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381 合体GO
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「確かにネットサーフィンは出来ない。SNSも出来ない。そもそも脳波コン関連のことはどっかの誰かさんが熱心にヘイトスピーチやら工作活動やらで握りつぶしてただろう?」
「我々は知らぬ存ぜぬという態度を取るべきなんでしょうが、事実ですね。はい」
背広組の苦笑いに満足したのか、マグナは壁際の空中に大きく広げられたテレビ映像を前に腕組みしながら立って背を向ける。普段から考察や検討のために集まっているギルド・チートマイスターのホーム、愛らしいマカロンカラーと曲線で構成された女児向け空間に中年男性八割強の面々が集合しており、思い思いの格好で皆テレビを見ていた。
「その活動が弱くなったのか、はたまた……」
「いやこれ人の口に封できなくなるくらいのトレンドになっちゃったってことでしょ」
夜叉彦がマグナの後頭部めがけて刀を向けた。正しくはテレビ投影部分に向けてだが、振り返ったマグナが鼻先に迫る刀のきっさきを手で払いのけた。
「ま、そういうことだ」
先ほどから外の世界のニュース映像を流しているのだが、数十分前に流れたものを録画したものだ。バーや居酒屋で無造作に流されているものを横目で見ることはあるが、閉じ込められているプレイヤーたちにとってはストレスの原因にしかならないためスポーツチャンネルが好まれる傾向にある。こうした一般的な日本社会を報じるニュースは久しぶりに見る。
<奇怪! 新時代の海ぼうず! その正体とは>
<白く光る海ねこが書かれたお守りを持つ人が増えています。その理由とは?>
街頭インタビューに答えている若者たちが、白いお守りをカメラに見せながら神妙な顔で答えている。
<「海ぼうずが街中のドローンに取り憑いて、子どもを襲ったりさらったりするって噂で……」>
<「白い海ねこが追い払ってくれるとか」>
ガルドは肩を縮こませて丸くなり、なるべく存在感を消そうと努力した。
「この海ぼうずっていうのは、三橋から聞いてる例のアレだろ」
「黒ネンドね」
「で? 白い海ねこってのは?」
<「拡散されている動画には、暴れ出した制御不能の憑依ドローンに立ち向かう白い光が映っている……」>
おどろおどろしいナレーションがついている動画がテレビいっぱいに出た。手ブレがひどいが確かに白い光が映っている。羽のついた生き物に見えなくもない。ドローンにしては動きが生々しく、なんとも自然な鳥っぽさがあった。
「……」
ガルドは無言で隣を見る。榎本も肩を縮こめて口をへの字に閉じていた。
「……」
動画の背景には見覚えがある。黒いドローンの群れにも見覚えがある。白く光る鳥のようなものは、見覚えはないが、どうして光っていてどうして鳥っぽい動きなのかが分かる。
「なんだろう、警察の新型?」
「日電が噛んでるとか?」
「我々も知らないということは、情興庁でも把握していない新型ということです。警察はありえないでしょうが防衛庁がらみの可能性はゼロではないかと。ちなみに布袋さんは?」
「初見ー。なぁにあれー」
「そうですか……」
部屋の家主であるぷっとんは、一番大きなソファに横になりながら生クリーム乗せのフルーツスムージーを飲んでいる。他の面々もテレビ画面を向いており、一番対角側の壁際に座る榎本とガルドの様子には気づいていない。
<おい相棒>
<なんだ>
個人同士でやり取りするチャットに榎本が無言で文字を飛ばしてきた。気まずい視線を組んでいる自分の両手の節に向けながら、静かに返事をする。
<ありゃあ、お前だろ>
無言。
<白く発光して奴らのカメラ認識に障害追わせつつ、コンマ秒遅いコントロールでも勝てるよう即席で相手の動きに連動するような飛行プログラム書いたっていう、『お前』の中継機>
無言。
<Aがやたら感心してたから覚えてるぞ。素人目じゃ何がすごいのか分からねぇからスルーしたが、こうしてみるとセミオートの動きには見えねぇなぁ>
ガルドは思わず首を横にふる。何もすごいことなどしていない。ただ、大量の味方機を統括する指令伝達用機を組んだだけだ。他人が作ったもの。今回は置かれていたショー用のものと運搬用のものとを空中で合体させ、離れないように同時に動かすことでドローンらしからぬ動きになっただけのことだ。光っているのはショー用の白い光に運搬用部分が持っていたサーチライトの光の尾が組み合わさっただけ。
<大したことはしてない……>
<はい嘘。嘘つけー。オカルト好きに喜ばれるくらいには変みたいだぞー>
<恥ずかしい>
顔が赤い気がする。ガルドは指を交差させて組んだ両手で、額から下を隠した。
「我々は知らぬ存ぜぬという態度を取るべきなんでしょうが、事実ですね。はい」
背広組の苦笑いに満足したのか、マグナは壁際の空中に大きく広げられたテレビ映像を前に腕組みしながら立って背を向ける。普段から考察や検討のために集まっているギルド・チートマイスターのホーム、愛らしいマカロンカラーと曲線で構成された女児向け空間に中年男性八割強の面々が集合しており、思い思いの格好で皆テレビを見ていた。
「その活動が弱くなったのか、はたまた……」
「いやこれ人の口に封できなくなるくらいのトレンドになっちゃったってことでしょ」
夜叉彦がマグナの後頭部めがけて刀を向けた。正しくはテレビ投影部分に向けてだが、振り返ったマグナが鼻先に迫る刀のきっさきを手で払いのけた。
「ま、そういうことだ」
先ほどから外の世界のニュース映像を流しているのだが、数十分前に流れたものを録画したものだ。バーや居酒屋で無造作に流されているものを横目で見ることはあるが、閉じ込められているプレイヤーたちにとってはストレスの原因にしかならないためスポーツチャンネルが好まれる傾向にある。こうした一般的な日本社会を報じるニュースは久しぶりに見る。
<奇怪! 新時代の海ぼうず! その正体とは>
<白く光る海ねこが書かれたお守りを持つ人が増えています。その理由とは?>
街頭インタビューに答えている若者たちが、白いお守りをカメラに見せながら神妙な顔で答えている。
<「海ぼうずが街中のドローンに取り憑いて、子どもを襲ったりさらったりするって噂で……」>
<「白い海ねこが追い払ってくれるとか」>
ガルドは肩を縮こませて丸くなり、なるべく存在感を消そうと努力した。
「この海ぼうずっていうのは、三橋から聞いてる例のアレだろ」
「黒ネンドね」
「で? 白い海ねこってのは?」
<「拡散されている動画には、暴れ出した制御不能の憑依ドローンに立ち向かう白い光が映っている……」>
おどろおどろしいナレーションがついている動画がテレビいっぱいに出た。手ブレがひどいが確かに白い光が映っている。羽のついた生き物に見えなくもない。ドローンにしては動きが生々しく、なんとも自然な鳥っぽさがあった。
「……」
ガルドは無言で隣を見る。榎本も肩を縮こめて口をへの字に閉じていた。
「……」
動画の背景には見覚えがある。黒いドローンの群れにも見覚えがある。白く光る鳥のようなものは、見覚えはないが、どうして光っていてどうして鳥っぽい動きなのかが分かる。
「なんだろう、警察の新型?」
「日電が噛んでるとか?」
「我々も知らないということは、情興庁でも把握していない新型ということです。警察はありえないでしょうが防衛庁がらみの可能性はゼロではないかと。ちなみに布袋さんは?」
「初見ー。なぁにあれー」
「そうですか……」
部屋の家主であるぷっとんは、一番大きなソファに横になりながら生クリーム乗せのフルーツスムージーを飲んでいる。他の面々もテレビ画面を向いており、一番対角側の壁際に座る榎本とガルドの様子には気づいていない。
<おい相棒>
<なんだ>
個人同士でやり取りするチャットに榎本が無言で文字を飛ばしてきた。気まずい視線を組んでいる自分の両手の節に向けながら、静かに返事をする。
<ありゃあ、お前だろ>
無言。
<白く発光して奴らのカメラ認識に障害追わせつつ、コンマ秒遅いコントロールでも勝てるよう即席で相手の動きに連動するような飛行プログラム書いたっていう、『お前』の中継機>
無言。
<Aがやたら感心してたから覚えてるぞ。素人目じゃ何がすごいのか分からねぇからスルーしたが、こうしてみるとセミオートの動きには見えねぇなぁ>
ガルドは思わず首を横にふる。何もすごいことなどしていない。ただ、大量の味方機を統括する指令伝達用機を組んだだけだ。他人が作ったもの。今回は置かれていたショー用のものと運搬用のものとを空中で合体させ、離れないように同時に動かすことでドローンらしからぬ動きになっただけのことだ。光っているのはショー用の白い光に運搬用部分が持っていたサーチライトの光の尾が組み合わさっただけ。
<大したことはしてない……>
<はい嘘。嘘つけー。オカルト好きに喜ばれるくらいには変みたいだぞー>
<恥ずかしい>
顔が赤い気がする。ガルドは指を交差させて組んだ両手で、額から下を隠した。
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