40代(男)アバターで無双する少女

かのよ

文字の大きさ
上 下
338 / 409

331 いざ行かん北海道!

しおりを挟む
 茨城県、つくば駅から徒歩圏内の商業施設街、築浅の中堅オフィスビル。日本電子警備株式会社が偽装した子会社名義でマンスリー契約している、そこそこ広く無機質なレンタルオフィス。
 中はカオスだった。
「支度を急げ!」
「ボスに報告」
「そっちの荷物は廃棄だ、そんな判断もできないのか」
「東京に戻る人って誰ー?」
 服装も年齢も雑多な人々が殺気立った様子で荷造りをしている。中にはまだPCに向き合い動きを止めている人々もいるが、彼らは全員こめかみからケーブルが垂れていた。
 その中の一角は特に異質だ。
「北海道組、忘れ物ないか?」
「カロリーメイト五箱、ヨシ!」
「充電ケーブルと太陽光パネル、ヨシ!」
「ミルキィちゃんのお洋服ヨシ!」
「要るものを言えよ! 服とか大丈夫なのか!?」
「キッヒヒ、元気いっぱいだなァ。服は現地で買えァいいだろ」
「言ってる場合か! おいお前ら! 遠足気分で行く場所じゃねーぞ!」
「心配ありませんの。ワタクシが主であってコイツらオマケですの」
 都内の倉庫街に詰めていた若者たちの顔ぶれだ。うまく馴染んでいる。その周囲では、大人たちによる指示を出す大声があちこちで響き、共有事項を若手社員が叫び、床に座り込んで有線コードと格闘する再雇用組が笑っている。
「こっちは任せておけ、若いの。ほれ」
 足りない人材を補うためなのだろう。明らかに再雇用のさらに再雇用といった年齢に見える白髪の老人たちは、慣れた手つきで荷造りを手伝っていた。
「いいかぁ? 三橋にそのクマチャンを接続しろ。あとはコイツな」
「っす!」
「自動化とリモートでオールオッケー、後はコッチでやる。おめぇらは三橋本人の様子見守りつつのぉ、この、コイツのランプがどの色かってぇのを監視しろよ」
「っす!」
 三人の大学生が八木の言葉にハキハキと返事をし、手元のメモ帳へペンを走らせた。クマチャンと呼ばれた茶色のテディベアは林本チヨ子が胸に抱えており、八木が手にしている手のひら大の機械は滋行へと渡された。
 マットなブラックカラーのプラスチック製だ。板についた蒲鉾と同じ大きさ、同じ形をしている。スリットが一本入っており、ステータスによって白や赤や青へカラーが変わる仕様だ。
「『カマボコ』はそのぬいぐるみの補助機兼外部バッテリー。出力系全部切ったコイツの発話の代わりなァ」
「仕事終わったらすぐONにしていいよね!?」
「いーぜぇ。できるもんならな。クックク」
「どうせ有線して繋げ直すんでしょ? シゲさんなら出来るもん。ね?」
 鼻息荒いチヨ子に、曖昧な顔で滋行は二回頷いた。
 チヨ子の胸に抱え込まれたぬいぐるみのミルキィは、手足を動かす中のモーターと言葉を発する機能全部をカットされている。何も動かない正真正銘ただのぬいぐるみとなってしまったが、チヨ子はミルキィを大事に抱え直した。抱きしめて感じる温かみは変わらない。
 機能を落とされたミルキィは、腹部の布地を切り取られ、有線接続用のジャック穴がいくつも露出している。一つは既に一本、滋行が持つカマボコへと繋がっている。もう一つ、地面へ向けて垂れ下がっているケーブルは床に直置きされたノートPCへつながっており、男が一人座り込んで黙々と作業していた。
 場にそぐわないティーンエイジャーの女子は、臆することなくエンジニアの男に話しかける。
「白亜教授の協力は? やっぱ無理?」
「ん? 無理ではないが、あの人も意固地なところがあるからなぁ。引き続き連絡をとってみる」
「他の協力者は? 学部は? ヤジコーの研究室とか民間だって色々あるんじゃないの?」
「ゼロじゃないけど、どこもB諮問機関が先に手を回してる。他のと違って商売に直結するから、みんな敵になんかなりたがらないさ」
「むぅ……」
 滋行たち学生三人組と現役高校生のチヨ子は、下働きの域を超えて北海道での「三橋サルベージ」に参加することとなった。チヨ子本人は付属品だ。ミルキィの管理者というポジションとして、最重要アイテムであるミルキィを運ぶことに集中する。
「心配しなくても、ワタクシがなんとかしますの。ガルド様を安全無事に取り戻すため、まずは実験……ってワケですもの。あの爺様より先になったってだけで、ワタクシ別に北海道の被害者が何者だとか興味ないですの」
「それが不安っつーか」
「で? 向こうにいるオネーサンと合流して、ベルベットって人を一発ぶん殴ればいい? 『みず佐野みずき』のこと聞き出さないと!」
「……ええ、ええ。そうですの、その通りですの。でも、そのベルベット本人は国外におりますのよ? それに……確かに『ロンベル六人を手放す気はない』とは思いますが、ベルベット自身、他の敵を潰して回ってるお陰でガルド様たちは確実に無事ですの」
「え? どういうこと?」
 早速茨城空港へ向かうために建物を出ながら、ビルの前に路駐する中型バスへ乗り込む阿国へチヨ子が尋ねる。
 上から目線と舐めた態度があいまってコミュニケーションに難があるタイプだとは思うが、若い面々を相手にすると阿国はいたって普通に見えた。チヨ子も、苦手意識等はない。
「他の犯人、例えばイーラーイ社などが管理を担っていた場合。国や当局の反応次第でいつでもとても危険な目にあう可能性はありましたのよ。人質というのは本来そういうものですの。むかーし、戦争してた国に行った先進国のジャーナリストたちがどうなったか考えれば想像つきますの……あ、画像検索はお勧めしませんの」
「え、戦争ジャーナリスト? その人どうなっちゃったの?」
「ハヤシモ、もう少し社会の勉強しよう」
「えー?」
 数段の階段を登り、レンタカーらしい中型バスの中程、一人席を陣取る。さらに二人掛け座席が数列あり、チヨ子の一行前の座席へ阿国が腰掛け、すぐ隣へは老婦人を座らせた。
「ばあや、現地のコーディネーターに事情を説明して朝比奈さんを保護させて」
「お嬢様、既にその手筈で動くよう指示は出しております」
「そう? ならいいですの」
「わー、本当にバアヤって呼ぶんだ……」
「はじめて見たか? 阿国のマネーパワー。ガルドさんの熱心なファンだからこうしてチームに参加してるけど、元々日電社とは無関係な人なんだぜ」
 滋行がすぐ後ろの一人席に座る。一介の高校生には興味のない話だが、お金持ちの阿国が若かりしころはお嬢様だったのだろうと思えば面白かった。結婚せずそのまま実家で可愛がられた末路なのだと想像できる。
「ふふっ、へぇーそうなんだぁー。節電ポスター貼るような貧乏会社じゃ、アタシたちみたいな若者ぽんぽん飛行機になんて乗せないよねぇ。お金もったいない」
<聞こえてんぞ、ハヤシモ。金のない株式会社で悪かったなァ>
「えへへ、感謝してまぁす。北海道楽しみー」
「再三言ってますが遊びじゃありませんの、危険もありますの。強制帰宅させてもいいですのよ?」
「それはやだ」
「ワタクシは利害の一致でこうして稚内に向かいますけど、別にディンクロンに言われたから行くわけじゃありませんから。監督する義務なんてありませんの、自分の身は自分でお守りなさい」
「とか言って忠告するあたり、あの阿国も丸くなったというか」
「調子乗ってるとバスから蹴り落としますの」
「あはは」
「あ、オヤツあるよ。食べる?」
「……庶民のお菓子には興味がありますの。いただきますの」
「えー意外ー。お口に合うかなぁ?」
「明らかに合わないでしょうが、こういったものをガルド様も召し上がられていたのでしょう? 食べられる機会を逃す理由はないですの」
「え、ガルドさんがチョコ菓子買ってるところなんか想像つかないけど」
「いやでもあの人、微妙な枝豆スナックにハマってた時あるよな。話してるの聞いたことある」
「枝豆スナック? 胡麻昆布味とかあるやつ?」
「そうそう、それ。あれ、美味いか?」
「人によるかなぁー。みずは気に入ってたけど。『薄すぎて分からないくらいの緑臭さが好き』とかなんとか」
「へぇ、ガルドさんと同じ感想言う子もいるんだなぁ」
「そうなの? へぇー、変わった感性の人だね」
「そっちもだろ」
「ァ、えぁ、んゴホゴホッ!! ゴホゴホ!!」
 チヨ子からチョコ菓子をもらって頬張っていた阿国が勢いよくむせた。隣に座る老婦人が背中をさすって水筒のコップに飲み物を注いでいる。
「ヒュ、お、美味しいですの!」
「お嬢様」
「が、ガルド様がリアルで何をお召し上がりになっていたかなんて存じ上げませんが、きっとチョコとかケーキとか、カフェで出るような流行りのドリンクとかお召し上がりになってたと思いますのー!」
「阿国、ガルドさんは黙々とジンジャーエールに牛すじおでん合わせて食ってた人だぞ」
「そうそう、んな女子高生みたいなメニュー好きじゃないって。趣味から何からコテコテのおっさんだったし」
「ネナベでもない限り口にすらしたことないんじゃないか?」
「ひぅっゴッホゴホ」
「お嬢様!」
 阿国は顔を真っ赤にして笑顔を引き攣らせている。
「阿国さん大丈夫ー?」
「へ、平気ですの……空港に着くまで、ちょっと潜りますの……」
 そう言ってこめかみにヘッドフォンのような機械をマウントし、阿国は目を閉じた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

VRおじいちゃん ~ひろしの大冒険~

オイシイオコメ
SF
 75歳のおじいさん「ひろし」は思いもよらず、人気VRゲームの世界に足を踏み入れた。おすすめされた種族や職業はまったく理解できず「無職」を選び、さらに操作ミスで物理攻撃力に全振りしたおじいさんはVR世界で出会った仲間たちと大冒険を繰り広げる。  この作品は、小説家になろう様とカクヨム様に2021年執筆した「VRおじいちゃん」と「VRおばあちゃん」を統合した作品です。  前作品は同僚や友人の意見も取り入れて書いておりましたが、今回は自分の意向のみで修正させていただいたリニューアル作品です。  (小説中のダッシュ表記につきまして)  作品公開時、一部のスマートフォンで文字化けするとのご報告を頂き、ダッシュ2本のかわりに「ー」を使用しております。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

処理中です...