翡翠主従のエッチなお仕事

森野白熊

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兎に翡翠の価値は分からない

掃き溜めに美丈夫2

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「ここが私の家だよ。今日から君の家にもなる」
「うわぁ、大きいですね……」

エメラルドの暮らしている屋敷は、シロが初めてエメラルドと会ったマーケットから歩いて十分ほどのところにあった。
ここに都が出来る前からある屋敷らしく、隣に立っている家よりも傷んでいるように見えた。屋敷は二階まであり、屋根に出窓がついているのが見えるので屋根裏もあるらしい。五人家族で住んでも十分過ぎる程の広さがある。屋敷の前には薬草を育てているのか、草が沢山生えた庭もある。少なくとも村なんかにいてはお目にかかれない屋敷だった。

確かにこの広さだと一人では手が回らない場所も出てくるな。けど全部の部屋は使ってないだろうし、一週間も念入りに掃除すれば後は楽できそうだ。

家の中に入る前、シロはのんきにこんな風に考えていた。しかし玄関を開けてすぐ、そんなのんきなことを言っていられないことに気がついた。

「ちょっと散らかってるから、足元に気を付けて」
「あっ、は……はい?」

シロは開いた玄関の向こうの景色を見て絶句した。
少なくとも、ちょっと散らかっているというレベルではない。高く積まれた本やら何かの道具やらで視界が遮られ、屋敷の中の状態がどうなっているのか分からない。

「おっと」

エメラルドが数歩歩いたところで何かに躓いたかと思うと、何故か足元で食器が雪崩を起こしていた。

家の入口付近に普通食器は置かないだろ! ヤバイ、この人はマジで生活能力が無い人だ。

契約を交わす時にルビィが何故あんなに口を出してきたのか、シロは不思議だったが今なら分かる。エメラルドは美しい見た目に反して、人が口出しをして介入しないといけないレベルのダメ人間なのだ。

「え、エメラルド様……」
「ん? なんだい?」

エメラルドがシロの声で振り返ると、ガチャンと何かが倒れた音がした。
頼む、もうこれ以上何かを破壊しないでくれ。シロは雇い主に失礼なことは言えないので心の中で願った。

「今すぐ仕事を始めてもよろしいでしょうか?」
「え、そんないそがなくても私は大丈夫だよ。今日はゆっくりして……」
「いえ、僕の気持ちが休まらないので!」

シロはエメラルドの言葉を遮り、きっぱりと言った。
優しくしてくれるのは嬉しかったが、こんな環境では生活しているだけで身体に悪影響になる気がしてならない。というか今日ご飯を食べる所や、寝る場所を作り出すことすら難しそうだった。

「どの部屋だったら僕が使っても大丈夫ですか? 台所は? お風呂は? というかいつもどこで食事をしていらっしゃるんですか?」
「えーっと……食事? 食事は……いつも実験しながらパンかじってるかな?」

エメラルドは食事という誰もが毎日行っている習慣を、親しみのない習慣のように言った。どうやら落ち着いてテーブルで食事をするという習慣から教えなければならなそうだ。

「エメラルド様……」
「ん? なんだい?」
「僕、お仕事頑張りますね!」
「う、うん? そうしてくれると助かるよ」

使命感に燃えるシロをエメラルドは少し不思議そうに見つめるのだった。

シロはエメラルドに入ってはいけない部屋だけ教えてもらうと自分の寝床を決め、その場所を簡単に掃除してからキッチンの掃除を始めた。とりあえずエメラルドにまた倒れられては困るので、食事の用意を優先したのだ。
その日の夕食は店で鍋と食材を買ってスープにした。キッチンにあった鍋は焦げ付きなのか、それとも腐った食べ物なのか分からない黒い物体が入っており、洗っても使えなさそうなので早々に捨てることにしたのだ。

「あったかいの、久しぶりに食べたかも」

シロの作ったスープを飲んだエメラルドは、まるで拾われてきた子供のような感想を言うのだった。
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