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第10話 ランプと棺
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「思ったよりは暗くないのね……」
洋館風の建物に入り、少し中へと進んだところで真昼さんが呟いた。
「まあ、急に真っ暗になると危ないしねえ」
「それもそうね」
建物の内部は確かにぼんやりと薄暗いが、お洒落な装飾がされたランプが点々と続いているので道順は分かりやすかった。とは言え外に比べたらだいぶ暗いので、気を付けながら進まなければいけないことは間違いない。
「どう、怖い?」
真昼さんに尋ねてみる。
少しの間があって、真昼さんの返事。
「まだ分からないけど……でも、手は離さないで、絶対」
握った手にぎゅっと力が込められる。割としっかり怖がっていた。
さっきから肩と肩がよく触れ合うし、私から離れまいという意思が伝わってくる。普段とは違って、なんというか……小動物みたいな可愛さだ。
「大丈夫、離れないよ。もうちょっとしっかり繋ぐ? その、こんな感じで」
私は彼女の指の隙間に自分の指先を潜り込ませる。俗に言う恋人繋ぎ――というやつだ。
頭の中で『恋人』という単語だけが反芻して、心臓が高鳴るのが自分でも分かる。
「そうね、これならはぐれる心配はないわね」
大して気にする素振りも見せず、真昼さんは私の指先を受け入れてくれた。嬉しい。でも、ほんのちょっぴり複雑な気分。
道なりに進んでいき、一つ目の小部屋に入る。さっきよりも少し周囲の光量が落ちてきた。
部屋の中には思わせぶりな棺が一つ置いてあり、壁には大きな肖像画のようなものが掛けられている。
ふと、絵の中の人物がぼうっと青白く光ったように見えた。どこからか子供のような笑い声。
「……っ」
二人ともびくっと反応してしまう。
私の存在を確かめるように、真昼さんが腕に軽くしがみついてくる。
気持ち早歩きになりながら次の小部屋を目指した。
二つ目の小部屋にも棺が置いてある。今度は大きめの立て鏡も設置されていた。
恐る恐る覗き込んでみたけど、二人の不安そうな顔がぼんやり映っているだけで特に何も起こらなかった。ひとまず安心する。
三つ目の小部屋。また大きな立て鏡が置いてある。さっきと同じような部屋だが、どこかしら違和感を覚える部屋でもあった。
「……ここには棺がないのかしら」
鏡の前で真昼さんが違和感の正体を呟く。確かに、ぱっと見では棺が見当たらなかったが――
「……ううん、あそこ。部屋の角に一つある」
「あ、ほんとね。あれ、でも……」
「うん……」
私たちは顔を見合わせる。嫌な予感が二人の視線の間を彷徨った。
先ほどと同じような棺が部屋の奥の方に置かれているのだが、その棺のふたはずれて開いている。見る限り、中は空っぽのようだ。
棺は死体を入れる場所であり、その棺のふたが開いているということは、つまり――
私と真昼さんは、ゆっくりと視線を鏡に戻す。
先ほどと同じように、不安そうな二人の顔と……その間に、映っているはずのない、化け物じみた第三の顔が――
「がああああっ!」
「きゃああっ!」「いやあっ!」
背後から唸り声が聞こえた瞬間、どちらからともなく暗闇を駆け出した。
はぐれないようにしっかりと手を繋ぎながら、小部屋の出口まで一目散に逃げた。
急いで扉を閉め、廊下へと出る。下には絨毯のようなものが敷かれていた。
背後からはどんどんと激しく扉を叩く音。
順路的には合っているはずだが、廊下を見回しても次の部屋への入り口は見当たらない。
真昼さんと肩を寄せ合い、弾む息を整えながらじっと時が過ぎるのを待つ。
扉を叩く音は段々弱まっていき、やがてぱったりと聞こえなくなった。どうやらこの廊下までは追ってこないらしい。
二人から安堵の溜め息が漏れる。
「はあ、こわかったあ……でも、ひとまずは安心みたいだね。真昼さん、大丈夫?」
「ええ、思っていたよりもずっと怖かったけど……みつはさんと一緒なら平気よ」
「えへへ、そっか」
頼ってくれてるのかな。なんだか身体がこそばゆい。こうやって真昼さんは、無自覚に私の心を振り回す。
さて、ひと息つけたのはいいけど、次はどこに行けばいいんだろ。さっきは辺りを見回しても順路らしきものは見当たらなかったが――
なんて思っていると、私たちの背後の壁から小さな機械音がし始めた。
不思議に思って様子を見てみると、壁だと思っていた所が実は隠し通路になっていたようだ。なかなか凝った作りになっている。
「次はこっちに行くのかな?」
「ええ、そうみたいね」
お化け屋敷、やっぱり来てよかったな。
真昼さんとこんなにべったりくっつける機会、そうそうないだろうから。
……っていうのは、ちょっと不純すぎる動機かもしれないけど。
洋館風の建物に入り、少し中へと進んだところで真昼さんが呟いた。
「まあ、急に真っ暗になると危ないしねえ」
「それもそうね」
建物の内部は確かにぼんやりと薄暗いが、お洒落な装飾がされたランプが点々と続いているので道順は分かりやすかった。とは言え外に比べたらだいぶ暗いので、気を付けながら進まなければいけないことは間違いない。
「どう、怖い?」
真昼さんに尋ねてみる。
少しの間があって、真昼さんの返事。
「まだ分からないけど……でも、手は離さないで、絶対」
握った手にぎゅっと力が込められる。割としっかり怖がっていた。
さっきから肩と肩がよく触れ合うし、私から離れまいという意思が伝わってくる。普段とは違って、なんというか……小動物みたいな可愛さだ。
「大丈夫、離れないよ。もうちょっとしっかり繋ぐ? その、こんな感じで」
私は彼女の指の隙間に自分の指先を潜り込ませる。俗に言う恋人繋ぎ――というやつだ。
頭の中で『恋人』という単語だけが反芻して、心臓が高鳴るのが自分でも分かる。
「そうね、これならはぐれる心配はないわね」
大して気にする素振りも見せず、真昼さんは私の指先を受け入れてくれた。嬉しい。でも、ほんのちょっぴり複雑な気分。
道なりに進んでいき、一つ目の小部屋に入る。さっきよりも少し周囲の光量が落ちてきた。
部屋の中には思わせぶりな棺が一つ置いてあり、壁には大きな肖像画のようなものが掛けられている。
ふと、絵の中の人物がぼうっと青白く光ったように見えた。どこからか子供のような笑い声。
「……っ」
二人ともびくっと反応してしまう。
私の存在を確かめるように、真昼さんが腕に軽くしがみついてくる。
気持ち早歩きになりながら次の小部屋を目指した。
二つ目の小部屋にも棺が置いてある。今度は大きめの立て鏡も設置されていた。
恐る恐る覗き込んでみたけど、二人の不安そうな顔がぼんやり映っているだけで特に何も起こらなかった。ひとまず安心する。
三つ目の小部屋。また大きな立て鏡が置いてある。さっきと同じような部屋だが、どこかしら違和感を覚える部屋でもあった。
「……ここには棺がないのかしら」
鏡の前で真昼さんが違和感の正体を呟く。確かに、ぱっと見では棺が見当たらなかったが――
「……ううん、あそこ。部屋の角に一つある」
「あ、ほんとね。あれ、でも……」
「うん……」
私たちは顔を見合わせる。嫌な予感が二人の視線の間を彷徨った。
先ほどと同じような棺が部屋の奥の方に置かれているのだが、その棺のふたはずれて開いている。見る限り、中は空っぽのようだ。
棺は死体を入れる場所であり、その棺のふたが開いているということは、つまり――
私と真昼さんは、ゆっくりと視線を鏡に戻す。
先ほどと同じように、不安そうな二人の顔と……その間に、映っているはずのない、化け物じみた第三の顔が――
「がああああっ!」
「きゃああっ!」「いやあっ!」
背後から唸り声が聞こえた瞬間、どちらからともなく暗闇を駆け出した。
はぐれないようにしっかりと手を繋ぎながら、小部屋の出口まで一目散に逃げた。
急いで扉を閉め、廊下へと出る。下には絨毯のようなものが敷かれていた。
背後からはどんどんと激しく扉を叩く音。
順路的には合っているはずだが、廊下を見回しても次の部屋への入り口は見当たらない。
真昼さんと肩を寄せ合い、弾む息を整えながらじっと時が過ぎるのを待つ。
扉を叩く音は段々弱まっていき、やがてぱったりと聞こえなくなった。どうやらこの廊下までは追ってこないらしい。
二人から安堵の溜め息が漏れる。
「はあ、こわかったあ……でも、ひとまずは安心みたいだね。真昼さん、大丈夫?」
「ええ、思っていたよりもずっと怖かったけど……みつはさんと一緒なら平気よ」
「えへへ、そっか」
頼ってくれてるのかな。なんだか身体がこそばゆい。こうやって真昼さんは、無自覚に私の心を振り回す。
さて、ひと息つけたのはいいけど、次はどこに行けばいいんだろ。さっきは辺りを見回しても順路らしきものは見当たらなかったが――
なんて思っていると、私たちの背後の壁から小さな機械音がし始めた。
不思議に思って様子を見てみると、壁だと思っていた所が実は隠し通路になっていたようだ。なかなか凝った作りになっている。
「次はこっちに行くのかな?」
「ええ、そうみたいね」
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