【完結】聖女様にいじめられていたら、大大大推しと急接近したんですが~ていうか私”も”聖女ってどういう意味?~

神無月りく

文字の大きさ
26 / 40

第五章――②

しおりを挟む
 やばい。逆ギレして正気を失ってるんじゃないか、これ。

 勝負どころの話じゃなくなってきた。
 どうやって話の落としどころをつければいいのか。というか、みんなにどう言い訳すればいいのか。
 ああもう、面倒なことになった!

「アリサ、落ち着い――とわわっ」

 急に足元が振動を始め、私はたたらを踏んだ。
 まさかアリサの地団駄でのせいじゃ……なんていう失礼な冗談はともかく、揺れているのは床じゃなかった。
 屋敷全体が小刻みに震えている。地震かと思いきや杖を介して禍々しい魔力が充満しつつあるのを感じる。
 それに魔物や残りの四天王の襲撃を警戒したが、その発生源がアリサだと気づき全員が驚愕した。

 魔王たちが使う魔法も聖女や騎士たちが使う魔法も、結局は同じ魔力から生み出される術だ。
 だが、その質は使用者によって異なる。ざっくりと言えば、聖女側は聖属性で、魔王側は魔属性と言えば分かりやすいだろうか。

『魔』がやたらと被ってややこしいが、とにかくアリサが今まき散らしているのは、魔王側の魔力だということだ。聖女ならありえない話である。

「……まずは一般人の避難と、この魔力を中和するべきだな。ハリ、任せた」

 騎士と共に使用人たちの誘導に走ったユマに促され、対となる清浄な魔力を周囲に拡散する。
 ほどなくして建物の振動は収まったが、アリサからは依然として魔力は放出され続け、一人で勝手に叫び続けていた。

「どういうことよ! 話が違うじゃない! 私は特別だって、選ばれた者なんだって、二度と惨めな思いをしなくていいって言ったのに! どうして……ここでも私はこんなに……!」
「いい加減、ゲームと現実をごっちゃにするのはやめたら? なんでも思い通りになる世界なんかないの。ヒロインだからって、無条件で愛されると思ったら大間違いよ!」
「ああもう、うるさい! あんたなんか消えちゃえ!」

 癇癪を起した子供かよ!
 カチンときた私はアリサを一旦黙らせるべく拘束の魔法を使おうとしたが、術が完成するより早く、何かが私の目の前にぬっと現れたかと思うと、鳩尾に強烈な衝撃が加えられて吹っ飛んだ。
 一瞬呼吸が止まり、悲鳴も呻きも上げられないまま、私は床に転がる。

 痛みをこらえながら腹部に手を当て、出血がないことを確認してほっとするが、むせ返る気管に鉄錆の味がして眉をひそめる。
 臓器の損傷が心配されたが、それよりも突如現れた脅威が何なのかを確かめる必要がある。

 運よく手放さなかった杖に寄りかかりながら立ち上がると、そこには真っ黒な何かがいた。
 人の形状をしているが、老若男女の区別もつかないほど輪郭はおぼろで、ノイズがかかった映像みたいに揺らいでいる。

「…………アリサ」

 ハウリングしたマイクから響くような、キンとひび割れた声が耳を突いた。
 その声に応えるようにアリサは黒い影に駆け寄り、すがるように抱きつく。

「イーダ……」

 彼女から漏れた名前に、背筋に戦慄が走る。

 魔王イーダ。
 女神セリカノリスと対になる存在で、聖女とも対立関係にあるはず。

 それに、私の知るイーダはこのような真っ黒な姿ではない。
 ストーリーの合間では仮面をつけた姿しか出てこないが、本来は儚げな絶世の美青年なのだ。

 こんな時に言うのも不謹慎だが、イーダもユマ同様人気だったのに攻略対象ではなく、移植版でやっと攻略できるようになったキャラだったりする。

 ということは、ここは移植版に対応した世界で、まさかのイーダルートの真っただ中ってこと?

 でも、じゃあなんでイーダは真っ黒なの? この世界じゃ美少年じゃないってこと?
 いやいや、今はビジュアルを問題視してる場合じゃない。
 どうしてラスボス自らが聖女であるアリサの傍にいるのかどうかだ。

「……アリサ、これはどういうこと?」
「どうもこうもないわ。理想の世界を作るため、イーダと契約を結んだの」

 黒い影に抱かれるように包まれたアリサが、恍惚とした表情で語る。

「イーダは世界の管理者になりたい。私は私の思い通りになる世界が欲しい。でも、どんな道を歩んでもイーダは封印され、私は元の世界に戻される。そんなシナリオをぶち壊すためには、女神を滅ぼすしかないでしょう。そのために協力しようって約束したの」
「何を馬鹿なこと言ってるのよ。そんなことしたら――」
「聖魔のバランスなんて言いながら、結局女神に有意なように世界を操ってるだけ。イーダはいつも悪しきものとして蔑まれるのに、女神はいつも崇められる立場でしかない。そんなの、正しい均衡状態とは言えないわ。だったらいっそぶち壊した方がよくない?」

 アリサの言うことはある意味正論だ。
 イーダを封じるしかないシステムは、確かに不平等だし理不尽だと思う。
 だが、一足飛びに破壊とは思い切りがよすぎだ。

「ご説明どうもありがとう。そんな話聞いて、勝手にどうぞって言えるほどドライにはできてないのよ!」

 イーダを拘束する光の縄をイメージして杖を振るう。
 しかし、黒い影に触れる間もなくパチンと弾けて消えた。

 動揺を押し殺してもう一度魔法を使おうとしたが、それより早くイーダが放った魔力の塊が右肩を貫いた。
 焼けつくような痛みに絶叫し、取り落とした杖はカラランと音を立てて床に転がる。

 痛みをこらえて這うように手を伸ばすが、思い通りに動かない腕では届かない。

「ハリ!?」

 誘導を終えて戻って来たユマの叫びが聞こえる。
 すぐさま駆け寄ろうとしたが、マシンガンのように放たれるイーダの魔弾でこちらに近づくことができない。
 そんな私たちの無様な姿を嘲笑うように、一発のイーダの魔弾が、杖を木っ端みじんに打ち砕いた。
 まるでドライアイスが溶けるように風化していく杖の欠片を眺めながら、アリサは狂気の笑みを浮かべる。

「あはは、これであんたはただの役立たずよ! 二度と私に逆らわないで!」
「ハリ、大丈夫か?」

 弾幕が途切れた隙にユマは私とアリサたちの間に割って入る。
 ゆっくりと私を抱き起し、血が流れ出る傷口の治療をしながら、アリサを睨みつけた。

「これはどういうことだ?」
「私の味方じゃない人に話すことなんか何もないわ」

 ついっと顔を逸らすアリサにさらに言葉を重ねようとしたところで、複数の足音が駆けてきた。
 イーダは空気に紛れるように消え、入れ違いになるようにホールへ戻って来た騎士たちが、予想外の流血沙汰を前に戸惑い立ちすくんでいた。

「何があったんだ?」
「あ、あの人……魔王の手先だったの。私を操って、陥れようとしたの……ごめんなさい、私がしっかりしてなかったばっかりに、みんなに迷惑をかけて……」

「……アリサ。もうやめろよ、そういうの」

 さっきまでの暴言が嘘のようにしおらしい態度に転じポロポロと涙を流すアリサだが、ロイはそれにほだされた様子もなく悲しい瞳で首を振った。

「え……?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...