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339 なんて危険なことをしてるんだ美空は
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ガルドが見聞きした内容は、データ形式がバラバラだったものを無理やり文字列の日本語に書き換えて報告書の形に整えられた。ガルドがAIへイメージを送って出力したもので、口語に近い文体だが不備や誤字はない。
データとして抽出すれば、脳波コン持ちには共有など数秒で事足りる。だからこそ、先に送っておいた報告書が読まれる時間より、榎本とガルドがチートマイスター・ギルドホームへ到着する時間の方が遅かった。
「が、ガル、ガルドっ!」
「うおわっ、なんだなんだ。ぷっとんじゃなくてお前かよ」
ドアを開いてすぐ、掴みかかる勢いで乗り込んできたのは夜叉彦だった。ツンツンとした前髪が当たるほど近く寄ってきた夜叉彦が、珍しく焦った表情を隠さず詰め寄ってくる。
「この、この、報告書さぁ!」
指で虚空をトントン叩いているが、ガルド達には手にしている夜叉彦側の報告書画面が見えていない。榎本は見えているかのように頷いた。
「おう、どーよ。コイツが向こう側を『覗き見』して取ってきた情報だ。すげぇだろ」
「なんで榎本が自慢げなんだよ、すごいのはガルドだけだろ。そんなことより! この『美空』だよ! 美空の情報、もうちょっとない!?」
「ミソラ? ああ、ベルベット傘下から離脱したとかいう」
ガルドは隣で首を傾げ、もう一度こめかみの感覚を鋭利にした。目のピントがぐんと遠くに行き、宙を無気力に見つめたまま棒立ちになる。
「ねぇガルド……あれ? これもう潜ってるの?」
「おう。とりあえず落ち着け、夜叉彦。そっちの椅子までガルドの誘導頼む」
「手を引けばいい? やば、俺今手汗すごいよ」
「手汗エフェクト後からつけてるだけだろ。オートでスイッチオン? まじかよ、おいおい。どうしたんだよそんな興奮して」
「興奮!? 違うよ、動揺だよ!」
夜叉彦の声が遠くに聞こえる。ガルドは夜叉彦に手を引かれている自覚もないまま、なすがままに歩いた。視界には確かにマカロンカラー一色に染まったチートマイスターのギルドホームロビーが見えているのだが、目の奥に届かない。
ガルドは、言われた通り「美空」について調べた。得られるのはベルベットが意識して記録した美空に関するデータばかりだ。客観的なものはない。
<美空ちゃん 対象とセットで移動>
<支援>
<移動>
<対象の奪取チーム 計画通り>
<美空ちゃん 協力表明 チームへ組み込んで>
<移動路確保>
<完了 手配済み区画へ侵入>
<警備ドローン手配>
<阿国チャンと通話してる? 傍受できる?>
「阿国」
「阿国!?」
「阿国がどうした」
ガルドの口から漏れ出た言葉に周囲がワッと身を乗り出した。ガルドの目は相変わらずすりガラスのように周囲をシャットアウトしており、通話ログやドローンへ飛ばしている信号を探るのに夢中だ。
<秘匿暗号通信のため 傍受不可>
<要注意>
<阿国チャンと美空チャンってそういえば知り合いだったワ。うっかりうっかり>
「ベルベット……」
気の抜けた通話記録にガルドはため息をつき、夜叉彦を中心とした会議メンバーはワタワタと憶測に顔を青ざめ落ち着きなく動き回っている。
「あ、あの阿国と美空が会ってる? どうなってるだ外は」
「そもそも美空ってのは知り合いなのか、夜叉彦」
「リアルで最後に会った飲み会の時に言ってただろ? なぁ」
「ジャスが覚えてるとは」
「なにおう」
「あははは! 夜叉彦、ブルブル震えすぎー」
「メロはどうなんだよ、ベルベットに呆れてるぞガルド」
「全くアイツは爪が甘いんだよ」
<急いで頂戴、教授。政府の動きが思ったより早いわ>
<◼︎◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎◼︎>
「うっ!?」
ノイズの強い返事に一瞬たじろぎ、ガルドは集中力を切らせた。
「ガルド!?」
「っは、ぁ……強烈なフィルター……あれが……」
白亜教授、だろう。
ガルドは直感した。ベルベットに急ぐよう頼まれていた男性らしいが、年齢も声質も外部にバレないようフィルターをかけている。ベルベットの持つログでこれ以上教授の発言を探るのは危険だ。ガルドの耳がおかしくなりそうだった。
「大丈夫か?」
「ガルドぉ」
「お疲れー」
「一息ついたらどうだ? ほれ」
気がつくと、ガルドの座る真ピンクのハート型ソファを囲むように、さまざまな顔ぶれが取り囲んでいた。ジャスティンはジョッキに入ったビールを手にしている。
「ん」
もらって一口飲み、もう一口多めに煽ってからガルドは報告を始めた。
「白亜教授の声は聞こえなかった。ブロックされてる」
「キョージュ?」
「ああ。ベルベットと協力関係にありそうだった」
「メロ、聞いたことある?」
「うーん、そもそもアイツの知り合い多すぎー。把握しきれないし、教授の知り合いなんて二人、三人なんてザラだったから……」
「なるほど、判別つかないか」
「で、ガルド。美空については?」
「阿国と通話していたらしい。ベルベットが傍受しようとして弾かれてた」
「阿国……」
「阿国と美空、か。そもそもどんな繋がり?」
「……夜叉彦、美空というのは」
ガルドの目線に夜叉彦が一つ深呼吸してから小さく答える。
「奥さんの名前……朝比奈美空」
「…………そうか」
「阿国と知り合うきっかけなんてねぇ、十中八九、今回の拉致事件に対応する形で出来た『被害者家族連絡会』に決まってるわ」
「ぷっとん、それって自主的なやつ? 美空が参加して、阿国が接触したってこと?」
「そうなるわね」
「対象とベルベットが呼んでいた三橋と、どうもセットで移動していたらしい。奪取チームという単語も出た」
「三橋の奪取をチームで行っていて、ベルベットが協力か指揮してたってことか」
「ん」
「なるほど、美空はそれに加わって……え?」
「む?」
「美空ちゃんは三橋くんと移動してた、は確実ね。三橋くんは奪取チームが奪った、というのも確実。つまり……」
「ベルベットは、美空を奪取チームに加えていた」
「どっ、どういうことー!?」
夜叉彦が後ろに後退り、ファンシーなデザートが乗った猫脚ローテーブルに盛大にぶつかった。ヨーロピアンなティーカップががちゃんがちゃんと音を立てて揺れる。
「ちょっとー」
「どういう、どういうこと!? 美空が、え、だって三橋ってロシア、ロシアで捕まってて、つかま、えーっと、ロシアからどこだっけ」
「北海道の稚内だ」
「稚内! ロシアから近いよね!?」
「えーっと、確か最北端だからそうだねぇ」
「海! 海を超えて三橋と一緒にロシアから稚内まで来たってこと!?」
「あぶな……おっと」
マグナが口に手を当ててハッとする。
「危ないよ、危ない危ない! あぁあー美空ぁー!」
夜叉彦が錯乱している。
ガルドはもう一度詳細を調べるべく、再度リアルのこめかみへ再接続した。
データとして抽出すれば、脳波コン持ちには共有など数秒で事足りる。だからこそ、先に送っておいた報告書が読まれる時間より、榎本とガルドがチートマイスター・ギルドホームへ到着する時間の方が遅かった。
「が、ガル、ガルドっ!」
「うおわっ、なんだなんだ。ぷっとんじゃなくてお前かよ」
ドアを開いてすぐ、掴みかかる勢いで乗り込んできたのは夜叉彦だった。ツンツンとした前髪が当たるほど近く寄ってきた夜叉彦が、珍しく焦った表情を隠さず詰め寄ってくる。
「この、この、報告書さぁ!」
指で虚空をトントン叩いているが、ガルド達には手にしている夜叉彦側の報告書画面が見えていない。榎本は見えているかのように頷いた。
「おう、どーよ。コイツが向こう側を『覗き見』して取ってきた情報だ。すげぇだろ」
「なんで榎本が自慢げなんだよ、すごいのはガルドだけだろ。そんなことより! この『美空』だよ! 美空の情報、もうちょっとない!?」
「ミソラ? ああ、ベルベット傘下から離脱したとかいう」
ガルドは隣で首を傾げ、もう一度こめかみの感覚を鋭利にした。目のピントがぐんと遠くに行き、宙を無気力に見つめたまま棒立ちになる。
「ねぇガルド……あれ? これもう潜ってるの?」
「おう。とりあえず落ち着け、夜叉彦。そっちの椅子までガルドの誘導頼む」
「手を引けばいい? やば、俺今手汗すごいよ」
「手汗エフェクト後からつけてるだけだろ。オートでスイッチオン? まじかよ、おいおい。どうしたんだよそんな興奮して」
「興奮!? 違うよ、動揺だよ!」
夜叉彦の声が遠くに聞こえる。ガルドは夜叉彦に手を引かれている自覚もないまま、なすがままに歩いた。視界には確かにマカロンカラー一色に染まったチートマイスターのギルドホームロビーが見えているのだが、目の奥に届かない。
ガルドは、言われた通り「美空」について調べた。得られるのはベルベットが意識して記録した美空に関するデータばかりだ。客観的なものはない。
<美空ちゃん 対象とセットで移動>
<支援>
<移動>
<対象の奪取チーム 計画通り>
<美空ちゃん 協力表明 チームへ組み込んで>
<移動路確保>
<完了 手配済み区画へ侵入>
<警備ドローン手配>
<阿国チャンと通話してる? 傍受できる?>
「阿国」
「阿国!?」
「阿国がどうした」
ガルドの口から漏れ出た言葉に周囲がワッと身を乗り出した。ガルドの目は相変わらずすりガラスのように周囲をシャットアウトしており、通話ログやドローンへ飛ばしている信号を探るのに夢中だ。
<秘匿暗号通信のため 傍受不可>
<要注意>
<阿国チャンと美空チャンってそういえば知り合いだったワ。うっかりうっかり>
「ベルベット……」
気の抜けた通話記録にガルドはため息をつき、夜叉彦を中心とした会議メンバーはワタワタと憶測に顔を青ざめ落ち着きなく動き回っている。
「あ、あの阿国と美空が会ってる? どうなってるだ外は」
「そもそも美空ってのは知り合いなのか、夜叉彦」
「リアルで最後に会った飲み会の時に言ってただろ? なぁ」
「ジャスが覚えてるとは」
「なにおう」
「あははは! 夜叉彦、ブルブル震えすぎー」
「メロはどうなんだよ、ベルベットに呆れてるぞガルド」
「全くアイツは爪が甘いんだよ」
<急いで頂戴、教授。政府の動きが思ったより早いわ>
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「うっ!?」
ノイズの強い返事に一瞬たじろぎ、ガルドは集中力を切らせた。
「ガルド!?」
「っは、ぁ……強烈なフィルター……あれが……」
白亜教授、だろう。
ガルドは直感した。ベルベットに急ぐよう頼まれていた男性らしいが、年齢も声質も外部にバレないようフィルターをかけている。ベルベットの持つログでこれ以上教授の発言を探るのは危険だ。ガルドの耳がおかしくなりそうだった。
「大丈夫か?」
「ガルドぉ」
「お疲れー」
「一息ついたらどうだ? ほれ」
気がつくと、ガルドの座る真ピンクのハート型ソファを囲むように、さまざまな顔ぶれが取り囲んでいた。ジャスティンはジョッキに入ったビールを手にしている。
「ん」
もらって一口飲み、もう一口多めに煽ってからガルドは報告を始めた。
「白亜教授の声は聞こえなかった。ブロックされてる」
「キョージュ?」
「ああ。ベルベットと協力関係にありそうだった」
「メロ、聞いたことある?」
「うーん、そもそもアイツの知り合い多すぎー。把握しきれないし、教授の知り合いなんて二人、三人なんてザラだったから……」
「なるほど、判別つかないか」
「で、ガルド。美空については?」
「阿国と通話していたらしい。ベルベットが傍受しようとして弾かれてた」
「阿国……」
「阿国と美空、か。そもそもどんな繋がり?」
「……夜叉彦、美空というのは」
ガルドの目線に夜叉彦が一つ深呼吸してから小さく答える。
「奥さんの名前……朝比奈美空」
「…………そうか」
「阿国と知り合うきっかけなんてねぇ、十中八九、今回の拉致事件に対応する形で出来た『被害者家族連絡会』に決まってるわ」
「ぷっとん、それって自主的なやつ? 美空が参加して、阿国が接触したってこと?」
「そうなるわね」
「対象とベルベットが呼んでいた三橋と、どうもセットで移動していたらしい。奪取チームという単語も出た」
「三橋の奪取をチームで行っていて、ベルベットが協力か指揮してたってことか」
「ん」
「なるほど、美空はそれに加わって……え?」
「む?」
「美空ちゃんは三橋くんと移動してた、は確実ね。三橋くんは奪取チームが奪った、というのも確実。つまり……」
「ベルベットは、美空を奪取チームに加えていた」
「どっ、どういうことー!?」
夜叉彦が後ろに後退り、ファンシーなデザートが乗った猫脚ローテーブルに盛大にぶつかった。ヨーロピアンなティーカップががちゃんがちゃんと音を立てて揺れる。
「ちょっとー」
「どういう、どういうこと!? 美空が、え、だって三橋ってロシア、ロシアで捕まってて、つかま、えーっと、ロシアからどこだっけ」
「北海道の稚内だ」
「稚内! ロシアから近いよね!?」
「えーっと、確か最北端だからそうだねぇ」
「海! 海を超えて三橋と一緒にロシアから稚内まで来たってこと!?」
「あぶな……おっと」
マグナが口に手を当ててハッとする。
「危ないよ、危ない危ない! あぁあー美空ぁー!」
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