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349 湯煙、交わる世界線
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「ふぃー」
男湯の露天風呂で星が浮かぶ空を見ながら、陽太郎はリラックスしきった声を出した。
一宿一飯の恩義がある一家の少年は少し離れた打たせ湯にて修行僧の真似事をしており、それぞれの過ごし方で温泉を満喫している。
それはさておき、現在作戦行動の真っ最中なのだ。こめかみにつけているジェルは外していない。有線の端末も置いてきているため、無線を封じている今陽太郎は完全なオフライン状態だ。
民家から自動運転の自家用車で送ってもらう姿を見られているのかいないのか、今のところ何の攻撃も無い。周りには地元の男たちがそこそこ入浴中で、無人になるシーンなど個室トイレくらいなものだろう。陽太郎は完全に、現状攫われるようなことはないだろうと安心していた。
日電側には道中連絡を入れている。日帰り入浴施設の位置も詳細に伝えており、懐いている兄妹には悪いのだが、連れが迎えにきてくれるとでも言えば今日中に離脱できるかもしれない。
「あっちは大丈夫かねぇ」
ベルベットの人柄を知っている陽太郎は、ドンパチの可能性がほぼないだろうと楽観視するところまで来ていた。日電側も交渉と言っていた。つまり、三橋のログアウト処理技術について知りたがっているベルベットに一定条件突きつけ手を引くよう交渉するということだ。
「そもそも……」
難しい顔をして湯の表面を見る。そもそも、ベルベットがログアウト処理の技術を持っていないという点こそ不可解だ。田岡のログアウトは技術的にかなり難しいのだと陽太郎にも分かるのだが、三橋や他の拉致被害者が強制ジャックインさせられてまだ一年は経っていない。技術的にも田岡の、つまり四年前よりは良くなっているはずだ。安心安全にログアウトさせられるよう、犯人たちも保険の一つや二つ掛けていておかしくないだろう。
そして、敵だろうと味方だろうと、ベルベットが目的としているはずのこの技術を手に入れてないとは思えないのだ。
「ロンベルのために、若いの集めて海外まで行ったりして、必死に動いてるんじゃねーのかよ……」
ロンド・ベルベットはベルベットのギルドだ。辞めた今も、ファンは皆そう思っている。
「あー肩こりとれた!」
「おうおう、その若さで肩こりってか。どれ揉んでやろうか」
「ヒャハハ! くすぐって!」
打たせ湯から陽太郎の隣に戻ってきた少年の相手をしながら、のんびりした時間をぼんやりと過ごす。数時間前までは命の危機・拉致される可能性を感じて必死に走っていたというのに、陽太郎はすっかり緊迫感を忘れてリラックスしていた。
「通信の宛先はパッケージにして配布したがね、そんな一気に送っては混乱しないかね?」
「大丈夫。対象一人にこっちは六人体制」
「ヒャッハー! 大将、任せとけってぇ!」
「外に干渉してベルベットと戦うんだろ? これなんてレイド」
「装備しっかりな」
「まだ足りなそうだから打ってるところ~」
「もしここで『いいえ』と答えた場合はこれを、『はい』と答えた場合はこっちを送信!」
「北に行ったら?」
「俺! 俺が打ったこれだ!」
「いいね」
「完璧ぃ!」
「逆に戻った場合はどうする?」
「雅炎のチームが対応している奴に急行させる。送信元はクローゼット班が担当している。どうだ?」
「なるほど」
「いいんじゃね」
「雑談対応どうするよ」
「『今忙しい』でいいんじゃね?」
「……うーん……大丈夫かね?」
「各チームごとにリーダーがいる。それぞれ長年組んでる上に、ギルド区分も考えた。大丈夫、阿吽の呼吸だ」
「キミが信頼しているのは伝わってくるがね」
「それに、失敗してもデメリットは少ない」
「まぁ、そこは保証するがね。既にハワイ近海には包囲網が敷かれているのでね。もう帰ってこれないのでね、直接我々をどうにかできる状況に戻ることはないのでね」
「他の、BJ以外は?」
「DJとEJかね? 管轄外でボクからは安全の保証など出来かねるがね、そちらも現状問題ないのでね。彼らの身体、日本を離れてアラスカへ『輸送』中でね。確かに拿捕したとはいえ、既に追跡されていると見ていいのでね」
「誰に」
「報告によれば、キミに関連している人物だそうだがね。ええと、ああ、一度ログイン履歴があるようだがね」
「……阿国」
「それにだね、向かった先のアラスカにも既に手を回しているのでね」
「そうか」
「そちらは民間人二名に契約社員一名。給料未払いを理由に社員は反感を持っているようだったのでね。仲の良いムリフェインがそそのかして協力者にしたのでね」
「金か」
「ま、奴も計画には同調しているがね、おそらくキミたち六人以外には固着しないはずでね」
「それがうざいっつーの!」
「落ち着けメロ」
「助けられたのは理解したけどサァ! 『助けきらない』ってのはドウナン!? エ!?」
「どうどう」
「その上人様にご迷惑まであああもうー!」
「その点については同調するがね」
「うんうん」
男湯の露天風呂で星が浮かぶ空を見ながら、陽太郎はリラックスしきった声を出した。
一宿一飯の恩義がある一家の少年は少し離れた打たせ湯にて修行僧の真似事をしており、それぞれの過ごし方で温泉を満喫している。
それはさておき、現在作戦行動の真っ最中なのだ。こめかみにつけているジェルは外していない。有線の端末も置いてきているため、無線を封じている今陽太郎は完全なオフライン状態だ。
民家から自動運転の自家用車で送ってもらう姿を見られているのかいないのか、今のところ何の攻撃も無い。周りには地元の男たちがそこそこ入浴中で、無人になるシーンなど個室トイレくらいなものだろう。陽太郎は完全に、現状攫われるようなことはないだろうと安心していた。
日電側には道中連絡を入れている。日帰り入浴施設の位置も詳細に伝えており、懐いている兄妹には悪いのだが、連れが迎えにきてくれるとでも言えば今日中に離脱できるかもしれない。
「あっちは大丈夫かねぇ」
ベルベットの人柄を知っている陽太郎は、ドンパチの可能性がほぼないだろうと楽観視するところまで来ていた。日電側も交渉と言っていた。つまり、三橋のログアウト処理技術について知りたがっているベルベットに一定条件突きつけ手を引くよう交渉するということだ。
「そもそも……」
難しい顔をして湯の表面を見る。そもそも、ベルベットがログアウト処理の技術を持っていないという点こそ不可解だ。田岡のログアウトは技術的にかなり難しいのだと陽太郎にも分かるのだが、三橋や他の拉致被害者が強制ジャックインさせられてまだ一年は経っていない。技術的にも田岡の、つまり四年前よりは良くなっているはずだ。安心安全にログアウトさせられるよう、犯人たちも保険の一つや二つ掛けていておかしくないだろう。
そして、敵だろうと味方だろうと、ベルベットが目的としているはずのこの技術を手に入れてないとは思えないのだ。
「ロンベルのために、若いの集めて海外まで行ったりして、必死に動いてるんじゃねーのかよ……」
ロンド・ベルベットはベルベットのギルドだ。辞めた今も、ファンは皆そう思っている。
「あー肩こりとれた!」
「おうおう、その若さで肩こりってか。どれ揉んでやろうか」
「ヒャハハ! くすぐって!」
打たせ湯から陽太郎の隣に戻ってきた少年の相手をしながら、のんびりした時間をぼんやりと過ごす。数時間前までは命の危機・拉致される可能性を感じて必死に走っていたというのに、陽太郎はすっかり緊迫感を忘れてリラックスしていた。
「通信の宛先はパッケージにして配布したがね、そんな一気に送っては混乱しないかね?」
「大丈夫。対象一人にこっちは六人体制」
「ヒャッハー! 大将、任せとけってぇ!」
「外に干渉してベルベットと戦うんだろ? これなんてレイド」
「装備しっかりな」
「まだ足りなそうだから打ってるところ~」
「もしここで『いいえ』と答えた場合はこれを、『はい』と答えた場合はこっちを送信!」
「北に行ったら?」
「俺! 俺が打ったこれだ!」
「いいね」
「完璧ぃ!」
「逆に戻った場合はどうする?」
「雅炎のチームが対応している奴に急行させる。送信元はクローゼット班が担当している。どうだ?」
「なるほど」
「いいんじゃね」
「雑談対応どうするよ」
「『今忙しい』でいいんじゃね?」
「……うーん……大丈夫かね?」
「各チームごとにリーダーがいる。それぞれ長年組んでる上に、ギルド区分も考えた。大丈夫、阿吽の呼吸だ」
「キミが信頼しているのは伝わってくるがね」
「それに、失敗してもデメリットは少ない」
「まぁ、そこは保証するがね。既にハワイ近海には包囲網が敷かれているのでね。もう帰ってこれないのでね、直接我々をどうにかできる状況に戻ることはないのでね」
「他の、BJ以外は?」
「DJとEJかね? 管轄外でボクからは安全の保証など出来かねるがね、そちらも現状問題ないのでね。彼らの身体、日本を離れてアラスカへ『輸送』中でね。確かに拿捕したとはいえ、既に追跡されていると見ていいのでね」
「誰に」
「報告によれば、キミに関連している人物だそうだがね。ええと、ああ、一度ログイン履歴があるようだがね」
「……阿国」
「それにだね、向かった先のアラスカにも既に手を回しているのでね」
「そうか」
「そちらは民間人二名に契約社員一名。給料未払いを理由に社員は反感を持っているようだったのでね。仲の良いムリフェインがそそのかして協力者にしたのでね」
「金か」
「ま、奴も計画には同調しているがね、おそらくキミたち六人以外には固着しないはずでね」
「それがうざいっつーの!」
「落ち着けメロ」
「助けられたのは理解したけどサァ! 『助けきらない』ってのはドウナン!? エ!?」
「どうどう」
「その上人様にご迷惑まであああもうー!」
「その点については同調するがね」
「うんうん」
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