という感想しか頭にない。
「あのお方がゼベル様……素敵ね……」
「一曲踊って下さるだけでも、いい思い出になりそう……」
「馬鹿ねぇ、私たちのような下々にお声をかけて下さるほど、皇子殿下はお暇ではありませんよ――うう、自分で言ってて虚しいですけど」
「ですわねぇ……」
ポヤーンと頬を染めていたたかと思えば、現実を突きつけられてズーンと沈み込む――そんなせわしなく表情を変える女性陣含め、皆一様に興味津々といった様子で異国人の一団を眺めていた。
初め外務大臣を交え国王夫妻が相手をしていたが、次第にミリアルドとアーメンガートが会話を引き継ぐ。
急場しのぎで覚えたにしては流暢なガンドール語の挨拶で、客人を驚かせ笑顔を引き出している。
特にアーメンガートが率先して会話を盛り上げ、単に王太子に守られるだけのお姫様ではないと、この国を背負うに値する女性であるとアピールしていた。
ある程度はジゼルから得た情報からの仕込みだろうが、努力なくしてこの結果はありえなかっただろう。
婚約者に選ばれた経緯がアレだっただけに心配していたが、男を転がすだけでなくちゃんと国政にも携われることが分かってほっとした。
(ラノベの転生ヒロインって脳みそチャランポランな子が多いけど、アーメンガートは違っててよかったわ。ていうか、何かと他力本願なウチが言えた義理でもないし、逆に見習わなアカンところやな……)
自戒を込めてヒロインに対する認識を改める。
少し見ない間にまた一段と大人びた美貌に磨きをかけたアーメンガートは、大胆に上半身を露出させるベアトップのドレスの上から、フカフカとしたユキヒョウの毛皮でできたストールをまとい、ハリウッド女優のような輝きを放っている。
横に立つミリアルドも以前よりイケメン振りが増しているが、毛色の違うエキゾチックイケメンが傍にいるせいか、やや霞んで見える。
(憐れ、メインヒーロー……)
心の中でこっそり合掌しつつ、非公式な国際会談を横目に飲み物のお代わりを頼んでいると、トーマがこちらにやってきた。
「こんばんは、ジゼル嬢」
「どうも、こんばんは――あれ、アンはどうしはったんです?」
「父がどうしても会わせたい令息がいるとかで、嫌々引っ張られていきました……」
強制お見合いか……アンも可哀想に。
しかし、コーカス氏もお世辞にも若いとはいえず、母親も加減がよくないとのことで、両親が存命の間に結婚することはアンのためでもある。
二人に何かあれば義兄であるトーマが後見人になるだろうが、生まれた頃からの付き合いの彼はともかく、妻となる人が彼女の存在をどう扱うか分かったものではない。
子供のように無垢なアンを受け入れてくれるだけでなく、養子の身で爵位を継いだトーマの地位を脅かさないという条件を満たすとなれば、かなり数が絞られるから、きっとコーカス氏も難儀したことだろう。
娘に甘いコーカス氏が無理矢理引っ張っていくところを見ると、きっと相当な掘り出し物だと思われる。
アンにとって吉と出るか凶と出るかはまだ分からないが……前回のようにヒキガエルさんでないことを祈るばかりだ。
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