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兎に翡翠の価値は分からない
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都にやってきて数日、シロは色々な職業紹介所に行って紹介してもらえる仕事を見せてもらっていたが惨敗だった。
そこそこお給料の良いところはいくつかあったのだが、いざ雇用者と面接となると兎獣人はトラブルの元になるからだとか、細腕は必要ないと言われて雇ってもらえなかった。なんでも同僚の男と関係を持ちまくって会社を内部から破滅へと追いやった兎獣人が過去に居たらしい。困ったやつがいるもんだ。
住み込みの仕事は「情夫」として夜の仕事もしなくてはいけないらしく、一緒に働くことになる肉食系の獣人の中には素行の悪い者もいるのでやめておいた方が良いと窓口で止められた。
兎獣人は草食動物の中でも発情期による体調や感情の変化が大きく、タイミング悪く発情期に関係を迫られて寝てしまって困ったことになったというケースが後を絶たないのだとか。
どんだけトラブルを起こしてるんだ同種族達! そりゃ兎獣人というだけで愛人向けの派遣部屋に入れられるよ!
この話を聞いた時シロは思わず地団太を踏んだ。
セックスは悪いことではない。好きな人と愛を確かめる行為であり、大事な子孫を残す為の方法だ。獣人は祖先である獣がそうであるように、発情期がある。人間に置き換えると生理のようなもので、性的興奮が高まりやすくなったり、情緒不安定になったりする。
草食動物の中で最も発情期の影響が大きいのが兎獣人だった。故に兎獣人はセックスに対して非常に前向きで、小さい頃から発情期に向けて家庭では性教育が行われたりする。セックスを恥ずかしいものだとしてしまうと、発情期になって困っている同種族を助けられないからこその対策だった。兎獣人にとって発情期とは、付き合っていかなければいけない問題だった。
勿論個体によって影響の受け方は様々で、シロは兎獣人だがあまり影響を受けないタイプだった。
宿代がタダとはいえ、食事などで滞在費はかかる。愛人として貴族の愛玩ペットになるつもりはないので、長く居座り続ける訳にもいかない。
もう観光をして村に帰ろうか。そんな風に考えながら宿屋で遅めの朝食をとっていると、職業紹介所の方のドアが乱暴に開けられる音が聞こえてきた。しばらくして、ざわざわと人がざわついて来るのも聞こえてくる。数日滞在しているが、こんな風に騒がしかったことはない。
シロはなんとなく気になって食事を終えると、宿屋と紹介所を繋げている扉の隙間から中を覗いてみた。
人々の視線は二人の背の高い男に集まっていた。一人は血の様に赤い髪の男で目つきが悪く、黙っているだけでも怒っているように見えた。肩幅があって筋肉もそこそこついているようなので中には怖がっている者もいた。もう一人はフードを被っているので顔は見えないが、赤髪の男と比べると細身だった。
「ねえ、ルビィ。やっぱりやめよう……あまり気乗りしないよ」
「気が乗るとかの問題じゃねーだろ! お前、実験にも生活にも行き詰まってんじゃねーか!」
「そっ、そうだけど……自分のことで手一杯なんだ。誰かを雇って面倒みる余裕なんてないよ」
「ああん? だから雑用もできる奴を雇えばいいんだろーが!」
どうやらルビィと呼ばれた赤髪の男が無理やり隣の男を連れて来たらしい。雑用をしてくれるハウスキーパーを探しに来たようだが、二人共あちこち擦り切れている古めかしいローブを着ており都で人を雇うだけのお金を持っているようには見えなかった。
しかしあのローブ、どこかで見たことあるぞ?
シロがもっと近くで見ようと扉に身体を預けると、蝶番が錆びていたのか扉がギギィイイと嫌な悲鳴を上げた。すると、ああだこうだ言い合っている二人の視線がシロへと向けられた。
顔が見えていない方の男がシロへと顔を向け、フードに隠されていた顔を見てシロは唐突に既視感の正体を思い出した。数日前に腹を空かして道に倒れていた男も、同じローブを着ていたことに。
というか、ご本人だった。エメラルドの瞳をした美しい男はシロに気づくと目を細めた。
「あ、君はこの間助けてくれたうさぎ君だ」
「どっ、どうも……」
シロは二人だけではなく、周りからの視線も集まってきてしまったので今すぐ逃げ出したいと思った。思ったが、ニコニコと人懐っこい笑顔で見つめてくる美男の謎の吸引力でシロは動くことができなかった。
そこそこお給料の良いところはいくつかあったのだが、いざ雇用者と面接となると兎獣人はトラブルの元になるからだとか、細腕は必要ないと言われて雇ってもらえなかった。なんでも同僚の男と関係を持ちまくって会社を内部から破滅へと追いやった兎獣人が過去に居たらしい。困ったやつがいるもんだ。
住み込みの仕事は「情夫」として夜の仕事もしなくてはいけないらしく、一緒に働くことになる肉食系の獣人の中には素行の悪い者もいるのでやめておいた方が良いと窓口で止められた。
兎獣人は草食動物の中でも発情期による体調や感情の変化が大きく、タイミング悪く発情期に関係を迫られて寝てしまって困ったことになったというケースが後を絶たないのだとか。
どんだけトラブルを起こしてるんだ同種族達! そりゃ兎獣人というだけで愛人向けの派遣部屋に入れられるよ!
この話を聞いた時シロは思わず地団太を踏んだ。
セックスは悪いことではない。好きな人と愛を確かめる行為であり、大事な子孫を残す為の方法だ。獣人は祖先である獣がそうであるように、発情期がある。人間に置き換えると生理のようなもので、性的興奮が高まりやすくなったり、情緒不安定になったりする。
草食動物の中で最も発情期の影響が大きいのが兎獣人だった。故に兎獣人はセックスに対して非常に前向きで、小さい頃から発情期に向けて家庭では性教育が行われたりする。セックスを恥ずかしいものだとしてしまうと、発情期になって困っている同種族を助けられないからこその対策だった。兎獣人にとって発情期とは、付き合っていかなければいけない問題だった。
勿論個体によって影響の受け方は様々で、シロは兎獣人だがあまり影響を受けないタイプだった。
宿代がタダとはいえ、食事などで滞在費はかかる。愛人として貴族の愛玩ペットになるつもりはないので、長く居座り続ける訳にもいかない。
もう観光をして村に帰ろうか。そんな風に考えながら宿屋で遅めの朝食をとっていると、職業紹介所の方のドアが乱暴に開けられる音が聞こえてきた。しばらくして、ざわざわと人がざわついて来るのも聞こえてくる。数日滞在しているが、こんな風に騒がしかったことはない。
シロはなんとなく気になって食事を終えると、宿屋と紹介所を繋げている扉の隙間から中を覗いてみた。
人々の視線は二人の背の高い男に集まっていた。一人は血の様に赤い髪の男で目つきが悪く、黙っているだけでも怒っているように見えた。肩幅があって筋肉もそこそこついているようなので中には怖がっている者もいた。もう一人はフードを被っているので顔は見えないが、赤髪の男と比べると細身だった。
「ねえ、ルビィ。やっぱりやめよう……あまり気乗りしないよ」
「気が乗るとかの問題じゃねーだろ! お前、実験にも生活にも行き詰まってんじゃねーか!」
「そっ、そうだけど……自分のことで手一杯なんだ。誰かを雇って面倒みる余裕なんてないよ」
「ああん? だから雑用もできる奴を雇えばいいんだろーが!」
どうやらルビィと呼ばれた赤髪の男が無理やり隣の男を連れて来たらしい。雑用をしてくれるハウスキーパーを探しに来たようだが、二人共あちこち擦り切れている古めかしいローブを着ており都で人を雇うだけのお金を持っているようには見えなかった。
しかしあのローブ、どこかで見たことあるぞ?
シロがもっと近くで見ようと扉に身体を預けると、蝶番が錆びていたのか扉がギギィイイと嫌な悲鳴を上げた。すると、ああだこうだ言い合っている二人の視線がシロへと向けられた。
顔が見えていない方の男がシロへと顔を向け、フードに隠されていた顔を見てシロは唐突に既視感の正体を思い出した。数日前に腹を空かして道に倒れていた男も、同じローブを着ていたことに。
というか、ご本人だった。エメラルドの瞳をした美しい男はシロに気づくと目を細めた。
「あ、君はこの間助けてくれたうさぎ君だ」
「どっ、どうも……」
シロは二人だけではなく、周りからの視線も集まってきてしまったので今すぐ逃げ出したいと思った。思ったが、ニコニコと人懐っこい笑顔で見つめてくる美男の謎の吸引力でシロは動くことができなかった。
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