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第三章――④(アリサ視点)
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揺れる馬車の中、アリサは羽扇で隠した口元を憎々しげに歪めていた。
せっかく練った計画が水泡に帰した。
ボヤ騒ぎも未遂に終わり、杖の盗難事件も予想外の結末を迎えて、アリサが得たのはユマからの疑惑の目だけだ。万が一を考え、予備の杖を持ち出したことも失策だった。
使いたくない手段ではあったが、逃げるために彼に事象の入れ替えを頼んだものの、これがのちのち悪影響を及ぼさないかと不安になる気持ちも、余計にアリサの心を圧迫していた。
そもそも、あの女が杖を扱えさえしなければ起きなかった事態なのに。
思い出したくないのに、あの時の光景は何度も脳裏によみがえる。
リュイのドラゴン化は偶然ではなく織り込み済みだった。
そうなるようにあらかじめ細工をしていたのだ。
完全にドラゴン化したところで颯爽と現れてリュイを元の姿に戻し、杖の窃盗を不問にする寛大さを見せつければ、自分に対する評価は格段に上昇し、あの侍女も命を救われ泣いて詫びると思ったのに。
なのにどうして、杖はあの女に反応した?
もしかして、彼女もアリサと同じなのか?
ここで考えても仕方ないことだが、もしそうならこれほど厄介なことはない。
ユマもおそらくは気づいているだろう。
これ幸いとアリサを引きずり下ろすため、自分がいない間に彼女に近づくのは明白だ。
入れ替えた事象であの女が死んでくれれば儲けものだが、ユマがついている限り可能性は低い。
予備の杖は理由をつけて自分のものにするとして、当分はおとなしくしてほとぼりが冷めるのを待つしかないだろうか。
――もうやめよう? こんなのダメだよ……
深淵に沈めたはずのか細い声が聞こえてくる。
だが、ここでやめるわけにはいかない。
誰も味方のいない世界に戻りたくない。ただ知ってる歴史をなぞるだけではなく、自分の思いのままになる世界が――彼と自分が自由になる世界が欲しい。
そのためにはどうするすべきか、もう一度考え直さなくては。
目的地までの道のりはまだ長い。時間はある。彼とゆっくりと考えよう。
アリサはゆっくりと目を閉じ、思考の海に沈んだ。
せっかく練った計画が水泡に帰した。
ボヤ騒ぎも未遂に終わり、杖の盗難事件も予想外の結末を迎えて、アリサが得たのはユマからの疑惑の目だけだ。万が一を考え、予備の杖を持ち出したことも失策だった。
使いたくない手段ではあったが、逃げるために彼に事象の入れ替えを頼んだものの、これがのちのち悪影響を及ぼさないかと不安になる気持ちも、余計にアリサの心を圧迫していた。
そもそも、あの女が杖を扱えさえしなければ起きなかった事態なのに。
思い出したくないのに、あの時の光景は何度も脳裏によみがえる。
リュイのドラゴン化は偶然ではなく織り込み済みだった。
そうなるようにあらかじめ細工をしていたのだ。
完全にドラゴン化したところで颯爽と現れてリュイを元の姿に戻し、杖の窃盗を不問にする寛大さを見せつければ、自分に対する評価は格段に上昇し、あの侍女も命を救われ泣いて詫びると思ったのに。
なのにどうして、杖はあの女に反応した?
もしかして、彼女もアリサと同じなのか?
ここで考えても仕方ないことだが、もしそうならこれほど厄介なことはない。
ユマもおそらくは気づいているだろう。
これ幸いとアリサを引きずり下ろすため、自分がいない間に彼女に近づくのは明白だ。
入れ替えた事象であの女が死んでくれれば儲けものだが、ユマがついている限り可能性は低い。
予備の杖は理由をつけて自分のものにするとして、当分はおとなしくしてほとぼりが冷めるのを待つしかないだろうか。
――もうやめよう? こんなのダメだよ……
深淵に沈めたはずのか細い声が聞こえてくる。
だが、ここでやめるわけにはいかない。
誰も味方のいない世界に戻りたくない。ただ知ってる歴史をなぞるだけではなく、自分の思いのままになる世界が――彼と自分が自由になる世界が欲しい。
そのためにはどうするすべきか、もう一度考え直さなくては。
目的地までの道のりはまだ長い。時間はある。彼とゆっくりと考えよう。
アリサはゆっくりと目を閉じ、思考の海に沈んだ。
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