40代(男)アバターで無双する少女

かのよ

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305 酔うと饒舌、だが真摯

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 癒し目線の動物特集番組で見たことがある。ガルドはほかんとしている相棒を見ながら、持ち上げられた子犬を思い出していた。何が起こっているのか分からないまま、榎本はされ
あるがままに夏祭りの群衆に注目されている。
「あっはは! こりゃ目立つなぁ!」
「主役のお通りだ。開けろ開けろ~」
「榎本って案外軽い?」
「きゃはは! なになに、どうしたの榎本~」
「なんだ、めちゃくちゃ浮かれてるじゃないか。ガルドにしては珍しい」
「閣下!?」
「よぉGEコンビ! メンタル耐性高めの狂人がそんな子どもみたいなはしゃぎ方するなんてな」
「つっついてやれ」
「つんつん」
 全プレイヤーが設定できる身長の最大値より小ワザで数センチ大きなガルドが浮かせている榎本を、周囲の群衆は見上げる形で話しかけていた。ごった返しているが意図的に若干開けた方角へ進むと、自治の行き届いている鈴音の顔ぶれが率先して先回りし道を開けてくれる。ヴァーツは固まっている榎本へウザ絡みし、からかって遊んでいるようだった。
「つっつくな、くすぐ……くすぐすった? んん?」
「ウケる、めっちゃ酔ってる~」
「久しぶりに泥酔させてやったんだ、感謝しやがれ」
「そうそう。気張りすぎなんだよ」
「英雄なら酒と色を好まないとな!」
「前時代的だが、こんな祭りでもないと馬鹿になれない生真面目さってのは考え物だな」
「ガルドもだろ?」
「……ん?」
「久しぶりの休暇だろ? な」
 ヴァーツの男が歯を見せて笑う。確かに、のんびり過ごせと言われても気を張っていたのは事実だ。ログアウトを経験した二人だけが持つ孤独な悩みを、夏祭りの間はすっかり忘れることが出来ていた。初めて酒も飲むほど浮かれている。
「ふ……」
 ガルドも一緒になって歯を見せて笑う。楽しい。
「いいねぇ! 浮かれてるねぇ!」
「あの堅物シルバーパックが酒飲んで榎本遊んでるんだ。夏祭り効果すげぇな」
「ありあとなぁ~っ!」
「おうよ。いや榎本、お前じゃないって。ガルドだってば」
「あら、お開き?」
 いつの間にか足元の隙間へもぐりこんできたぷっとんが並走している。するっとやってきたのはゲームスキルの高さによるものらしい。奥で日本人顔のトレースアバターが特徴の情報復興庁組が慌ててこちらに来ようとしているのが見えた。わたわたしながら人の波をかき分けようとし、大柄なアタッカー集団に弾かれて戻されている。
「花火はどうだった? 楽しめたかしら?」
「おーう! さいこうだった! っはは!」
突然大声を上げて榎本が笑った。脳皮コンの疑似だが、しっかり泥酔しているらしい。リアルでもよく見る典型的な酔っ払いの返事だ。
「基本企画したのは鈴音の子たちよ。コッチは円滑な運営に若干の助力をしたに過ぎないもの」
「だとすると、礼を言う相手はMISIAたちか」
「ところで榎本ってば、そのまま帰るの?」
「言ってあってくれよぉ、ぷっとーん」
「ガルド、どうしてそんな風に運んでるの?」
「榎本を見せびらかしてる」
「楽しそうだからこのまま帰りなさい、榎本」
「んなぁー! おいー!」
「周りも盛り上がってるし、いいんじゃない?」
「よくない。ガルド、お前も……そもそもだなぁ……ひっく。もっと慎重に動くとかあるだろ、ほら」
「うわっ、酔っ払いの長いお説教始まりそうな予感!」
「ガルド、そのままギルドホームまで連れていけ」
「よしきた」わらわらと集まっていたヴァーツの男たちに見送られながら、ガルドは榎本を連れて広場からギルドホームゲートへと進む。通り沿いに集まっているプレイヤーたちがみんな、榎本に一言二言声を掛けてほほ笑んでいる。
 ついでにガルドにも目を向けてくれるが、榎本への態度に比べればドライだ。だが十分ガルドは嬉しかった。なにより、相棒が評価されていることの喜びが強い。掛けられている声はただの挨拶だが、多様なプレイヤーたちが揃ってこちらを向いてニコニコしているのは異様だ。オンラインゲーム上では本来ありえない光景である。
「いい夢見ろよー」
「また寝すぎるなよ?」
「お疲れ~っ!」
 所属の垣根なく、榎本はフレンドリーに誰とでも交流を持つ男だ。結果、狭く浅い交流関係しか持てないガルトに比べて誰でも好かれている。ガルドはなるべく影を潜め荷車に徹しながら、酔っぱらっている相棒が「おう」だの「ういー」だのと返事をする様子を後頭部から眺めていた。
 慕われている自慢の相棒は、名実ともに「英雄」になりつつあるらしい。仲間を救うために働いたという激務の実績があり、皆からの尊敬を集めている。かつコミュ力があり、他人を思いやることができ、誰からも好かれ、向上心を忘れない。ガルドたちロンベルの五人から見ると少々うるさい部分があるものの、それすらいじり甲斐の良さとしっかり者という印象に変わる。
「ったく、さわがしー奴ら、だぁな」
「そうだな」
「だがまぁ、いい奴らだ。アイツらのためなら頑張れるってもんだ。なー、あいぼー」
 そう笑いながら話す榎本は、身柄を拘束されているにも関わらず陽気だ。人を許す懐の広さも垣間見える。ガルドは感心しながら相棒を持ち上げ続けた。
「榎本がいれば、みんな笑顔だ」
 閉鎖されたこの世界にとって、本当に必要なリーダーは榎本なのだ。今日見た祭りの光景が自分のためではなく、自慢の相棒を元気付けるためのものだと理解した。そう思えるだけの男であり、自慢であり誇りでもある。
 そんな立派な男を歩かせるわけにはいかないだろう。ふわふわとする足でゲートまで榎本を持って入り、半透明の扉からギルドホームへ移動する。帰ってきた我が家の景色に、先ほどまでの非日常を実感する。
 南の島も非日常だった。仲間たちが作ってくれた夏祭りも非日常だった。危険な非日常と楽しい非日常、そのどちらも榎本と共に味わい、同じ家に帰ってくる。
「笑って過ごして、待ってようぜ~。最高だろー?」
「ああ……幸せだ」
 言葉にするとシンプルだった。ガルドは確かに、非日常を味わいながら帰ってきた我が家の安心感を幸福だと感じている。
「幸せ、か。こんな暮らしでも十分だ。だよな?」
「ああ」
「俺も、お前と帰ってこれて……その、なんだ。幸せだぜ。へ、こんなん照れんだろーが」
 ロンベルのギルドホームに入ってから榎本を降ろす。重厚感のあるドアの先に続くラウンジは六人それぞれが手作りした小部屋が並びテイストが雑多だが、深いウォールナットの内装が落ち着いたイメージに整えている。見慣れた我が家のリビングだ。自分達六人以外はシステム上遊びにも来られない完全プライベート空間になっている。
 両手で持ち上げていた榎本は、降ろされてからもそのままガルドを見ずに背を向けている。酔いの再現が継続しているのだろう。水を飲むとリセットされる仕様になっており、ガルドは部屋奥のバーカウンターへ行こうと榎本を追い越した。
「ガルド」
 数歩追い越してから、背後の榎本がガルドの装備を小突いた。振り返ると、数センチだけ背の低い榎本がガルドの腹を真っ直ぐに見ている。真顔でとても真剣そうに見えるが、飲酒したことを踏まえると理由など理解できないだろう。相棒はいつもそうだ。ガルドはどこに自慢するわけでもないが、榎本を熟知していることに鼻が高い思いになる。
「どうした」
「そのはらから出たんだな?」
「……Aか?」
「なんで、よりにもよってお前、お前の……なんで腹? なぁ?」
 榎本が真面目な顔のままガルドの腹を撫でた。突然の接触にびくりとしつつ、ガルドは質問に「さぁ」とだけ返事をした。
「別にお前のざひょーならよ、なぁ、別にどこだって……足だっていいだろお? 腹はダメだろ。お前の腹は大事なんだぞ!」
 後ろに一歩ふらついてから、榎本はガルドの腹を再び両手でペタペタと触って叫んだ。往来なら静かにするよう嗜めたくなるくらいの大声だが、誰もいないホームにわんと響くだけだ。ガルドは装備の上から触られている小さな触感に思わず笑った。
「くすぐったい」
「いいか~!? ガルドのここにぁなぁ、俺の相棒だ、俺が許す奴だけだ!」
 何か怒っているらしいが、支離滅裂で意味が分からない。
「Aはダメか」
「ダメだね! よりにもよってあの胡散臭い、犯人の一味で、ベルベット絡みだろ。ダメダメ。お前を一番に守る男でないと!」
「Aの優先順位のロジックだと一番は自分らしいが」
「そーういう意味じゃー、ねぇってのー……」
 ふらつく榎本がゴツンと音を立ててガルドの腹に頭突きした。派手さを求められて着込んだゴールドの鎧は、普段より装飾的で鋭いデザインをしている。痛くないのだろうか。覗き込んで肩から支えて顔を上げさせ、榎本に「どういう?」とだけ尋ねた。
「……気に食わねぇよ、何もかも。くそっ、叶野もAも、他の奴らもだ。お前を好き勝手するやつは全員ブン殴る。止めるな、ガルド。お前が許そうが俺はぁ、許さない、からな」
「ポッドの管理なら、生きるために必要なことだ。許すも何も、してもらわないと」
「しょうがねーってなあ、わーってる。わーってるって。その上であのアヒルが、ログイン
ぽいんとぉ、おまえの、腹に……」
 榎本は下唇を噛んでいる。Aがログインした瞬間はマグナとガルドしかいなかった。大方マグナに状況を説明されたのだろう。他の四人とは違い、榎本にはAとの長い交渉期間と慎重かつ極秘のやりとりで芽生えた信頼関係について説明している。その分榎本はAに対し過敏な反応をしてくるようになってしまった。
「Aに他意なんて」
「考えすぎだって笑いたきゃ笑えーっ! だが俺はアイツが『ヤバい奴』だと思ってっからな!」
「やばい?」
「狂気がかいまみえるってこった」
「狂気」
「アレは男だ! そんでもって、どんななりだろうとお前を女だと思ってる! じゃなかったらワザワザみずきだなんて呼ばねぇんだよ!」
 立っていられない榎本がガルドの腕に体重を預けてきている。支えを欲しがり、手を金色の鎧で覆われたガルドの胸へ当てた。一瞬こわばるが、榎本の手は壁にでもつくような自然さで広がり力を込めてくる。
「ガルドはガルドだろ、相棒。どっちもお前だ。今のお前に女を押し付けるのは違う」
「……」
「男が女の腹から出たい、なんざ、狂った『回帰願望』なんだよ。常人のもんじゃない」
「…………榎本。Aは、あの口調、声も、思考も、AIの……」
「本気でおもってんのか、相棒」
 
「Aが人工知能だって、マジで信じてんのか」
 ガルドは思わず、榎本の肩を押しのけるようにして距離を空けた。

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