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顔合わせ後
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「いやー、顔合わせお疲れ様!」
慣れない場に疲れ果て勇司がソファでぐったりと寝ころんでいると、鳴神が無遠慮にドアを開けて部屋にやって来た。
鳴神も顔合わせの場に一緒についてきていた筈なのに、いつもと変わらないテンションなのに驚かされる。変な取引を持ち掛けられないよう後ろに立っていただけとはいえ、あのよく分からない緊張感が漂う空間に居てつかれなかったのだろうか。
「なっ、なにが起こってたか俺は全然分からなかったけど……あれでよかったのか?」
「うーん……早急に婚約とりつけようとはして来なかったし、よかったんじゃない? 引き分けって感じかな」
「引き分け……」
「もう少し強引に来るかもと思ってたんだけど、やっぱり前回の件で向こうも慎重になってるみたいだ」
勇司はただただテオフィルスの不機嫌オーラを感じながら、アイザックの言葉にうんうんと頷いていただけだが見えない攻防戦があったようだ。
鳴神は勇司がいるソファの向かいにある一人掛けのソファに座ると、ぺらぺらと話し始めた。
「メオガータは先住民族が多いところだから内乱とかよく起こるんだけど、資源は多いし文化も多様化してて面白いんだよなー。個人主義の奴が多いから国内で自然と競争が起きてユニークな人材を多く輩出してるし、テオフィルスの嫌な奴ではあるけど固有スキルも魔力も高い。ぶっちゃけ婚約を断る理由がない」
「理由がない……」
「そっ、だから引き分けのままでもゴールインだな」
「ゴールイン……」
勇司の脳裏に、白いチャペルの下でテオフィルスと結婚する光景が浮かんだ。縄で逃げられない様に縛られ、ズルズルと引きずられていくが誰一人助けてはくれない。無理やり永遠の言葉を誓わされ、大勢の人に見送られて教会を出た後は義務だからとそのままベッドにあーー……
「マズいだろ!!」
勇司は寝っ転がっていたソファから勢いよく起き上って言った。鳴神に紅茶を運んできたクロが驚いてビクッと尻尾を立てる。
「えっ? でも俺もその方が楽……」
「お前には俺との友情に義理立てする気持ちはないのか?!」
「間違えてやって来た俺を今まで育ててくれたこの国に恩とかもあるし、それに友情でご飯は食べられないんだぞ。この国を出るっていう選択肢もあるけど、そんなことしたらお前は追われる身確定。戦争が起きるかもしれないし、それこそ平気にする為に強姦だってありえる」
「ぐっ……」
鳴神に現状を物凄く冷静に言われ、勇司はぐうの音も出なかった。
十代ならばそれでも一緒に何とかしようと強引に言えていたが、もう成人して数年経っている。気持ちだけでどうにかなるもんじゃないのは身に染みて分かっている。
「俺もテオフィルスは嫌な奴だなと思ってるさ。けどな、犬に嚙まれたとでも思って……」
「んなこと言われたって、俺は日本育ちなんだぞ! 結婚もエッチも好きな人としかしたくない!」
「でも、魅了の能力使えるようになると便利だぞ? お前が使えるようになればそれ以降はセックスしなくていいし」
「その一回が嫌なんだよ~! しかもその後もずっとあいつここに居ることになるだろ?!」
「結婚するからな」
「クロの他にも嫌な思いする奴出るだろ!」
「必要な犠牲だと思って……」
「思えたらこんな風に言ってない!」
「強情だな~」
勇司はどうにかできないものかと脳みそをフル回転させた。
考えろ、考えるんだ。出来ることならば鳴神を仲間に引き入れたい。政治のことに一番詳しく、協力してくれるだろ相手は鳴神だ。前にテオフィルスとの結婚は嫌だと言った時、鳴神は別に反対しなかった。政略結婚に必ずしも賛成という訳ではない筈だ。
「なあ、鳴神は今回の婚約を平和的に断る理由ができれば味方してくれるのか?」
「まあ、そうだね」
勇司の問いに鳴神はあっさりと頷いた。鳴神がわざと味方をしない素振りを見せたことが分かり、勇司は苛立った。思わず眉間に皺が寄る。
「その様子だと、断る理由を作る算段もできてそうだな」
「色々な人間と会うのもお仕事の内だからな」
「もったいぶらずに言ってくれたって良かっただろ」
「いやー、だってこれからも婚約断る気だろ?」
「そりゃ、まあ……」
嘘をつくわけにもいかなかったので、勇司は素直に頷いた。
国交が重要な国で政略結婚をする利点は沢山あることはなんとなく分かる。分かるが、だからと言って適当に流されてしまうのは嫌だ。勿論、義務的なセックスも嫌なのだが……能力を得た後のことを考えてしまう。義務が終わった後、相手と仲良くできるかと言われれば正直NOだ。勇者に選ばれたとはいえ勇司は博愛主義者でもなければ、必要ならばどんな人間とも付き合える人間ではない。それこそ王族と結婚せず、国を混乱させたという勇者と同じ轍を踏みかねない。
魔王を消滅させた後の平和な世の中で、悪く言ってしまえば用済みとなった彼らは新たな火種を生む可能性がある。そういうのは避けたい。
「勇司。お前が使用としているのは楽にスキルを身に着ける道を絶って、わざわざ大変な道を選ぶってことだ。本気になってもらわないと困るんだよ。戦闘がほとんどないとはいえ、危険な場所に行くのは変わらないし」
「分かってる、魔力のコントロールだって言われた通り続けてる」
勇司は部屋の隅で山になっている魔力電池を指さした。胸の高さにまで積まれ、そろそろ場所を移動させないといけないぐらいだ。
「魔法もだけど、今回の見合いを断るのも中々辛抱のいる仕事だぞ?」
「さっきので十分察したよ……」
思い出しただけで肩が凝ってくる気がして勇司は肩を回した。
テオフィルスは勿論のこと、アイザックと名乗った外交官もなかなか一筋縄ではいかなさそうに見えた。
「そうか、じゃあ蜂の巣をつつこう」
鳴神は口の端を上げてふっと笑った。
鳴神の笑顔を見て勇司は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。味方の筈なのに、頼もしいと思うより不安を感じるのは何故なのだろうか。
慣れない場に疲れ果て勇司がソファでぐったりと寝ころんでいると、鳴神が無遠慮にドアを開けて部屋にやって来た。
鳴神も顔合わせの場に一緒についてきていた筈なのに、いつもと変わらないテンションなのに驚かされる。変な取引を持ち掛けられないよう後ろに立っていただけとはいえ、あのよく分からない緊張感が漂う空間に居てつかれなかったのだろうか。
「なっ、なにが起こってたか俺は全然分からなかったけど……あれでよかったのか?」
「うーん……早急に婚約とりつけようとはして来なかったし、よかったんじゃない? 引き分けって感じかな」
「引き分け……」
「もう少し強引に来るかもと思ってたんだけど、やっぱり前回の件で向こうも慎重になってるみたいだ」
勇司はただただテオフィルスの不機嫌オーラを感じながら、アイザックの言葉にうんうんと頷いていただけだが見えない攻防戦があったようだ。
鳴神は勇司がいるソファの向かいにある一人掛けのソファに座ると、ぺらぺらと話し始めた。
「メオガータは先住民族が多いところだから内乱とかよく起こるんだけど、資源は多いし文化も多様化してて面白いんだよなー。個人主義の奴が多いから国内で自然と競争が起きてユニークな人材を多く輩出してるし、テオフィルスの嫌な奴ではあるけど固有スキルも魔力も高い。ぶっちゃけ婚約を断る理由がない」
「理由がない……」
「そっ、だから引き分けのままでもゴールインだな」
「ゴールイン……」
勇司の脳裏に、白いチャペルの下でテオフィルスと結婚する光景が浮かんだ。縄で逃げられない様に縛られ、ズルズルと引きずられていくが誰一人助けてはくれない。無理やり永遠の言葉を誓わされ、大勢の人に見送られて教会を出た後は義務だからとそのままベッドにあーー……
「マズいだろ!!」
勇司は寝っ転がっていたソファから勢いよく起き上って言った。鳴神に紅茶を運んできたクロが驚いてビクッと尻尾を立てる。
「えっ? でも俺もその方が楽……」
「お前には俺との友情に義理立てする気持ちはないのか?!」
「間違えてやって来た俺を今まで育ててくれたこの国に恩とかもあるし、それに友情でご飯は食べられないんだぞ。この国を出るっていう選択肢もあるけど、そんなことしたらお前は追われる身確定。戦争が起きるかもしれないし、それこそ平気にする為に強姦だってありえる」
「ぐっ……」
鳴神に現状を物凄く冷静に言われ、勇司はぐうの音も出なかった。
十代ならばそれでも一緒に何とかしようと強引に言えていたが、もう成人して数年経っている。気持ちだけでどうにかなるもんじゃないのは身に染みて分かっている。
「俺もテオフィルスは嫌な奴だなと思ってるさ。けどな、犬に嚙まれたとでも思って……」
「んなこと言われたって、俺は日本育ちなんだぞ! 結婚もエッチも好きな人としかしたくない!」
「でも、魅了の能力使えるようになると便利だぞ? お前が使えるようになればそれ以降はセックスしなくていいし」
「その一回が嫌なんだよ~! しかもその後もずっとあいつここに居ることになるだろ?!」
「結婚するからな」
「クロの他にも嫌な思いする奴出るだろ!」
「必要な犠牲だと思って……」
「思えたらこんな風に言ってない!」
「強情だな~」
勇司はどうにかできないものかと脳みそをフル回転させた。
考えろ、考えるんだ。出来ることならば鳴神を仲間に引き入れたい。政治のことに一番詳しく、協力してくれるだろ相手は鳴神だ。前にテオフィルスとの結婚は嫌だと言った時、鳴神は別に反対しなかった。政略結婚に必ずしも賛成という訳ではない筈だ。
「なあ、鳴神は今回の婚約を平和的に断る理由ができれば味方してくれるのか?」
「まあ、そうだね」
勇司の問いに鳴神はあっさりと頷いた。鳴神がわざと味方をしない素振りを見せたことが分かり、勇司は苛立った。思わず眉間に皺が寄る。
「その様子だと、断る理由を作る算段もできてそうだな」
「色々な人間と会うのもお仕事の内だからな」
「もったいぶらずに言ってくれたって良かっただろ」
「いやー、だってこれからも婚約断る気だろ?」
「そりゃ、まあ……」
嘘をつくわけにもいかなかったので、勇司は素直に頷いた。
国交が重要な国で政略結婚をする利点は沢山あることはなんとなく分かる。分かるが、だからと言って適当に流されてしまうのは嫌だ。勿論、義務的なセックスも嫌なのだが……能力を得た後のことを考えてしまう。義務が終わった後、相手と仲良くできるかと言われれば正直NOだ。勇者に選ばれたとはいえ勇司は博愛主義者でもなければ、必要ならばどんな人間とも付き合える人間ではない。それこそ王族と結婚せず、国を混乱させたという勇者と同じ轍を踏みかねない。
魔王を消滅させた後の平和な世の中で、悪く言ってしまえば用済みとなった彼らは新たな火種を生む可能性がある。そういうのは避けたい。
「勇司。お前が使用としているのは楽にスキルを身に着ける道を絶って、わざわざ大変な道を選ぶってことだ。本気になってもらわないと困るんだよ。戦闘がほとんどないとはいえ、危険な場所に行くのは変わらないし」
「分かってる、魔力のコントロールだって言われた通り続けてる」
勇司は部屋の隅で山になっている魔力電池を指さした。胸の高さにまで積まれ、そろそろ場所を移動させないといけないぐらいだ。
「魔法もだけど、今回の見合いを断るのも中々辛抱のいる仕事だぞ?」
「さっきので十分察したよ……」
思い出しただけで肩が凝ってくる気がして勇司は肩を回した。
テオフィルスは勿論のこと、アイザックと名乗った外交官もなかなか一筋縄ではいかなさそうに見えた。
「そうか、じゃあ蜂の巣をつつこう」
鳴神は口の端を上げてふっと笑った。
鳴神の笑顔を見て勇司は嫌な汗が背中を伝うのを感じた。味方の筈なのに、頼もしいと思うより不安を感じるのは何故なのだろうか。
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